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蒼天の狼  作者: 豆腐
5/7

第四話「戦乙女」

こんにちは、豆腐です。


今回は第一話ぶりに戦います。


突如空母フェンリルを襲った帝国。

彼女たちは、帝国が持っているはずのないEFに乗っていた。


完成したEFに苦戦するヴィトニル隊。

そして、そのEFのパイロットを見て驚愕するスローン。

果たしてこの戦いの行方は…




それと、一つ謝りたいことがあります。

今回の第四話には、GHOSTは登場しません。


前回の次回予告では「黒い機体が登場する」と書いてしまったのですが、実際に物語を書き進めていくうちに、この場面では無理に登場させない方が物語の流れとして自然だと感じました。

そのため、予定を変更させていただきました。


次回予告と内容が違う形になってしまい、本当に申し訳ありません。


どうか温かく読んでいただければ嬉しいです。

エリックがスローンに駆け寄る。

「おいスローン、準備しろ!」

「おそらく発進することになるぞ!」


スローンは一瞬、言葉を失った。

その背後で、コルリが震えていた。


「……怖い……」

小さな声だった。

しかしそれは、ただの恐怖ではないようだった。

まるで、何かを感じ取っているようだった。


その言葉を聞いた瞬間。

スローンは振り向き、コルリを抱きしめた。

「大丈夫だよ……」

「大丈夫。」

スローンの目は、すでに戦士の目になっていた。

人を守る目だ。







その頃、艦橋では。


レーダー画面に映る光点は四つ。

たった四つ。

しかし、その存在感は異様だった。


オペレーターが声を上げる。

「敵機、編隊を維持したまま接近中!」


ハルトマンは腕を組んだまま、空を見つめていた。

「……四機だけか。」

「だが…なんだ。」

「この異様さは。」


オペレーターが答える。

「はい、ですが──」


そこで言葉が止まる。


艦橋の窓の向こう。

遠い空に、異様な影が見えた。


異形の機体。


戦闘機にしては大きい。

だが、爆撃機にしては小さい。


機体下部に、まるで脚のような構造も見える。


そのシルエットを見た瞬間。

ハルトマンは目を見開いた。


「……まさか!」

「ありえない…!」

「帝国がEFを持っているはずが…!」


オペレーターが震える声で言う。

「敵は──」

「EFです!」


艦橋の空気が凍りついた。


エンハンスド・ファイター。

それは本来、アストラ連邦が開発した兵器。


戦闘機形態から歩行戦車形態へと変形し、敵を強襲する次世代兵器。

それが今、帝国の兵器として利用されている。


「一体どこで──」

「考えている暇はない。」

オペレーターの話をハルトマンが遮った。

ハルトマンは、国とこの空母の危機を感じていた。




その時、

通信回線にノイズが走った。

『…こちら──』


『こちら、レギウス帝国特殊航空部隊、』

『ヴァルキリー隊。』

『隊長、V-01。』


女性の声だった。

冷たい、感情のない声。

その声質はどこか、スローンを思い起こさせる。

まるで、同じ声帯を持つかのように。


『空母フェンリルに告げる。』

『スローン・オルブライトを渡せ。』

冷たい声。


艦橋の空気がさらに張り詰める。


ハルトマンの目が細くなる。

「……スローン、だと?」


女性は続ける。

『大人しく渡せば攻撃はしない。』

『しかし───』

女は静かに語る。


『抵抗するなら、艦を沈める。』


艦橋の空気が限界まで張り詰める。

オペレーターは固まり、副長は息を呑んだ。





その頃、空母フェンリルの格納庫。

ここでは発進準備が進んでいた。


赤い警告灯が回転し、格納庫を赤く染めている。

整備士たちが走り回り、燃料ホースが外され、武装が装着されていく。


