第二話「狼たちの巣」
こんにちは、豆腐です。
今回の前書きは、空母フェンリルの解説です。
アストラ連邦軍が誇る航空母艦、フェンリル。
多くのエース部隊が所属していますが、その中でも最強の部隊がヴィトニル隊です。
フェンリルは彼らにとって、ただの軍艦ではありません。
任務を共にし、空へと飛び立つ──
まさに 「狼たちの巣」 とも言える存在です。
この艦は、新型機体や艦載兵器のテストを行う実験拠点でもあり、
さらにフェンリル機動艦隊の旗艦でもあります。
電磁カタパルトや対空レールガンなどの最新装備を搭載しており、
艦載機と合わせれば、空母一隻でも十分な戦闘能力を持っています。
もちろん航空機だけでなく、ヘリコプターの運用も可能です。
艦隊の中心として戦場に現れたとき、
フェンリルはまさに 無敵の空母 と呼ぶにふさわしい存在となります。
今回の物語では、スローンがこの空母フェンリルに配属され、ヴィトニル隊のメンバーと出会います。
そして格納庫で、ある新型兵器を目にします。
エンハンスド・ファイター(EF)。
しかし、なぜかスローンがそのテストパイロットをやらされることに……。
今回は戦闘シーンはありませんが、
物語の大きな転機となるエピソードです。
それでは、お楽しみください。
『狼たちの巣』。
空母フェンリルの通称だ。
アストラ連邦軍特殊航空部隊『ヴィトニル隊』などのエース部隊が所属している航空母艦、フェンリル。
電磁カタパルトや艦隊防空レーダーや電子戦装置などの最新装備を搭載した、新型兵器のテスト拠点や、艦隊の旗艦として運用される空母だ。
今、その空母に一機のヘリが向かっていた。
ハルトマンは、空から見える空母を指差して言う。
「あれが空母フェンリルだ。」
スローンは目を見開いた。
「大きい……」
スローンは昔、空母に整備兵として乗ったことがある。
空母のことはある程度知っているつもりだ。
しかし普通の空母でも十分広大だと感じたのに、それより大きい。
飛行甲板の端から端まで、戦闘機が何十機も並んでいる。
それでもまだ余裕があるほど広い。
武装も見たことないものばかりだ。
その存在は、ただの整備兵を驚かせるには十分だった。
「…そろそろ着陸するぞ。」
ハルトマンはスローンに言った。
「……はい!」
スローンは期待で胸が踊っていた。
これから出会う新しい仲間。
これから見る新しい家。
それが楽しみで仕方なかった。
ヘリが着艦する。
周囲には乗組員が大量にいる。
出迎えだ。
「ご苦労様です、艦長!」
乗組員たちが敬礼する。
「ああ。」
ハルトマンはヘリから降りた。
「ヴィトニル隊はいるか?」
ハルトマンは周囲を見渡す。
すると、一人の男が現れる。
少し長めの金髪。
パイロットでは見たことないくらい筋肉質だ。
服はオレンジ色のフライトスーツに首に黒いスカーフ。
映画に出てきそうだ。
男は言う。
「はい、艦長。」
「どんなご用で?」
ハルトマンは男と、彼の周囲をじっくりと見た。
「…ほかの仲間は?」
彼は答える。
「食堂です。」
「なんでも腹が減ったらしくて。」
ハルトマンはため息をついた。
「新人が来るまで待っておけと言ったんだが……」
「あの……」
スローンがヘリから顔を出す。
「お、お前が新人か。」
男はスローンに気がついた。
「こっちに来い。」
スローンは呼びかけに応える。
「あ、はい。」
スローンがヘリから降り、男の元へ歩く。
近づいてきたスローンに、男は手を差し出す。
「会いたかったぞ、スローン・オルブライト。」
スローンは男の手を取った。
男はスローンの手を強く握り、ブンブン振る。
「ようこそヴィトニル隊へ!」
