黒猫のお守り①
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「ありがとうございました」
私は師匠に深く頭を下げてお礼を言って師匠の前に座った。
無事に焼身自殺をした男を向こう側へ渡す事が出来たのだ。
十数年も苦しんだのだから悔いる思いは強かったのだろう
「油断は禁物ですよ……光さん!」
師匠は少し呆れつつも私の頭をポンポンっと軽く叩いてハグしていた。
「すみません。カバンに入れたつもりでいたので、ほんと…油断してました」
私は、師匠の背中を優しく叩いてすぐに離れた。
師匠は20代前半に見える美男子なんだけど……実はもうすぐ40歳らしい。
少し中性的な容姿をしているのでギュッとハグされてもドキドキする事は無い。
まず、間違っても恋心を抱く心配は無いだろう。
「聞き分けの良い物ばかりでは無いのですよ!」
師匠は念を押すように言った。
私に付いてくるのは、地縛霊がほとんどなので清めの塩を使っても状態によっては話が通じない事もあるので命に関わる事もあるのだ。
それに、こんな私の存在を疎ましく思う悪霊もいるらしいので、気をつけるようにと師匠からはうるさく言われていたのだった。
「また少しですが、光さんの力が強くなってますからね。あれでは抑えきれないかもしれないと心配だったのでこれを用意しておきました」
師匠は黒猫のマスコットを私に差し出していた。
「えらい可愛いお守りですね?(笑)」
私はクスクスと笑いながらキーホルダーを受け取った。
「ずっと身につけていて貰わないといけないですからね。光さんが気に入ってくれそうなものに力を込めただけです。光さんは猫がお好きですからね」
確かに今回のお守りは肌身離さず持ち歩くだろう(笑)
「それから、一人暮らしにはもう慣れましたか?」
心配そうに師匠は私の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫ですよ(笑)自炊にも慣れてきたし手を抜こうと思えばコンビニもありますからね。今の世の中便利に出来てるので不自由はしてません」
海外赴任していた兄夫婦が先月帰国して両親と同居する事になったので私はこの機会にと家を出て一人暮らしをする事になった訳なんだけど……両親も龍安師匠も私が心配で仕方がないらしい。
「光さん! 何度も言いますが本当にこのお守りは肌身離さず持っていて下さいね」
師匠は更に念を押すように私に言った。