第76話 営業妨害
晴家さんが朗読会をやっていたので聞きに行ったわけだが、結論から言うととても感動した。劇じゃないので場面を脳内で補完するしかないわけだが、意識して脳を使う必要はなかった。変な例えだけど、脳に直接映像をインストールされた感じだ。読み方が上手いからなのか、脚本がいいからなのか、あるいは両方か。
「臨場感すごかったねぇ」
「……うん」
「晴家さんって普段は落ち着いた声だけどさ、あんなに感情を込めて朗読できるんだね。最近は文章を読み上げてくれる電子書籍とかあるらしいけど、晴家さんそういう仕事できるんじゃないかな?」
「……うん」
「はは、さすがに声優をナメすぎかな? でもわかるでしょ? 俺も友達として鼻が高いっていうか、キミも……」
「………………」
あれ? 雲倉さんがやけに静かだぞ? 朗読会の最中は目をキラキラさせてはずなのに、感想を語るターンになった瞬間大人しくなったぞ?
あっ、余韻に浸ってるのかな? じゃあ俺も空気読んで静かに……。
「アイス」
「ん?」
「アイス奢って」
余韻を邪魔された怒りか、急に乞食化しだしたぞ。俺も甘いもの欲しかったし、スタミナ丼のお返しに何か奢りたいと思ってたところだよ。でもさ……。
「アイスって俺のクラスぐらいしか出してないんじゃ……」
「で? 早く行こ?」
「いや、俺はその……」
「早く行くよ、ヤリチンクソ野郎」
なんですか、その不名誉な蔑称は。ちょっ、引っ張らないで。俺自分のクラスの出し物一切手伝ってないのに、美少女を連れて遊びに行くとか、ヘイトやばいって。
わかるでしょ? 雲倉さん? 俺の肩身、もう限界まで狭まってるんですよ?
「お金だけ渡すから、雲倉さんが買いに……」
「うるさい」
なんで怒ってるの? さっきまで楽しくデートしてたのに、なんで急に不機嫌モードになったの?
「デートを重ねることでゆっくりと関係を築いて交際なんて、こんなヤリチン相手にする作戦じゃなかった」
なんの話ですか? っていうか俺ヤリチンなの? 深い関係の友達にしか手を出してないんだけど。
「俺は少しずつ愛を育んでいきたいと思って……」
「その結果、日替わりで女の子抱いてるじゃん」
それはまあ、別にいいじゃないですか。あれ、誤解されてるのかな? 晴家さんと雨宮さん以外、一切手を出してないよ?
「もうムードとかどうでもいいからさ、もう私と善吉君は恋人同士。OK?」
え、何その急展開? 理解が追いつかないんだけど、とりあえず足を止めてくれないかな? アイス屋行くのマジで嫌だし、っていうか恋人って、え? 俺らここまで良い感じの距離感で……だから止まってよ!
「ちょ、色々と待ってよ! 雨宮さんとかと話し合わないと……」
「いらないよ。その議題については女子会で議論されつくしてるから」
え、女子会って会議の場なの? っていうか議論されつくしてるってどういうことなの? 俺、呼ばれてないんだけど? 俺抜きで進めていい会議じゃなくない?
「止まろ? 一回足止めよ?」
「止めないけど、言いたいことがあるなら聞くよ?」
「気まずい! 俺、ハブられてるし! 仕事ないし!」
「金払うんだからいいじゃん」
「嫉妬されるって! 雲倉さん可愛いし!」
「……」
おっ……? 止まってくれた?
よかったぁ……後一分かそこらで、店だったよ。もう少しで、仕事せずに女とイチャつくクズ野郎の烙印を押され……。
「可愛い彼女を自慢しにいこうぜ!」
「雲倉さん!?」
さっきの倍くらいの膂力で引っ張られてるんだけど、どうしたのこの人? というかマジでカップルになったの? あんな適当な告白ある? いや、告白ですらなかった気がする。勝手に確定され……ちょ……マジでやめ……。
「店番ってローテーションでしょ? 私達のラブラブデートは、とっくにクラスメイトに見られてるよ」
「それはそうなんだけど、違うじゃん? 自分とこの出店にいくのは違うじゃん?」
「いいからいいから」
そりゃキミはいいかもしれんけど、俺がね? ああ……ついに到着してしまった。
うわっ、しかもチケット販売してるの雨宮さんじゃん。わざと? 狙った?
で、アイス作ってるの山中さんだよ。何故か知らんが、俺の局部をグチャグチャにすると脅してきた山中さんじゃん。タイミング悪すぎない?
「おっ、熱々だね! ひゅーひゅー!」
雨宮さん、目が怖いです……。
「カップル割お願いしまーす」
そんなもの存在……うぶっ!?
な、なんで急にキスしてきたの!? しかもめっちゃ濃厚な……苦しっ……。
「ごめん、なんて? 頭かち割り?」
雲倉さんの視界占有率が非常に高いけど、横目で見ただけでも雨宮さんがキレていることぐらいわかる。っていうかキスが長すぎる。
「ほら、チケット二枚ちょうだいよ」
「クラちゃん? 糸引いてるよ?」
「引かせてる」
……本来だったら気持ちの良いキスだったろうね。でも、四方八方から視線を浴びてて、それどころじゃないよ。気まずいんだけど、なんでこの人平気そうなの? なんでウットリしてるの?
「善吉君、もう一回する?」
「……後ろ並んでる人いるから」
前のカップルがイチャイチャしてたら、普通はイライラするよね。でもね、キスが濃厚すぎたせいでイライラ通り越して、ドン引きしてらっしゃるよ。突拍子もなさすぎて、動画を撮る野次馬さえいないよ。
「悪いね、雨宮さん。店番で忙しいのに、熱々のキッスを見せつけ……」
「いいよ? 私なんて、ファーストキスは鳩山君から無理矢理されたし」
……雨宮さん? 一瞬で空気が冷えたんだけど、何してくれてんの?
「ディープキスなんて気持ち悪いと思ってたんだけど、無理矢理されると……興奮しちゃうもんなんだね」
雨宮さん? マジで何してんの? 何言ってんの? なんで挑発した? なんでクラスメイトの前でそんな話をした?
「善吉君、今ここでセックスしない?」
雲倉さんは雲倉さんで、考えうる限り最悪の対抗をしてきたし。キスでもヤバいのに、エッチなんてするわけないでしょう。停学待った無しだよ。
「雨宮さんとヤったって噂マジだったのか……?」
「嘘だろ……? 鳩山は雨宮さんに暴力を……」
「ディープ……? 嘘だっ……雨宮さんは俺のことが好きなはずなのに……」
「雲倉にまで手を……」
あーあ、なんか騒がしくなってきたぞ。これもうアイスどころじゃないというか、文化祭どころじゃないぞ。なんでこうなるかなぁ……。