「俺はヴィトニル隊隊長、エリック・ヴァルナー。」
「よろしくな。」
そう言い終わると、エリックは手を握るのをやめた。
スローンは驚きながらも言う。
「…よろしくお願いします!」
エリックはスローンの背中に手を回し、軽く叩く。
「わっ…」
スローンは少し驚いた。
エリックが続ける。
「俺が空母を案内する。」
「食堂にいる仲間に会いに行こう。」
「は、はい…」
スローンは少し動揺していた。
少し距離が近い気がする。
そういう人なのだろうか。
「私は仕事があるので席を外す。」
「後は任せた、ヴァルナー。」
ハルトマンは去っていった。
「了解、艦長。」
エリックは歩き出した。
しばらくして、2人は食堂に着いた。
エリックが扉を開けると、食べ物の美味しそうなにおいが周囲に広がった。
「ここが食堂だ。」
「あいつらはそこにいる。」
エリックは、奥の席に座る3人を指差す。
周囲の席は妙に空いている。
どうやらこの席は、ヴィトニル隊専用らしい。
一人はおそらく男性。
短く整えられたダークブラウンの短髪。
前髪は少し目にかかっている。
目の色は灰色がかった青。
服は濃いグレーのフライトスーツに黒いフライトジャケット。
派手な服は着ていない。
コーヒーを飲んでいる。
もう一人はおそらく女性。
明るいブラウンのショート。
少し跳ねている。
目の色は明るい茶色。
少し童顔で、ヘッドセットを首にかけている。
少しカスタムされたフライトスーツを着込み、タブレット端末で何か作業をしている。
エリックが彼らに近づく。
スローンは着いていった。
すると、エリックは彼らに言う。
「おい、お前ら!」
「新人のお出ましだ!」
女はタブレット端末から目を離し、スローンの方を見た。
「お、もう来たのか。」
「……」
男は無言で顔を上げる。
エリックは2人に言う。
「ほらお前ら、自己紹介してやれ。」
「…わかったよ。」
女は仕方無さそうに口を開いた。
「あたしはミラ・カストナー。」
「電子戦なら任せといて。」
「スローン・オルブライトです。」
「よろしくお願いします。」
スローンも自己紹介をする。
この人は頼りになりそうだ。
スローンは男に目を向ける。
男は遅れて口を開く。
そして一言。
「…アレクス・シュタイン。」
「…え、終わり?」
スローンは少し困惑した。
自己紹介がこれだけなのは少し違和感がある。
「…こいつは無口なんだ。」
ミラはスローンを見かねて言った。
「なるほど…」
スローンの困惑は消えた。
しかし、うまくやっていけるか少し不安だった。
「…そういえば、新人を格納庫に連れていけって言われてたんだっけか。」
エリックが思い出したように言った。
「…私を?」
スローンは首を傾げた。
「どうやらそうらしい。」
エリックは少し悔しそうに言った。
「…行ってこい。」
スローンは一瞬沈黙した。
そして、口を開く。
「…わかった。」
スローンは歩き出した。
そうして着いたのは格納庫。
その中にある、一つの巨大な異様な機体。
戦闘機のようでいて、戦闘機ではないような。
その異形の前に、ハルトマンがいた。
すると、スローンがハルトマンの元にやってきた。
ハルトマンは振り向く。
「…来たか、スローン。」
スローンは不思議そうに言う。
「…ハルトマンさん。」
「また私に用なんですか?」
「ああ。」
ハルトマンは頷いた。
そして、目の前にある異様な機体を指差す。
「この機体を見ろ。」
「……?」
スローンは言われるがまま機体を見た。
装甲にスライド機構がある。
機首や背面、翼にも稼働部分のようなものがある。
一番目を引くのは、機体下部に折り畳まれた脚部らしきもの。
「これって……」
