出会いとマドレーヌ⑤
「そいえば言ノ葉さんが僕に会いたかったのって僕のお菓子を食べたかったからって聞いたんだけど」
僕は言ノ葉さんから視線を逸らすと、赤面を隠すように別の話題を切り出す。
「そうだよ。迷惑かなって思ったけど、達右くんのお菓子が美味しいって竹馬谷くんが言ってるの聞いて食べたくなっちゃってお願いしに来たの」
彼女は僕に期待の眼差しを向けている。
「そっか....でもさ正直言いにくいんだけど、僕としてはその提案は受け兼ねるかな」
慧の紹介ということもあり、一応話だけは聞いては見たが、相手が誰であれ、作ろうとは考えていなかった。
「そんな気がしてたけど、やっぱりそう....だよね。理由としては金銭的な部分と義理のなさかな?」
彼女は少ししょんぼりとした態度を浮かべている。
僕は言ノ葉さんの鋭い指摘に動揺してしまう。
「えっああ、だいたいそんな感じ、ごめんね」
僕は申し訳なさそうに謝る。
「別に達右くんは悪くないよ、むしろ勝手に期待してた私が悪いだけ。でもさ、この二つが作ってくれない原因ならこの二つを解決すれば作ってくれるってことだよね?」
彼女は少し期待を取り戻したのか声に熱が籠っている。
「そうだけど、前者はともかく後者はどうやって解決しようとしてるの?」
確かに僕はこの二つの原因を解決してくれるのであれば作ってもいいと思っている。
だが前者はまあ何とかなるにしても、後者は僕が納得する関係を結ばない限りなし得ない。言ノ葉さんは一体どんな提案をしようとしているのかそんなことが頭をよぎった。
「私が提供できる関係は異性としての関係か、勉強を教える関係この二つになるけど、達右くん的にはどっちが好みかな?」
言ノ葉さんは上目遣いで僕を覗いてくる。
「僕をからかってる.....のかな?」
「からかってないよ、至って真剣!」
少し頬を膨らす言ノ葉さん。
「まあ異性の関係は一旦置いておくとして、言ノ葉さんって学年の順位はどのくらいなの?」
「この前の二学期の中間テストは学年三位だったよ」
「三位?!」
予想以上の順位に僕は唖然とする。
「驚いたでしょ、こう見えても結構勉強できるんだよ私」
言ノ葉さんは両手を腰に当て得意げに答える。
「それは凄いな。僕の学年順位は中の上くらいだから、それだったら勉強を教えて貰うのもありだな」
僕は勉強が得意ではないがそれなりに努力してこの順位を維持している。
しかし、この進学校である北東高等学校で上位をキープするとなるとそれなりの頭と努力が必要になってくる。それができてしまう言ノ葉さんには素直に感服してしまう。
「勉強を教えてあげる関係はありなんだね、じゃあ異性としての関係はどうなのかな?」
「そっちも答えないとダメなの」
僕は言ノ葉さんから目をそらす。
「だめだよ。正直こんな機会滅多にないよ」
「滅多にないけどさ.....、いや逆に聞くけど言ノ葉さんは初めて会った人と付き合う関係になっていいの?」
「達右くんならいいよ」
言ノ葉さんの言葉が冗談なのか本気なのか判断がつかなかったが、膝の拳が強く握られているのが横目で見えた。
「――わかった、じゃあ勉強教えてもらうことにするよ」
僕はその場を誤魔化すように勉強を教えてもらう関係を選ぶ。
「あぁ〜スルーしたー。意気地無し〜」
彼女はふざけた口調で僕を茶化してくる。
「意気地無しで結構です、で話を戻すと勉強を教えてもらうのはお菓子を渡すときでいいかな?」
「うん、いいよ。場所と日数はどうする?放課後にお菓子を作るってもらうなら達右くんの家の方がいいよね?日数は週一くらい?」
「そうだね、言ノ葉さんが嫌じゃなければ僕の家で全然おっけー。日数の週一の方が僕としても助かる」
「わかった、でさ...お金の方なんだけど....」
と彼女はもうひとつの話題を切り出すと、こちらが本題であるかのように表情が曇る。
「僕的には材料費の半分を負担してもらえればいいって今のところは考えているんだけど」
「半分でいいの?てっきり全額負担する気でいたからとても助かる」
僕の提案が予想外であったのか言ノ葉さんは唖然とした顔を浮かべている。
学生である以上得られる金銭の上限は決まっているため、ここでの出費に一喜一憂するのも無理もない。
「流石に全額はないよ、逆に全額負担したら市販のものを買った方が安いと思うし僕に作ってもらうメリットなくない?」
お菓子はとにかく材料費が掛かってしまう。慧には色々と助けて貰っているので、お金は受け取らずに作っているが、言ノ葉さんに毎週作るとなると厳しく折半してもらてるなら、こちらとしてもありがたい。
「それに勉強教えてもらうことが決まったから一方的な関係じゃなくなるしね」
「ありがとう達右くん!」
「じゃあこれで決まりだね、言ノ葉さんが僕に勉強を教えて、僕はお菓子を作る、で期間は一週間に一回で」
そうこう話しているうちに言ノ葉さんとの関係が成立した。
結局のところ僕にもメリットのある話に傾いた訳だが、どうにも腑に落ちない。
元々買う気のなかった商品を掴まされた感覚によく似ている。