F-27 ヴァナルガンド。

ヴィトニル隊の機体が、カタパルトへ移動していた。


スローンは、自分の機体を整備している。

甲板へ向かう機体のエンジンの唸りが格納庫全体に響いていた。


その時、

格納庫のスピーカーに通信が流れた。


一瞬のノイズ。

そして、

『こちら、レギウス帝国特殊航空部隊、』

『ヴァルキリー隊。』


整備士たちの動きが一瞬止まる。

スローンの手も止まった。


スピーカーから、冷たい女性の声が響く。

『隊長、V-01。』


その声を聞いた瞬間、

スローンは息を呑んだ。


それは、どこかで聞いたような声。


──いや。

それは、毎日自分が発している声だった。


『空母フェンリルに告げる。』


格納庫の空気が静まり返る。


そして、

言葉が響いた。

『スローン・オルブライトを渡せ。』


格納庫が静まり返った。


整備士たちが、ゆっくりとスローンを見る。

誰も何も言わない。

ただ、視線だけが集まった。


スローンは黙っていた。

なぜ自分が狙われているのか。

それが理解できていなかったのだ。


カタパルトへ滑走する一番機のコックピットの中。

通信を聞いていたエリックは、そっと呟いた。

「…やっと完成したのか。」


スピーカーの声は続く。

『大人しく渡せば攻撃はしない。』

『しかし───』


『抵抗するなら、艦を沈める。』

通信が切れた。

格納庫に残ったのはエンジンの唸りだけ。


誰も何も話さない。

ただ、時間だけが流れていた。




すると、ハルトマンが通信越しに話す。

「…聞いたな、ヴィトニル隊。」

「連邦のエースを敵に渡すわけにはいかない。」


スローンたちは、その通信を聞いていた。


「敵を迎撃しろ。」

「艦は私が守る。」

ハルトマンはそう語り、通信を切った。

その声には、自信が満ちあふれていた。



「……聞いたでしょ。」

スローンは整備兵の皆に語りかける。


「…私を見てる場合じゃない。」

「あんなに艦長が自信を持ってるんだよ?」

「それに応えなきゃ。」


整備兵たちは、顔を見合わせた。

そして、

「…そうだよな。」

整備兵たちは活気を取り戻した。


「よし!」

「私は私の機体を整備する!」

「急がないと艦が危ないよ!」

スローンは、自分の機体の下に潜り込んだ。


「了解!」

「他の機体は任せろ!」

整備兵たちは次々と機体の整備を始めた。

工具の音が、格納庫に響き始める。







機体の整備が終わる。

スローンたちヴィトニル隊の機体が、カタパルトへと移動する。


カタパルトには先に1機固定されていた。

隊長機。

エリックの機体だ。


装備は近距離格闘ミサイルと機関砲のみ。

ドッグファイト特化型だ。


エンジンが唸り、甲板の空気が震えている。


「……ヴィトニル1、出る。」


カタパルトの電磁レールが唸った。

エリックの機体が、空へと射出される。



続くのは2番機。

ミラの機体だ。


機体の背面には電子戦ポッドが張り付いている。

電子戦機カスタムだろうか。


エンジンの轟音の中、ミラは言う。

「ヴィトニル2、出る!」


カタパルトでの電磁加速。

彼女の機体を、空へと打ち上げた。



続いて3番機。

アレクスの機体。


武装は長距離ミサイルとレールガンだけ。

遠距離戦闘に特化している。


エンジンの轟音と、彼の声が響く。

「…ヴィトニル3、出る。」


カタパルトのレールが青白く光る。

次の瞬間、彼の機体は青い空へと打ち上げられた。



最後の機体はスローンの機体。


いろいろな兵装をバランスよく搭載した機体だ。


機体のエンジンが唸る。

スローンは、そのエンジンの轟音にかき消されないように声を上げる。

「ヴィトニル4、行きます!」


次の瞬間。

青白いスパークが走る。