スローンは不思議に、そして不気味に思っていた。
この機体、異様すぎる。
「元整備兵ならわかるだろう。」
「この機体の異質さが。」
ハルトマンは真剣そうな顔をしている。
「…わかります。」
スローンは頷いた。
「この機体───」
「変形しますよね。」
一瞬の沈黙。
ハルトマンが口を開いた。
「──そうだ。」
スローンは少し嬉しそうな顔をした。
「やっぱり。」
「──エンハンスド・ファイター。」
「通称EF。」
「歩行戦車型形態、通称アサルトモードへの変形機構を備えた強襲戦闘機。」
「これはその試作機体だ。」
ハルトマンは語る。
「……なるほど。」
スローンは理解したかのように呟いた。
「…スローン。」
ハルトマンは真剣に聞く。
「─君をこの機体、」
「XEF-0 プロトアストラのテストパイロットに任命する。」
スローンは一瞬固まった。
「…え。」
「ええええ!?」
「…駄目か?」
ハルトマンはスローンの反応を不思議そうに見ていた。
「いや!」
「いやいや!」
スローンは大声で続ける。
「エース部隊加入の次は試作機体のテストパイロット!?」
「整備兵から出世しすぎでしょ!」
「怖いんだけど!?」
スローンは混乱している。
整備兵からあまりにも出世しすぎている。
何か裏があるのかもしれない。
そう思っていたからだ。
「落ち着け。」
「裏はない。」
ハルトマンは相変わらず落ち着いている。
スローンはしばらく騒いだ末、
「……わかった。」
「わかったよ、うん。」
「やる。」
少し落ち着いてそう答えた。
「…わかった。」
「今から──」
ハルトマンが言葉を続けようとすると、
「ただし、一つ条件が。」
スローンが言葉を遮った。
「私にも整備させて。」
その言葉を聞き、ハルトマンは少し考えた。
「……わかった。」
「やった!」
スローンは歓喜し、拳を突き上げた。
ハルトマンは続ける。
「EFの整備は他の者に習え。」
「…頼んだぞ。」
スローンは敬礼した。
少し経って、スローンはEFの整備をしていた。
仲間の整備兵たちと一緒に。
EF専門の整備兵。
彼らに整備を習いながら、スローンは機体を観察していた。
複雑な機構。
やはり戦闘機として見ると異常だ。
しかし戦闘機に可変機構を付けるなど考えつかなかった。
スローンは感心していた。
整備と機体の最終確認を終え、スローンのEFは誘導されながらカタパルトへ滑走する。
大変な整備だったが、やりがいがあった。
ハルトマンからの通信。
「いいか、スローン。」
「EFの変形コードは、『シフト』だ。」
「そのコードをAIが認識し、変形機構が稼働する。」
「わかりました。」
スローンは通信を聞いた。
早く変形機構を見たくてしょうがない。
ハルトマンは続ける。
「発艦のしかたは先程教えた通りだ。」
「頑張れよ。」
スローンは艦橋に向かって親指を立てた。
その様子を、ヴィトニル隊が見ていた。
ミラは言う。
「あいつ大丈夫なのか?」
アレクスは言う。
「…無事では済まない。」
しかし、エリックは2人に言った。
「あいつなら大丈夫だ。」
「なんてったって、将来エースになる女だからな。」
しかし、ミラは笑って呟いた。
「…何を根拠に。」
機体がカタパルトに固定される。
スローンは呟く。
「うまくできるかな……」
フライトデッキクルーが安全確認をする。
完了。
安全なようだ。
スローンはEFのエンジン出力を上げる。
機体が震え、甲板の空気が揺れる。
エンジンの轟音が甲板に響き、クルーが身を低くする。
ハルトマン艦長からの言葉。
「スローン・オルブライト、発艦を許可する。」
「思う存分飛んでこい。」
シューターが発艦の合図。
