神様にお願いしたいこと
※武頼庵(藤谷K介)様主催「万物の神様企画」参加作品です。
「ねえ、パパ、ママ、かずや兄ちゃん。『神さま』ってホントにいるんだよね?」
夕ご飯の時、妹のゆんが唐突に謎の質問をしてきた。
「ええ、もちろんいるわよ。あちこちに色んな神様がいて、ゆんちゃんのことを見守ってくれてるのよ」
ママが答える。まあ、うちはクリスチャンじゃないから、そのあたりが無難な答えかな。
「そっかー。じゃあ、おねがいごとをしたいときは、それにピッタリあった神さまにしたほうがいいんだね」
「お、何だ、ゆん。何か神様にお願いしたいことでもあるのか?
パパたちにもその願い事、聞かせてくれないかな」
「うん、ゆんちゃんね、『おとうと』か『いもうと』がほしいのっ!」
『──!?』
パパたちの顔が一瞬でこわばる。わかりやすいなー。
「ね、ねえ、ゆんちゃん。どうしてそんな風に思ったのかしら?」
「だって、ゆんちゃん、かぞくのなかでいちばん年下でしょ。
こないだアヤちゃんちに行ったら、赤ちゃんがいてすっごくかわいかったんだ。
ゆんちゃんも『おねえちゃん』になりたいんだよ!」
「で、でも、だな。弟とか妹が生まれるってのは大変なことなんだぞ。
欲しいからといってすぐに出来るというものでもないし──」
パパ、ちょっと動揺し過ぎ。
「でも、アヤちゃんママがいってたよ!
パパとママがなかよしなら、おとうとかいもうとがうまれるかもって!
ウチのパパとママはなかよしだから、だいじょーぶだよね!?」
うわー。アヤちゃんママ、それは間違いじゃないけど無責任な答えだなー。
「ちょ、ちょっと待ってね、ゆんちゃん。子どもを産むには経済面とか生涯設計とか、色々なファクターがあって──」
ママ、それじゃゆんには伝わらないって。目を白黒してるじゃん。
「ねえ、かずや兄ちゃんはどう思う? おとうとかいもうと、ほしくない?」
「うーん、僕はゆんがいれば十分なんだけど。
──そうだなぁ。ゆんがもっといい子になったらそのうち生まれてくるかもな」
「えー、うっそだー」
あれ? 我ながらうまくかわせたと思ったんだけど。
「それだと、ゆんちゃんが生まれたとき、かずや兄ちゃんが今のゆんちゃんよりずっといい子だったってことでしょ。
そんなのしんじられないよ」
ありゃ、失敗だったか。
「──そ、そうだ、ゆん。サンタさんにお願いしてみたらどうかな?」
お、パパ、その作戦で来たか。クリスマスはまだだいぶ先だし、その頃にはゆんも忘れてるかもしれないしな。
「──ふう。わかってないなー、パパ」
あれ、ゆんはやれやれといった顔だ。まだサンタさんのことを信じてると思ってたんだけど。
「サンタさんが赤ちゃんをつれてきても、それはよその子じゃん。ほんとうのいみでの『おとうと』とか『いもうと』じゃないよね」
うーん、今日のゆんはなんだか手強いぞ。
パパもママも、困った顔を見合わせてる。しょうがないなー、ここは僕が手助けしておくか。
「なあ、ゆん。僕が本当のことを教えてあげるよ」
「え、ほんと!?」
ゆんは目をキラキラさせてるけど、後ろのパパとママはあ然としてる。
あれは『小学生なのにどこまで知ってるんだ?』って顔だな。
今どきの小学生はそれぐらいわかってるって。
「ああ。赤ちゃんが生まれるかどうかを決めるのは──はっきり言って『運』だ」
「『うん』?」
「運がよければ生まれてくるし、悪けりゃ生まれてこない。神様にお願いしてもいいけど、それでも生まれてこなかったら、パパかママかゆんの誰かの運が悪かったってことだから、その時はあきらめるんだね」
「そっかー、おねがいしても生まれてこないかもなんだ。
パパってちょっとうんがなさそうだもんねぇ」
何とか納得させられたみたいだけど、ゆんは肩を落としてしょんぼりしてる。ちょっと可哀想だったかな。
──あ、そういえば。
「ねえ、パパ。関西の叔父さんの引越しって、そろそろじゃなかったっけ?」
「あ、ああ、そうだけど」
「──あっ」
パパはぴんときてないみたいだけど、ママには伝わったみたいだな。
「ねえ、ゆんちゃん。関西の叔父さんって覚えてる?」
「パパのおとうとなんでしょ。何となくおぼえてるけど」
「もうすぐ叔父さんが転勤で近くに引っ越してくるの。でね、叔父さんのとこには3歳のかりんちゃんていう可愛い女の子がいるのよ。ゆんちゃんの従妹ね」
「え、ホント!?」
ゆんの顔がぱあっと明るくなる。
「かりんちゃんは一人っ子だから、ゆんちゃんがお姉ちゃん代わりになってくれるといいんだけどなー」
「なるっ! ゆんちゃん、すてきなおねえちゃんになれるよう、がんばるよっ!」
食事が終わって、ゆんは歯をみがきに洗面所に走っていった。すっかりやる気スイッチが入っちゃったみたいだ。
「ふう、何とか乗り切ったわね」
「焦ったなぁ」
パパたちは苦笑いしてるけど、ここはちょっと言っておかなきゃ。
「あのさー、ふたりとも。たぶん、経済的な理由で子どもはふたりまでって決めてるんだと思うんだけど、違う?」
「ああ、うん、まあ──」
「だったらさ、ゆんがああいうことを言いだした時にどう切り抜けるかは、事前にすり合わせしておかないとダメなんじゃないの?」
「──確かに和也の言うとおりだな」
「もう返す言葉もないわね」
──やれやれ。ウチの家族って、ホント世話が焼けるよなー。