強烈な加速がスローンの体を押し付ける。


そして、彼女の機体は矢のような速度で空へと放たれた。



その様子を、コルリが見ていた。

「…帰ってきてよ、スローン。」





四機の戦闘機は編隊を組み、空母フェンリルの上空へと上昇する。


その先の空に、

異形の機体が四つ、静かに待ち構えていた。



ミラからの通信。

「……捕捉したぞ。」


一瞬の沈黙。

「前方、高度8000。」

「敵機四。」


「確認した。」

エリックが短く答えた。


スローンも前方を見つめる。


赤い、異形の影が4つ。

翼の形。

大きさ。

そして、機体の下部。

まるで脚のような構造物。


それらが編隊を組み、微動だにせず浮かんでいる。


「EFだ……」

スローンは呟いた。


「…そうらしい。」

「機体データが一致してる。」

それを聞いていたのか、ミラはそう通信機で告げる。


「……」

エリックは、珍しく黙っていた。

まるで、何かを知っているかのように。



突如、彼らの通信にノイズが。


『…お前がスローン・オルブライトか。』

艦で聞いた、冷たい声。

どこかスローンに似ている声。

その声が、コックピットに響く。


その声を聞いた瞬間、 スローンの胸が少しざわついた。


「…なんで私を狙うの?」

スローンは聞いた。


一瞬、彼女は黙った。

そして、口を開く。


『…そう命令された。』

『お前を殺せ、と。』

彼女は冷たい声でそう答えた。


一瞬の沈黙。


そして、敵編隊の中央の機体が、ゆっくりと前に出た。


赤いEF。

他の機体よりわずかに大きい。


その機体のコックピットが、こちらを向く。


太陽光がキャノピーに反射した。



「……え?」

思わず声が漏れる。


スローンは見た。

パイロットの顔を。




それは───


自分だった。


同じ顔。

同じ輪郭。

同じ髪。


違うのは、瞳の色だけだった。

血のような赤い瞳。

それが、キャノピー越しにこちらを見つめていた。


『───』

彼女は、冷たい目でまっすぐにスローンを見つめていた。

しかし、その顔には少し驚きが見えた。


キャノピー越しに、赤い瞳が細くなる。

『…オリジナルか。』

その声は静かだった。


「誰なの!?」

スローンは思わず叫んだ。



赤いEFの機体が、ゆっくりと姿勢を変える。


『…私はV-01。』

彼女は答えた。


スローンは首を振った。

「…答えになってない。」

「名前は?」


彼女は一瞬黙った。

『……話す必要はない。』


彼女がそう言葉を発した瞬間、


赤いEFのアフターバーナーが閃光を放った。


ミラが叫ぶ。

「来るぞ!」


次の瞬間。

その機体は弾丸のような速度でスローンへ突っ込んできた。


「っ!」

警告音がコックピットに鳴り響く。

スローンは反射的に操縦桿を引いた。


スローンの機体が上昇する。

その下を赤い閃光が通り過ぎた。



「早い……!」

スローンの声は震えていた。


エリックは叫ぶ。

「後ろだ!」


スローンは振り向いた。

赤い機体はすでにこちらに向かっている。


普通の戦闘機ではありえない速度で、機体が反転する。

「嘘っ……!?」


その瞬間。

赤いEFが揺れる。


脚部ユニットが展開。

装甲が開き、金属音が空に響く。

翼が折りたたまれ、ミサイルポッドが飛び出す。

さらに機首が開き、主砲が姿を現した。

その砲口が、スローンを正確に捉える。


僅か2秒。

戦闘機は、別の何かへと変わっていた。



「変形が早い…!」

スローンは驚愕した。

EFの変形がこんなに早いはずがない。

試作機では5秒かかっていた。



ハルトマンはこの様子を艦橋から見ていた。

「…やはり奴ら……」


「完成させたのか……!」

「帝国め!」


ハルトマンはEFの構想を知っていた。