次の瞬間。
カタパルトが作動した。
凄まじい加速。
体がシートに押し付けられる。
その加速のまま、スローンの機体は空へと飛び立った。
青い空が視界いっぱいに広がった。
ハルトマンからの通信。
「いいか、スローン。」
「今回はEFの変形機構のテストをする。」
「これが終われば、次は実戦テストだ。」
ハルトマンは続ける。
「高度1500m以下で飛行、」
「付近の滑走路でシフトし、着地せよ。」
「了解!」
スローンはそう答えた。
スローンは高度制限を守り飛行している。
すると、地面に滑走路が見えた。
あそこに降りるのだろうか。
すると、ハルトマンからの通信。
「その滑走路だ。」
「『シフト』と言え。」
「AIが変形機構を作動させるはずだ。」
スローンは通信を聞き、息を少し吸い込む。
そして叫ぶ。
「シフト!」
その瞬間、コックピットで機械音声が鳴り響く。
《Shift confirmed》
次の瞬間、機体が揺れる。
機体下部に折り畳まれていた脚部が展開された。
逆間接脚だ。
《Deploying legs》
次に、主翼が二重に折り畳まれる。
それと同時に、機首が二つに分かれた。
分割された機首の上部が後方にスライドされ、戦車砲が分かれた機首の間から展開された。
《Main wing folding》
《Main cannon online》
そして、武装ユニットが展開される。
機体上部の複合対空兵器と、主翼の付け根から展開されるミサイルポッドだ。
《Weapon system deployed》
そして、
《Transformation complete》
機体の揺れは止まった。
機体の姿は、もはや戦闘機ではなかった。
それは二脚で立つ、鋼鉄の兵器となっていた。
変形の時間、約5秒。
すると、ハルトマンからの通信。
「変形は成功したらしい。」
「次は着地だ。」
「…着地?」
スローンは首を傾げた。
次の瞬間、
機体が急激に高度を落とした。
「うわああああ!!」
どうやらアサルトモードでは空は飛べないようだ。
すると、機体から小型のパラシュートが展開された。
あまり安定していないが、機体の落下速度が少し落ちた。
「わっ…」
「でもまだ速いんだけど……」
ハルトマンの通信。
「落ち着け。」
「着地時に油圧ダンパーとフレームが衝撃を吸収してくれる…はずだ。」
スローンは叫ぶ。
「はずって何!?」
ハルトマンは答えない。
「…あーもー!」
「どうにでもなれー!」
スローンはまた叫んだ。
機体の背部スラスターが機体を安定ようとしている。
だが、気休め程度にしかならない。
制御が荒いのだ。
「わあぁっ!」
「もうちょっと優しく!」
スローンは怒っていた。
着地に失敗して死んだら困るからだ。
そして、高度500m。
まだ速度が少し速い。
「やばいってやばいって!」
ハルトマンは艦橋で呟く。
「まずいな……!」
その様子をモニターで見ていたミラは呟いた。
「死んだな。」
しかし、聞こえていたのかエリックは言った。
「あいつは死なない。」
「俺がそう感じたんだ。」
「間違いない。」
アレクスは黙っている。
高度400m。
300m。
200m。
まだ速度は速い。
「やばいやばいやばいやばい!!」
スローンは慌てている。
背部スラスターも逆噴射でなんとか速度を落とそうとするが、相変わらず気休め程度だ。
150m。
100m。
50m。
すると、パラシュートが外れた。
「えちょっ!」
スローンは咄嗟に身を低くする。
スローンは死を覚悟した。
このまま着地の衝撃で死ぬ。
そう思っていたからだ。
「うわあああああああ!!」
ドスゥゥゥン!
