母親と地縛霊①
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あれから、一週間が過ぎようとしていた。
真澄さんは、3日前にまたややこしい依頼があったようで…しばらく関東の方に行くと言ってわざわざ私にホテルの連絡先などを教えて名残惜しそうに出発した。
徹兄もしばらくは博多へ出張しているようだし、しばらくは平和に暮らせそうだ。
私は静かすぎて変な感じだったけど、普段通り仕事をしていた。
「この間は、ほんまお世話になりました」
祐介が、休憩時間に私にこの間のお礼を言いに来ていた。
「これ、休憩の時に順子さんと食べて下さい」
祐介は、どこから情報を仕入れたのか? 私の好きなお店のプリンを手土産に持って来た。
「休憩室の冷蔵庫に入れておきますね」
気を利かせて、部署専用の休憩室の冷蔵庫に持って来たプリンを入れてから、祐介は軽く会釈して持ち場へ戻っていった。
「もうすぐ休憩やから、一緒にお茶していけば良かったのにね」
順子が残念そうに私の背後に立って、私の肩を揉みながら言った。
「部長も外回りみたいやし、ちょっと早いけど…休憩しよか?」
「するする~! 休憩休憩~」
丁度やっていた仕事も一段落していたので、順子を誘って私もすぐに休憩室でのんびりすることにした。
「祐介くんの件、大変やったんやろ?」
順子はプリンを食べながら、少し申し訳無さそうに…この間のことを聞いて来た。
「確かに面倒やったけど、師匠も真澄さんも助けてくれたからなんとかなったし、沢山の魂を救うことが出来たし…十年も死んでから苦しんでた二人が、幸せそうに向こう側へ行くのを見送れたからええよ」
私の言葉を聞いた順子は、ホッとした顔をして…今度は好奇心満々の顔をして聞いて来た。
「それで? 光は真澄さんとは、いつ結婚するの?」
「ないない! 結婚なんか…まだまだ考えられへんし、別に真澄さんとは恋人同士でも何でも無いもん!」
私が真澄さんとの結婚を否定したら、順子は残念そうだった。
「祐介くんが、二人共ええ雰囲気やったって言うてたから…なんか進展したんかと期待してたのに。ほんまに何も無いの? チュウもして無いの?」
私が真澄さんと何も進展していないことに恋話好きの順子は、ちょっとつまらなそうに口を尖らせていた。
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さすがにチューは無いけど……会う度に真澄さんが私にハグする回数が増えていることに…私は戸惑いを感じていた。
でも、その胸の内を順子に話すつもりなど私には無かったので、うまく話をすり替えることにした。
「順子はどうなん? 営業の宮田君とはあれからどうなってるん?」
私は顔を近付けて真剣な顔で、順子に聞いてやった。
「付き合ってるよ。……でも、まだ結婚までは話が進んでないねん。なんか向こうの実家がややこしいことになってるみたいで最近なかなかゆっくり会われへんのよ」
順子は少し苦笑いしながら、スマホのメールを確認していた。
「今日もやっぱり、無理そうやわ」
「ややこしいってどうややこしいん? 何か揉めてるん? それとも、誰か具合が悪いとか?」
肩を落として…大きな溜め息を吐いている順子が、つい気になって私は聞いてしまった。
「優さんが言うには、お母さんが倒れて意識不明のまま…2年も経つらしいねんけど、最近になって…兄弟で延命するかどうかを揉めてるらしいねん」
話終えると順子はまた、大きなため息を吐いていた。
確かに……彼と付き合い始めて日が浅いから、どうするべきかなんて順子には口出し出来るわけがない。
それに、その母親も何だか不憫に思えてきた。
身体は寝たきりなんだろうけど……きっとその側で魂が、子供の話を聞いているはずだから、自分を生かすか殺すかなんてことを…子供が言い争っている様子をとても複雑な思いで見てるはず……。
「順ちゃん! 宮田くんのお母さんに会いに行こう!」
私は、どうしても我慢出来なくなってしまって…順子と一緒に宮田君のお母さんに会いに行くことを決めていた。