完成したEFの変形速度は2秒。

そう構想されていたのだ。



コルリは甲板から空を見つめている。

赤い機体。

それを目で追いかけていた。

「…あの人……」

「…スローン?」

コルリは、何かを感じ取ったかのようにそう呟いた。



次の瞬間。

空を裂く閃光。

赤いEFの主砲が、スローンに向けて放たれた。


「やばいっ!」

スローンは咄嗟に上昇。

砲弾が空を掠めた。


『……』

彼女の機体がまた揺れる。

主砲が格納され、機首が元に戻る。

ミサイルポッドが格納され、折りたたまれた翼が再び展開される。

脚部ユニットが格納。


空に浮かぶ巨躯は、戦闘機へと変わっていた。


『…排除する。』

彼女からの通信。

しかし、その声はわずかに揺れていた。



エリックが、ヴィトニル隊の皆に叫ぶ。

「スローンを援護するぞ!」


ヴィトニル隊の機体はスローンへと向かう。

しかし──


赤い閃光が、彼らの道を塞ぐように横切った。


「なっ──!?」

エリックは思わず声を上げる。


赤いEFは、スローンではなくヴィトニル隊の進路を遮るように旋回していた。

まるで、援護を許さない壁のように。


次の瞬間。

赤いEFの翼下ハードポイントが開いた。

ミサイルポッドが露出する。


「ミサイル来るぞ!」

ミラが叫ぶ。


無数の白煙が空に広がる。

ミサイル群がヴィトニル隊へ一斉に襲いかかった。


「散開だ!」

「ブレイクしろ!」

エリックが半ば叫びながら命令する。


ヴィトニル隊の機体が一斉に散った。



アレクスの機体が急降下。


ミラはロールしながら回避機動を取る。

「数が多い……!」


爆発が空に散る。

衝撃で機体が揺れる。


その瞬間だった。


「上だ!」

エリックが叫ぶ。


赤い機体が太陽を背にして降ってくる。

ヴァルキリー隊のEFだ。

「来たぞ!」


敵の機関砲が火を噴いた。

弾丸の雨。


「……!」

アレクスは急減速。

弾丸は空を切った。


アレクスは急旋回しながら反撃のレールガンを放つ。


青い光がEFへ向かって飛ぶ。

しかし──


EFは空中で機体を折るように旋回した。

普通の戦闘機ではありえない角度。


光は空をかすめた。


「外した……!?」

アレクスが思わず声を上げる。




次の瞬間。

敵の機関砲が再び火を噴いた。


弾丸の雨が、再びアレクスの機体へと降り注ぐ。

アレクスは操縦桿を引き、機体をロールさせる。


弾丸がすぐ横を通り過ぎ、装甲をかすめて火花が散った。


「アレクス、下がれ!」

エリックの声が響く。


次の瞬間。

一機が横からEFへ突っ込んだ。

ミラだ。


「よそ見してる暇あるのか?」

ミラの機体が急旋回しながら、レールガンを放つ。


青い閃光。

レールガンの一撃がEFのすぐ横をかすめる。


回避したEFの姿勢が、わずかに崩れた。

「今だ!」

「撃て!」

ミラが叫ぶ。


アレクスはすぐに反応した。

「……!」

機体を反転させ、再びレールガンを構える。

ロックオン。

トリガーを引く。


青い光が一直線にEFへ向かって走る。

今度は回避が遅れた。


青い閃光とともにEFの装甲が弾けた。

次の瞬間、EFが爆炎に包まれた。


「直撃。」

アレクスが一言。


敵が一機、空に散った。



空は完全に乱戦になっていた。

赤いEFが二機。

それを囲むように飛ぶ四機のヴァナルガンド。


ミサイルの煙。

爆発の閃光。

機関砲の火線。


そしてその戦場の少し離れた場所で──

赤いEFが1機、静かにスローンを追い続けていた。





「……まだ来るの!?」

スローンは歯を食いしばりながら呟く。


レーダーに映るのは、背後から迫る一つの赤い光点。

距離は急速に縮まっていた。


次の瞬間。

ロックオンアラートが鳴り響く。


「まずいっ!」