機体が滑走路を叩きつけるように着地した。
油圧ダンパーとフレームが衝撃を吸収するが、あまり吸収できていない。
「うっ……!」
衝撃でコックピットが揺れる。
…しかし、死んではいない。
すると通信が。
「状況を報告しろ、スローン。」
「大丈夫か?」
ハルトマンの声だった。
スローンは顔を上げる。
その顔は怒りに満ちていた。
そして、通信に答える。
「大丈夫!?」
「そんなわけないでしょ!?」
「あやうく死にかけたんだよ!?」
「よく新人にこんなことさせようと思ったね!?」
ハルトマンは一言。
「…すまない。」
「すまないだぁ!?」
「私がどれだけ怖かったと──」
スローンの怒りの叫びは10分以上続いた。
ハルトマンは、その叫びを通信機越しに黙って聞いていた。
──やがて、怒るのにも疲れたのか、
「……もういい。」
スローンはそう言った。
すると、ハルトマンが言った。
「…非常に言いづらいのだが……」
少し間が空いた。
「次はアサルトモードから戦闘機への変形テストだ。」
「……は????」
スローンは唖然としている。
この男イカれてる。
あんな怖いことをさせたのにまだ続行するつもりなのか。
するとハルトマンが、
「安心しろ。」
「今度はそんなには落ちない。」
そんなことを言った。
スローンは呆れる。
「そんなにって……」
もう怒る気力もない。
スローンは少し考えた末、
「……わかったよ。」
「早く終わらせる。」
そう答えた。
「……わかった。」
「無理はするなよ。」
ハルトマンはそう告げた。
今更である。
スローンはそう思った。
「アフターバーナー・ブーストを起動し、脚部ランディングギアを展開するんだ。」
「そしてジャンプして、『シフト』だ。」
「わかったな?」
ハルトマンは、離陸の工程を説明した。
「…了解。」
スローンはまだ恐怖を感じていた。
変形が失敗したらどうしよう。
そう思っていたのだ。
スローンはエンジン出力を一気に上げる。
アフターバーナーの操作は戦闘機と同じのようだ。
ありがたい。
機体が時速200kmほどまでゆっくりと加速する。
スローンは機体のランディングギアを展開する。
《Landing gear deployment》
脚部から車輪が展開され、接地する。
ランディングギア展開操作も戦闘機と同じようだ。
滑走する機体はさらに加速する。
速度は時速300kmに達していた。
「速っ!」
あとはジャンプだけ。
…しかし、戦闘機にジャンプなんて機能はない。
「えちょっ、」
「どうすればいいの!?」
スローンは困惑していた。
ハルトマンから聞いていないのだ。
ハルトマンが焦って話す。
「操縦桿を押し込め!」
「早く教えてよ!」
スローンは慌てて操縦桿を強く押し込む。
すると、逆間接脚が折り畳まれる。
そして、一気に脚が展開。
巨大な脚力で地面を蹴る。
機体が揺れ、空へと跳び上がった。
「…よし。」
スローンは呟いた。
成功だ。
しかし、喜んでいる暇はない。
スローンは少し息を吸い込み、叫ぶ。
「シフト!」
すると、機体が揺れる。
《Shift confirmed》
戦車砲などの武装が収納され、機首上部が前方にスライド。
下部と組み合わさり、流線型の機首に戻る。
《Weapon Lock》
さらに、二重に折り畳まれていた主翼が展開。
戦闘機らしいシルエットになった。
《Wings deployed》
そして、脚部が折り畳まれ、機体下部に収納される。
《Leg storage》
そして、
《Transformation complete》
機械音声が、変形の終わりを告げた。
「…はぁー……」
スローンは安堵した。
無事に終わった。
これほど嬉しいことはない。
機体が再び空へと飛び立つ。
海を見下ろすと、空母フェンリルがゆっくりと巡航しているのが見える。
ハルトマンからの通信。
「…よし、テストは終了だ。」
「着艦せよ。」
「やっと終わった……」
スローンは安堵した。
やっと終わりだ。
とても疲れた。
目を閉じればすぐに寝てしまいそうなほどに。
「スローン、君はまだ着艦をしたことがないはずだ。」
ハルトマンが続ける。
「その機体には、全空母対応AI着艦機能が備わっている。」
「それを使え。」
「…はい。」
スローンは渋々それを起動した。
機械音声が響く。
《Carrier landing assist system online》
この機体のAI、あまり信用できない。
あんな荒っぽい制御をするのだ。
だが、着艦経験がないのは確かだ。
スローンは、このAIに頼るしかなかった。
次の瞬間、操縦桿が僅かに動いた。
スロットルも自動で調整されている。
「うわっ…」
機体がゆっくりと旋回する。
フェンリルの甲板へと、まるで見えないレールに乗せられたように進路が固定された。
《Approach confirmed》
スローンは操縦桿を握ったまま、ただ空母フェンリルを見つめている。
巨大な甲板、
整備兵たち、
艦橋、
そして、ヴィトニル隊の皆。
それらが少しずつ大きくなっていく。
「…大丈夫なのかな……」
スローンは呟いた。
次の瞬間、
《Landing sequence start》
機体の高度がゆっくりと下がる。
速度も自動で調節される。
フックが射出された。
機体が静かに甲板に降り立つ。
そして、
ガンッ!
