光と影③
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……また、声が聞こえた。
あの声が、すぐ側まで来ているのがわかった。夜刀もナナシも…全神経を集中して警戒していた。
もちろん……師匠も、織衣さんも警戒している。それでも声は、すぐ近くで聞こえていた。
「光……隠れたって無駄だよ! この結界も僕には無意味だ!」
叫び声と同時に…何かが、裂けるような凄い音がした気がした。
音に驚いた私は、思わず目を閉じてしまった。そして、ゆっくり目を開けてみると……目の前には、真っ黒なオーラに覆われた黒髪の20代位の(こんなことを言ったら真澄さんに怒られそうだけど…)見たこともない……凄いイケメンが立っていた。
ナナシが私の前に立って構えている。
そして夜刀が耳元で叫んだ。
「社へ向かって走って! 早く!」
夜刀は、ナナシと共に…そのイケメンに向かって行った。私は、夜刀に言われた通り走って社へ向かった。
織衣さんと師匠も、私の後ろを護衛しながら走って来ていた。
すると……すぐに織衣さんが放った使者の断末魔の叫びが、後方から聞こえてきた。
「お前たちのその力は、僕には通じない! 光は、僕が連れて行く……僕には光が必要なんだ!」
振り返った瞬間に…すぐ耳元で声がしたかと思ったら、全身に激痛が走り……意識が遠くなって、その後のことは覚えていない。
きっと、私は……逃げられなかったんだ。
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私は、何の抵抗も出来ないまま…あの影の力を持つ黒髪のイケメンに連れ去られてしまったようだ。
意識を失ってから、どれ位の時間が経っているんだろうか……。
私は、目を覚まして自分が生きていることをまず確認した。そして、夜刀とナナシを呼んでみたが…返事は無かった。
ここは……見た限りでは、どこかの廃工場のようだ。
すぐに私を殺さなかったことには、きっと何か目的があるんだろうけど…これからどうするつもりなんだろう。
(やっぱり……殺される?)
それに……さっきから、何故か力が解放出来ない。
影の力ってそんなことも出来るんだろうか…身体を起こしながら、私が思案していたらあの声が聞こえた。
「殺されたくなかったら、逃げようなんて考えないことだね」
声は聞こえるけど……姿は見えなかった。
「僕の一族たちは、光を殺せって言うかもしれないけれど…光が、逃げようとしない限り僕は殺したりしないからね」
私には、何故か影の力を持つ彼が凄く悪い人間のようには思えなかった。
話す声はとても優しくて…真澄さんや師匠を思い出させる。
「名前…まだ、名前を教えてもらってないよ」
私は、少し親しげに話しかけてみた。
「僕の名前は……夜刀。光の黒猫と同じ名前だよ」
彼もまた、親しげに質問の答えを返して来た。
「……夜刀が人間になったみたいだね」
私は思ったままを言葉にしていた。
「……光は僕を怖がらないんだね」
クスクスと笑いながら、彼は私の前に姿を現した。
「夜刀って……本当に人殺しとかするの?」
「必要な時はね。……僕は、容赦なく誰だって殺せるよ」
私の問いに…夜刀は、正直に答えて寂しそうに笑った。
何故か、親しみさえ感じてしまうこの敵にどうしても人を殺したり、この世の中を思い通りにしてやろうみたいな悪意を感じられなかった。
彼は、少し目を閉じて考えてから……また話し出した。
「僕を助けることが出来るのはね。光だけなんだ。あいつらは、ずっと隠し続けてたんだ。僕の力を悪用するために光の力を遠ざけたんだ…でも、やっと見つけて会いに来たんだ。僕たちのこの力を抑えることが出来るのは……光だけだからね」
私が、夜刀を助ける? 私には夜刀の言っていることが、よく理解らなかった。でも、彼が敵では無いと言うことは……何故か心で感じていた。