スローンは操縦桿を引き、機体を急上昇させた。


しかし、何も来ない。

ミサイルも、砲撃も。


「なんで……?」

スローンは呟いた。

敵は何を考えているのか。

なぜ撃たないのか。

それがわからなかった。


スローンは空を見る。


そこにいた、赤いEF。

夕焼けの空を背に、ゆっくりと旋回している。


『……』

通信が開く。

しかし、声は聞こえなかった。


スローンは息を整えながら言う。

「ねえ。」

「さっきから、ずっと私だけ追ってるよね?」


沈黙。

そして、ようやく声が聞こえた。


『……任務だ。』

静かな、冷たい声。

しかし、その声は震えていた。

先ほどよりも強く。


一瞬の沈黙。


そして、スローンが口を開いた。


「……任務ならさ。」

「なんで声が震えてるの?」


スローンは、彼女の声の変化に気がついていた。

「…本当は、嫌なんでしょ。」

「私を殺すの。」


しかし、彼女は叫ぶ。

『…黙れっ!』


次の瞬間。

二機は同時に加速した。


空に二本の軌跡が走る。


急旋回。

急上昇。

急降下。


互いに背後を取ろうとする、激しいドッグファイト。

スローンは歯を食いしばる。


「速い……!」

赤いEFは、まるで未来を読んでいるかのように動く。

スローンが旋回すると、すでにそこにいる。


まるで、スローンの動きがわかっているように。



激しいドッグファイトの末、赤いEFがスローンの後ろを取った。

ロックオン警告。



───しかし、撃たない。


赤い機体は、わずかに揺れていた。



その時、

通信の奥で、かすかな声が漏れた。


『…誰だ……』


その声は、やはり震えている。


『……お前は、誰なんだ……?』



赤いEFは、いまだスローンの背後にいた。


ロックオンは外れていない。

撃てば終わる距離。


しかし、撃たない。


スローンは静かに言った。

「……私が聞きたいよ。」


『…スローン・オルブライト。』

彼女は冷たい声で告げる。


『……私は、命令で動く。』

『敵を排除する。それが任務だ。』


一瞬の沈黙。


『……だが……』

言葉は途中で止まった。


遠くで爆発音が響く。

ヴィトニル隊とヴァルキリー隊の戦闘はまだ続いている。


しかし、この空域だけは妙に静かだった。



『……撃てない。』

その一言は、とても小さかった。

『……なぜ撃てない。』


スローンはゆっくりと息を吐いた。

「…当たり前だよ。」


「自分と同じ顔の人を殺すなんて、私だったら無理。」


「…だから、普通だよ。」



長い沈黙。


『……私は……』

彼女の声は、もう戦士の声ではなかった。

『……戦闘を放棄する。』


その言葉は、静かに空へ落ちた。

スローンの目がわずかに見開かれる。


ロックオンが外れた。

敵機の武装が投棄される。


『私は抵抗しない。』

『…殺せ。』



エリックの声が通信に飛び込んできた。

「こっちは片付いた!」

「そっちはどうだ?」


スローンは答える。

「…敵が投降した。」

「そうとだけ伝えておくよ。」

スローンは通信を切った。




そして小さくため息をつく。

「……はぁ。」


操縦桿を軽く引く。

スローンの機体が、ゆっくりと彼女のEFの横へ並ぶ。


スローンは言う。

「撃てないよ。」

「そんな顔してる子。」


そして少し笑った。

「もう敵じゃないしね。」





夕焼けの空。

二機の戦闘機が、静かに並んで飛んでいた。


スローンの機体。

そして、武装を捨てた赤いEF。


その静かな空域に、エンジン音が近づいてくる。


「スローン!」

エリックの声。

次の瞬間。


三機が空域へ滑り込んできた。

エリック。

ミラ。

アレクス。


ヴィトニル隊だ。


「…で、敵が投降したって本当なのか?」