フックがワイヤーを捕らえた。
「うわあぁっ!」
機体が揺れる。
体が引っ張られる。
しかし数秒後、機体は完全に停止した。
外を見ると、先ほど一緒にこの機体を整備した整備兵たちが駆け寄ってくるのが見えた。
ハルトマンの通信。
「テスト終了。」
「…よくやった。」
スローンは深く息を吐いた。
そして、艦橋を見上げ、
「もう二度とやりたくない……」
そう呟いた。
甲板にはまだ熱気が残っている。
整備兵たちがざわつきながらEFを見上げていた。
スローンはEFのコックピットを離れ、深く深呼吸する。
疲れた。
早く眠りたい。
すると、遠くからヴィトニル隊が駆け寄ってきた。
一番最初に来たのはミラだった。
「…あんた、よく無事だったね!?」
「想定外だった。」
アレクスが歩いてきて言う。
「ええ……」
スローンは呆れた。
死ぬと思われていたなんて。
こんなのが仲間とは。
「そう言ってやるな。」
エリックも現れた。
「俺の予想が当たったな。」
エリックはヴィトニル隊の2人に言う。
アレクスは頷いた。
「…お前の直感はよく当たる。」
ミラが続けて言う。
「当たりすぎるくらいにね。」
スローンは、3人に言う。
「えーっと…」
「私は死ななかったことだし、」
「これからよろしくお願いしますよ。」
スローンはアレクスとミラを不満そうに睨みつけた。
「はいはい、よろしく。」
ミラは仕方無さそうに答えた。
「……」
アレクスは頷いた。
「……これか。」
スローンたちが眠りについた頃。
エリックは格納庫でEFを見上げていた。
格納庫の照明が、EFの装甲に静かに反射している。
エリックの手の中には丸まった紙とアンプルがある。
エリックは呟いた。
「……やっぱり、あの計画か。」
何かを理解したかのように。
すると、エリックが通信機を取り出す。
「こちらエリック。」
短い沈黙。
そして、
「ええ。」
「例の機体の設計図を入手しました。」
「それと、あの娘のDNAも。」
そう答え、アンプルを少し揺らす。
アンプルの中には、透明な液体が少しだけ入っている。
もう一度沈黙。
エリックは短く答える。
「何、みんなよく寝てたもんですから。」
最後の沈黙。
「…はい、閣下。」
通信は途切れた。
エリックは通信機をポケットに戻す。
「…面白くなってきたな。」
エリックは小さく笑った。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
豆腐です。
今回は、この世界の変形ロボ的な存在、エンハンスド・ファイター(EF)と、
その試作機『XEF-0 プロトアストラ』の解説です。
エンハンスド・ファイター(Enhanced Fighter / EF)は、
戦闘機と歩行戦車を融合させた可変型戦闘兵器。
空戦能力と地上戦能力を両立し、
強襲・制圧・都市戦を目的として開発された。
全長
約21m
翼幅
約15m
全高(飛行形態)
約5.5m
全高(歩行戦車形態)
約9〜10m
空虚重量
約28t
戦闘重量
約40t
形態
戦闘機形態
通常の航空戦闘を行う形態。
最大速度
マッハ2.4
用途
空戦
高速侵入
強襲降下
戦場離脱
歩行戦車形態
地上戦闘を行う形態。
通常移動
約80km/h
全力疾走
約120km/h
アフターバーナー加速
最大約300km/h
用途
対地戦闘
都市戦
防空
拠点制圧
変形システム
変形コード
「シフト」
音声コマンドで変形を開始。
変形時間
試作機は5秒。
