光と影①
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泣き崩れた徹兄を宥めるのは、大変だったけど……なんとか徹兄にも真澄さんとの婚約を認めてもらえたので…真澄さんは満足そうだった。
後日、改めて織衣さんと挨拶に来ると…両親に頭を下げて真澄さんは帰って行った。
翌朝、徹兄は仕事が残っているからと…私とは口も聞かないまま…始発で出張先の博多へ戻った。
「気にせんでええんよ! その内…落ち着くと思うし、いつまでもシスコンバカ兄貴でおられても困るしね」
美郷ちゃんは、笑って私を元気づけてくれた。
そんな優しい美郷ちゃんを見て……何か違和感を感じた私は、もう一度美郷ちゃんをよく見た……。
「フフフ…気がついた?」
美郷ちゃんは、自分のお腹を擦りながらニヤニヤしている。
「もしかして……赤ちゃん?」
「そうやで! もうすぐ六ヶ月になるわ」
「徹兄は…徹兄は、このこと知ってるん?」
驚いて私が聞いたら、美郷ちゃんは凄く意地の悪い顔をした。
「本人が気付くまで放置中やねん。さすがにお義母さんやお義父さんには、話してあるけど……。この分やと…産まれるまで気付かんかもな!」
美郷ちゃんは、また…お腹を優しくさすりながら言った。
初めてのお産やのに…美織ちゃんは全然不安そうではなく……あっけらかんとしていた。
このまま気付かずに子供が産まれたら……きっと、徹兄は慌てふためくんやろね。
*****
翌日…仕事を終えて会社を出ると、真澄さんが待っていてくれた。
私は車の中で、昨日のその後の話をして美郷ちゃんが妊娠六ヶ月だと…真澄さんに一応報告しておいた。
「そうですか。女の子だったら、徹哉さんはきっとメロメロでしょうね♪」
真澄さんはそう言うと、凄く意地の悪い顔をして笑っていた。きっと…頭の中で、その状況を想像しているに違いない。
「結婚なんですけど…徹兄の赤ちゃんが生まれて落ち着いた頃にしたいと……私は思ってるんです」
「そうですね。そのほうが良いかもしれないですね」
私の提案を…真澄さんは、快く承諾してくれていた。
年末年始に…色々と依頼が入ってしまった真澄さんは、また明日から関東へ行かなければと名残惜しそうだった。
「もしも、何か…光さんに起こったら私はすぐに戻って来ますから……安心して下さいね」
別れ際に真澄さんは、真剣な顔をして念の為に守りの者は置いていくと言っていた。
確かに……心配されても仕方が無いかもしれない。夜刀を身につけていても…最近やたらと黒い影を見るし声も聞こえる。
夜刀も真澄さんに、私の力を抑えきれないと言っていたらしい。
出来るだけ…自分でも抑えようとしているのに……あの日から上手く制御が出来ていない。
だから…これは必要なんだと言って、守りの者を置いていってくれた。
「真澄は光が一番だからね。とても強い守りの者を置いていったみたいだ。これで少し昼間に安心して休めるよ」
夢の中で、夜刀はそう言って笑った。
夜刀は、夜刀というだけに……やはり昼間は力が弱まるらしい。
それにしても……こんなに自分でも、自分の力を抑えきれないなんて…何なんだろうか? 今でも、少し油断すると声が聞こえる。
ずっと……この間から聞こえてるあの声が少しずつ近づいて来ているような気がする。
「もうすぐ…もうすぐだ…あと少し」
まだ遠くて全部は聞き取れていない。
でも夜刀も嫌な予感がすると言っていた。