エリックが聞く。


「…うん。」

スローンは彼女を見た。

彼女は、自分が何をしたのか分からないような表情をしていた。


「…確かに、武装がない。」

ミラが、敵機を見ながら言う。


彼女は黙っていた。


「……罠ではなさそうだ。」

アレクスが口を開く。



「…とりあえず、こいつを艦に連れて行く。」

「後の処遇はハルトマンに任せよう。」

エリックはそう皆に話す。






夕焼けの空を抜け、編隊はゆっくりと海へ向かっていた。

遠くの水平線に、巨大な影が見える。


空母フェンリル。


巨大な甲板が夕焼けに染まり、まるで海に浮かぶ都市のようだった。

通信が入る。


「フェンリルよりヴィトニル隊へ。」

管制の声。

「着艦許可を出す。ただし──」

少し間が空く。


「敵機を確認している。」

「状況を説明しろ。」

管制はそう告げた。


エリックが答える。

「敵機一機、投降。」

「武装はすべて投棄済み。」

「現在、我々が護衛している。」


一瞬、艦橋は沈黙した。


「……了解。」

「着艦準備を行う。」

「敵機は甲板端の臨時着艦ポイントへ誘導する。」






巨大な空母が、視界いっぱいに広がっていく。


スローンは横を飛ぶ赤いEFを見る。

「緊張してる?」

静かな、優しい声。


少し間が空き、通信が返る。

『……わからない。』

『こういう感覚は初めてだ。』

その声に、先ほどまでの冷たさはなかった。


スローンは少し笑う。

「まあ、大丈夫だよ。」

「いきなり撃たれたりはしないから。」


『……保証はできるのか?』

彼女は聞く。


「できない。」

しかし、スローンはあっさりそう言った。


『……』

少しの沈黙。


そしてスローンは続けた。

「…でもさ。」

「撃たないって決めたんでしょ?」

「なら、きっと大丈夫。」


スローンは軽く機体を揺らす。

ついてきて、と言わんばかりに。

赤いEFも、それに合わせてゆっくりと進む。






甲板にはすでに人が集まっていた。


整備員。

兵士。

管制員。


そして──

コルリ。


コルリは甲板の端に立ち、空を見上げていた。


近づいてくる五機の機体。


しかし、その中にある一機を見た瞬間、

コルリの目が見開かれる。


「……あ。」

赤いEF。

夕焼けの空から降りてくる、赤い機体。


その姿を見て、コルリは小さく呟いた。

「…スローンが、二人……?」


その声は、誰にも聞こえなかった。






甲板の誘導灯が灯る。

夕焼けに染まった巨大な甲板の上で、整備員たちが忙しなく動き回っていた。


ジェットの排気が、甲板の空気を震わせる。


管制の声が響く。

「ヴィトニル隊、着艦許可。」


エリック機が先頭で降下する。

フックがワイヤーを捉える音。


機体が減速し、甲板の上を滑るように止まった。


続いてミラ、アレクス。


三機が次々に着艦する。



残るのはスローンと、赤いEF。


甲板ではすでに兵士たちが集まっていた。

数人の兵士がライフルを構える。


整備員たちも距離を取りながら見守っている。


連邦の空母に、帝国の機体が着艦するのだ。

異常な光景だ。


スローンが通信を開く。


「ほら、もうすぐだよ。」

スローンは優しく言った。


『……ああ。』

彼女の声は静かだった。

ただ、少しだけ緊張が混じっている。


スローンは笑う。

「大丈夫。」

「降りるだけだから。」


『……』

彼女は、少しだけ頷いた。


スローンの機体が降下する。


甲板が迫る。

フックが機体から伸びる。


ガンッ!

機体がワイヤーに捕まり、急減速する。


そして止まる。



すぐ後ろ、


赤いEFが降下してくる。

甲板の兵士たちが一斉に身構えた。


「来るぞ……!」

誰かが呟く。


赤い機体が甲板に触れる。

ドンッ!