主な変形機構
逆関節脚展開
主翼二重折り
機首二分割
戦車砲展開
対空兵器展開
減速パラシュート展開
着地システム
変形後
小型減速パラシュート
スラスター姿勢制御
逆関節脚着地
脚部の油圧ダンパーが衝撃を吸収。
試作機は衝撃が大きく
転倒事故も多い。
歩行戦車形態の操作
操作体系は戦闘機とほぼ同じ。
スロットル
→ 移動速度
操縦桿
→ 方向転換
ジャンプ
→ 操縦桿を押し込む
AIが脚の動作を自動制御。
エンジン
可変サイクル・ターボラムジェット
モード
ターボファン(巡航)
ラムジェット(高速)
推力
240kN ×2
補助スラスター
配置
背部
腰部
脚部
用途
姿勢制御
ジャンプ
着地補助
歩行加速
装甲
ナノ複合セラミック装甲
三層構造
1 耐熱セラミック
2 チタン・カーボン複合材
3 衝撃吸収材
武装
戦闘機形態
30mm機関砲
短距離空対空ミサイル
中距離空対空ミサイル
空対地ミサイル
精密誘導爆弾
歩行戦車形態
120〜140mm主砲
対空兵器ユニット×2
多目的ミサイル
ロケットポッド
重機関砲
AIシステム
TACS-AI
役割
変形制御
姿勢安定
武装管理
地形解析
自動回避
自動着艦
戦闘ドクトリン
EFの基本思想
「空から現れる機動砲台」
主な戦術
空中強襲降下
空中砲撃
都市戦投入
機動防空
弱点
変形中は無防備
構造が複雑
重量が大きい
関節部装甲が弱い
XEF-0「プロトアストラ」
アストラ連邦が開発した世界初のエンハンスド・ファイター(EF)試作機。
戦闘機と歩行戦車を融合させるという、当時としては非常に無謀な計画から誕生した機体。
しかし多くの問題を抱えている。
型式番号
XEF-0
機体名
プロトアストラ(Proto Astra)
分類
EF試作機
所属
アストラ連邦軍特殊航空部隊ヴィトニル隊
開発
アストラ連邦軍兵器開発局
機体スペック
全長
約22m
翼幅
約16m
全高
戦闘機形態:約5.8m
歩行戦車形態:約10.5m
空虚重量
約32t
最大速度
マッハ1.8
最大の特徴
世界初の変形戦闘兵器
この機体は
戦闘機
歩行戦車
を切り替える
世界初の可変兵器。
しかしその代償として
トラブルだらけの機体だった。
変形システム
変形コード
「シフト」
変形時間
約5秒
この速度でも革命的なのだ。
歩行システム
脚部は
逆関節二脚
特徴
衝撃吸収油圧
地形追従AI
補助スラスター
ただし試作機のため
転倒事故が非常に多かった。
着地問題
XEF-0最大の問題。
飛行状態から変形すると
衝撃が強すぎて転倒する。
そのため着地時に
減速パラシュート
スラスター噴射
AI姿勢制御
を同時使用する必要があった。
それでも事故が起きた。
武装
戦闘機形態
25mm機関砲
短距離空対空ミサイル
試験用誘導爆弾
歩行戦車形態
120mm試験戦車砲
重機関砲
試験用ミサイルポッド
AIシステム
搭載AI
TACS-Proto
機能
変形補助
姿勢制御
脚部制御
着地制御
自動着艦
しかし性能が低く
パイロットの負担が大きかった。
試験結果
成功
可変機構の実証
歩行システム成功
空中降下成功
失敗
機体重量過大
着地衝撃問題
機体強度不足
次回は番外編です。
スローン、実は1話の途中からずっと服が対Gスーツなんですよね。
売店で売ってる服も似合わないんです。
だからハルトマンがスローンに服を買いに行かせます。
スローンはあまり乗り気ではありませんが……




