モンブランと別れ⑧
大変遅くなりました。
この章で終わろうと考えていたのですが、どうしても歯切りが悪いと感じたためもう一章分書くことに決めました。
予め申し上げておくと更新頻度は落ちると思います、楽しみにしている方がいたのなら申し訳なく思います。
最後までお付き合いいただけると幸いです。
「来た時の二人に戻っちゃったね」
「そうだね」
時計を見ると青木さんが退室してから五分くらいしかたっていなかった。時がスローモーションにかけられたかのように遅い、それは僕が何もかも受け入れらていない証拠なのだろう。
「少しお腹減っちゃったからなにか注文していい?」
「ああ、うん」
「達右くんはなにか食べたいものとかある?私のおすすめはモンブランなんだけど」
「ああ、うん」
「ねぇ聞いてる達右くん?」
「ん.....ああごめん。ぼーっとしてて」
言ノ葉さんの呼びかけで我に帰る。先程から頭で考えている言葉と実際に口にする言葉が乖離している。自分が選択し決断したことであるのにもかかわらず、何故こんなにも後悔と自責の念が込み上げてくるのだろう。
「僕はいいかな食べる気分じゃないし」
幸村くん、そして青木さんのこともあり少し気が滅入っていることだけあって何かを食べるといあ気分では無い。この状況の中何かを食べようとする言ノ葉さんは神経が太いのかそれとも気持ちを紛らわすために食べるのかはわからないが彼女のたくましさを感じられずにはいられなかった。
「そっかーここのモンブラン美味しいのに」
言ノ葉さんはそういうと定員さんを呼びモンブランとおかわりのアイスカフェラテを注文した。
「達右くんさモンブランで一番手のこってる部分ってわかる?」
「それは一番作るのが手間がかかるってことだよね?」
「うん」
「そうだなやっぱり栗のクリームのところじゃないかな。スポンジとかはそんなに難しくないから消去法だけど」
スポンジを焼くのは比較的に簡単。材料を混ぜて焼くだけなので手順さえ間違えなければそこまで難しいことでない。だとすると作ったことはないが栗のクリームが一番難しいのではないだろうか。
「ぶっぶー残念。正解は一番上に乗ってる栗、マロングラッセでした」
僕が外れるとわかっていたのか彼女は両腕でバッテンをかくと得意げな顔で笑みを浮かべていた。
「へぇ〜あれってマロングラッセって言うんだね正式名称初めて知ったよ。栗そのままだから一番作るの簡単そうに見えるけど一番作るのが難しいのはなんか意外だな〜」
モンブランの飾りとしてしか見たことがなかった栗が一番手間がかかっているとはお菓子をよく作る僕でも知らなかった。」
「やっぱり最初はそう思うよね、シンプルだから作りは簡単って。でもさ一番シンプルでもそこには月日と技術が込められてるのにそれをみんな知らないのはなんか悲しくない?ありのままでもやれるんだぞってことを知ってもらいたいな私は」
「ありのままって。まあ栗本来の味を味わいたいならこっちの方がいい気もするけど.....。そもそもだけどマロングラッセってどうやって作るの?」
「マロングラッセはね栗をシロップに漬けて毎晩糖度をあげていってそれ一週間以上繰り返しすの。見かけは簡単だけど栗を綺麗に向くのも大変だし、煮る時も手順を守らないと煮崩れしちゃうから難しいんだって」
「でもそんなに手間がかかってるのを知ってると言ノ葉さんが言う通りで注目を浴びないのは少し悲しく思うね。やっぱり物ってどれだけ丁寧に作られてるか知ってたりするとそのものに対する見方がわかるから知ってるって大事だね」
人は目の前にあるものをそのまま受け止めようとする生き物であるからして深くは考えずにいることが多い。シンプル故に簡単だろうなどの浅はかな考えや思い込みが時として誤解や齟齬を産んでしまい、時として大きな出来事へと発展してしまう可能性すらある。たかが栗一つとしても作り手側の苦労などを見ない行為に等しく無知を晒しているだけだということを改めて認識することとなった。
「知っているってそれだけって思われること多いかもしれないけど知っていることで楽しめることの幅が広がし世界が広く見えるようになるから案外馬鹿にできないんだよ」
「お城とかそれこそお菓子でもそうだけど知ってれば見る以上に楽しめし相手を楽しませることもできるから知ってることって武器になるしね」
今の時代、知るという行為に意味がないという人も中にはいる。SNSが普及したことにより人間が覚えていなくてもAIが覚えているのだから人間が記憶している意味がないとその人達はいう。だが知っているということは知識の拡張であり、知っていなければそのAIとすらにも何を聞けばいいか判断できない恐れすらある。知識は全ての源であり、人間にはなくてはならないものなのである。
「お待たせ致しました、当店特製のモンブランでございます」
「うわぁ〜ありがとうございます」
言ノ葉さんは定員さんからモンブランを受け取とると、その表情はまるで誕生日ケーキを目の前にする子供みたいな顔をしていた。
「そんな見てどうしたの達右くん?あ、もしかして食べたくなったとか?」
「いやそうじゃなくて」
「わかってるって達右くんにはこの美味しいマロングラッセをあげる。はいあーんして」
「いやここで?それは....その恥ずかしいんだけど」
恋人でもない言の葉さんにこんなことされるとは思ってもいなかった。青木さんと付き合っていた時ですらこんなことしなかったのに。
「いいから早く落ちちゃうから」
「じゃあ」
言ノ葉さんはマロングラッセをさしたフォークに手でお皿を作り僕の口へと運んでくれた。
口に入れると最初にバニラの香りが口いっぱいに広がる。そしてあとからお酒?だと思うのだがその風味が後を追い、栗を咀嚼すると栗の甘みとバニラ、お酒のハーモニーが重なり絶妙なバランスの味へと姿を変えた。だが恥じらいのせいかいつもより味覚に気を向けられていない気がする。
「このお酒ってなんのお酒なの?」
「メニューにはブランデーって書いてあるけど」
「ああブランデーか」
未成年ということもありブランデーの味はわからないがよくチョコレートなどに入っているお酒ということだけ知っている。
「それでどう感想は?」
「うん、美味しいよ」
「それは良かった。でさ私達右くんがマロングラッセを美味しいって言ってくれたら言おうと思ってたことあるんだけどいい?」
「ん?ちょっと待って。その言い方だと僕が思うであろうことを知っていたように聞こえるんだけど」
この店に来ることは提案したのは言ノ葉さんだが実際に来ると決めたのは四人の意思だ。だとするとお店に来ない可能性すらあるわけだ。尚且つ言ノ葉さんにあーんされたとはいえ僕がマロングラッセも食べない可能性すらもあった。そうなると言ノ葉さんは全てそうなると信じていたことになる。
「もし知ってるって言ったらどうする?」
「それは怖いと思う以外に感じる感情ないと思うけど」
今回の一連の件、全て言ノ葉さんの思い描いた通りになっていたのだとすると.....。考え過ぎで憶測の範囲を出ない。だがここまで彼女が踏み込んできたそれには理由が必ずあるはず、僕はその糸を掴みに.....。
「嘘嘘、知ってるわけないじゃん超能力者じゃないんだし」
「でも確信はあったんでしょ?」
「やっとここまで来たね、遅いよ達右くん。私は慧くんのところくらいで気づいて欲しかったんだけど、まあいっか結果こうなったし」
「それじゃあ今までのことって」
「話すよ。私が達右くんを必要にしたいって思った日のことを」
そういうと食べかけのモンブランを口に運ぶと言ノ葉さんが過去の話を語り出した。