重い金属音。


機体は短く滑り、ゆっくりと停止した。



甲板が静まり返った。

兵士たちは銃を構えたまま動かない。

整備員たちも目を見開いている。


敵のエース。

その機体が、甲板に静かに佇んでいた。


スローンはキャノピーを開けた。

そして、すぐに機体から身を乗り出した。


スローンは赤いEFに向かって言う。

「…着いたよ。」


数秒の沈黙。


そして、

赤いEFのキャノピーが、ゆっくりと開いた。


「…なんだ?」

「…おい!」

「まさかあれって……!」


コックピットから、ゆっくりと一人の女性が姿を現した。


それを見た甲板の人間全員が息を呑んだ。



そこにいたのは───


赤い目をした、もう一人のスローンだった。







甲板の空気は、まだ張り詰めていた。

赤いEFのコックピットから降りた女性は、兵士たちに囲まれて立っている。


ライフルの銃口がいくつも向けられていた。

整備員たちも距離を取りながら見守っている。


その時だった。

人々が自然と道を開ける。


足音が、ゆっくりと甲板に響く。

現れたのは、一人の男。


落ち着いた歩き方に鋭い視線。


空母フェンリル艦長、

ハルトマン。


兵士たちが敬礼する。

「隊長。」


ハルトマンは軽く手を上げてそれを制した。

そして、赤いEFのパイロットを見る。


その顔を見た瞬間、わずかに目を細めた。

「……なるほど。」


低く呟く。

「報告は聞いていたが……」

「想像以上だな。」

スローンも機体から降り、歩いてきた。


そしてハルトマンの横に立つ。


ハルトマンは少女を見る。

「名前は。」

静かな声。


彼女は少しだけ間を置いた。

そして、答える。

「…ない。」

「…必要ない。」


「…そうか。」

ハルトマンは低く呟いた。


周囲がざわつく。


ハルトマンは続ける。


「なぜ投降した。」

短い質問。


彼女は少し視線を下げた。


言葉が出ない。


長い沈黙。


その時、


「艦長。」

スローンが口を開く。


ハルトマンが横を見る。


スローンは真っ直ぐ言った。

「この子の尋問は私にやらせて。」


甲板の時間が一瞬止まる。


ミラが小さく「え?」と呟いた。

エリックも眉をひそめる。


ハルトマンはしばらくスローンを見ていた。


「理由は。」

ハルトマンは短く聞いた。


スローンは赤い目の少女を見る。

そして、少し笑って言った。


「私となら、一番話せると思う。」

「私を撃てなかった理由も聞きたいしね。」


沈黙。

ハルトマンは彼女を見る。


彼女は何も言わない。

しかし視線は、ずっとスローンに向いていた。


それを確認してから、ハルトマンは小さくため息をついた。

「……いいだろう。」


周囲が驚く。


ハルトマンは続けた。

「だが条件がある。」


スローンを見る。

「場所は艦内。」

「武装兵の監視付き。」

「少しでも異常があれば、即座に拘束する。」


スローンはすぐに頷いた。

「了解。」


すると、スローンは思い出したかのように言う。

「あ。そうだ。」

「着替えていい?」


ハルトマンは、もう一度短く聞いた。

「…理由は。」


スローンは答える。

「人の印象は服で決まるって言うでしょ?」

「服で威圧感を与えないようにしないと。」



ハルトマンは少し考えた。


そして、一言。

「…いいだろう。」


「ありがとうございます。」

スローンは敬礼した。




ハルトマンは兵士たちに命じる。

「連れて行け。」


兵士たちが彼女の周りを囲む。

しかし、彼女は抵抗しなかった。


歩き出す前に、彼女は一度だけ振り返る。

そしてスローンを見る。


赤い目が、まっすぐに向けられていた。

その視線を受けて、スローンは優しく言った。


「大丈夫。」

「怖くないよ。」


その言葉を聞いて、彼女はほんの少しだけ目を細めた。

そして、目を細めながら少し驚いた。

まるで、自分の表情に驚いたようだった。






艦内。

鉄の通路を、兵士たちが歩いていた。

その中央を、赤い目の女性が静かに歩いている。


左右には武装した兵士。

完全な警戒態勢だった。


しかし、彼女は抵抗しない。

ただ黙って前を向いて歩いている。



通路の突き当たり。

一つの部屋の前で兵士が止まる。


「ここだ。」

ドアが開く。


中は思ったよりも普通の部屋だった。


金属の机。

椅子が二つ。

壁にはモニター。


兵士たちが彼女を中に入れる。


「ここで待て。」

そう言って兵士たちは壁際に立つ。





しばらく経って、尋問室に足音が近づく。

彼女は、椅子に座って黙って待っていた。


尋問室の扉がゆっくりと開く。


現れたのは、スローン。


しかし、さっきまでのフライトスーツではない。


横縞のパステルカラーのパーカー。

ふわふわで、大きくて、柔らかそうな服。

あの、ハルトマンと一緒に行った服屋でサービスされた服だった。



「お待たせ。」

スローンは手を振った。


「…私を尋問するのだろう。」

彼女は聞いた。


「うん。」

スローンはすぐに答えた。


「…なら、なんだその服は。」

彼女は不思議そうに聞く。


スローンは答える。

「…怖がってほしくないから。」


彼女は俯いた。

なぜ自分に優しくするのか。

それを考えていた。


スローンは椅子にゆっくりと座った。

「…まず、さ。」

「君、名前無いんだったよね。」


彼女は答える。

「…ああ。」

「必要ない、と言われた。」



「…でも、それじゃ呼びづらいなぁ……」

スローンは言った。


彼女はまだ俯いていた。


すると、スローンが口を開く。

「じゃあ、名前つけてあげる。」


「……」

彼女は黙っていた。

しかし、わずかに口元が緩んでいた。


少し考えた末、スローンは言う。

「…じゃあ、リュコス。」

「リュコスって呼ぶね。」


彼女は顔を上げた。

そして、自分の手を見て呟いた。


「…リュコス。」

その名前を、確かめるように呟いた。



彼女──

…いや、リュコスの口元が緩んだ。


まるで、一瞬だけ感情が戻ったように。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

豆腐です。


次回は、スローンとリュコスが尋問と言う名の会話をする回です。

彼女が話す内容とは…


次回「優しい尋問」。

ご期待ください。

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