モンブランと別れ⑦
遅くなりました。あと1話で終わる予定です、最後までお付き合い下さい。
「えっ?.....達右くんもう一回言って貰っていい?」
「僕たちの交際関係も終わりにしようって言ったんだ」
お昼が過ぎ午後の十五時を回ろうとしている店内。お客は僕と言ノ葉さん、青木さんを含めて三人しかいない。
「それは.....あれでしょ。言ノ葉ちゃんに言われたからでしょ?」
「言ノ葉さんは関係.....ない。これは僕の本心からの言葉.....だよ」
これは僕本心の言葉だ。何を選ぶか答えはずっと前から決まっていた。いや決まっていたと言うよりかは答えを間違えたのに近いのかもしれない。青木さんはどこまで行っても青木さんで変わることはない。言ノ葉さんはそれをわかっていたし、それを僕に伝えてようとしていたが僕ははそれを見ようとせず目を逸らしていた、いや見ようとしなかったんだ。
「幸村くんのことは私が悪かった.....それは認める。でもそれは間が刺したって言うか本心では達右くんをずっと思ってた。これは変わらないの、だから.....」
心のどこかではわかっていたはずだ、人はそう簡単に変わらないということを。でも僕は信じたかったし、信じようとしたかった。僕自身には何もないかったから、何もないなりな何かを得ようとしたかった。
「わかってるよ青木さんが僕を想っていてくれてることは。でもこの別れは言ノ葉さんの言う通り、僕のためでもあり青木さんのためでもあるんだ。だから受け入れて欲しい、いや違うな。受け入れるべきなんだよきっと」
僕たちが想い合う間柄であることは変わらない。だがそれ以上のものは何も生まれない。いくら尽くそうとも寄り添おうとも。
「嘘だ。本当の達右くんならそんな事言わない。言ノ葉ちゃんに言わされてんるでしょ?そう言ってよ....」
「それは.....言えない」
「私がいないとダメって達右くん言ったじゃん」
「ダメかもしれない」
教室ではいつも僕に話しかけてくれるし、何かあればいつも助けてくれる。そんな彼女に惹かれ、魅せられ、応えようとした。そんな僕だからこそ彼女がいなければ僕を形作っていたものがひとつ無くなくなり欠け落ちる。
「それなら.....もう一度。私なんでもするし達右くん以外の男の子は見ない.....だから」
僕を求めているであろうその表情は儚げであの日に見た表情と重なる。温もりに感触。それをなぞるように彼女と交わした幾つもの思い出が蘇る。
「ダメなんだ。僕は青木さんが好きだし一緒にいたいけど自分に無いものを青木さんで埋めようとしている自分がいる。それが決して悪い事だとは思わないしむしろ僕には必要だとすら感じる。けどそれじゃダメなんだきっと。僕は欠けたままでいなければいけない、欠けてないと僕じゃないし僕でいられないから」
「何....それ」
「ごめんわかってる自分勝手だって。でもそれを含めて僕なんだ。だから僕たちは終わった方がいい」
なぜこういう時に限って自己を正当化しようもする言葉しか浮かばないのだろう。僕は悪くない、彼女と出会ったこと、言ノ葉さんがいたこと、それらに責任を擦り付けたい気持ち
「終わりたくない、まだやれてないこと沢山あるんだよ。私はもっと達右くんと同じものを見ていたいよ」
浮気していたって他の男と関係があったって、僕を必要としてくれたことには変わらない。だから僕も青木さんとみたい景色がある、今はその気持ちだけで。
「青木さん?」
「あっごめん。なんか涙が出てきちゃって」
彼女の瞳から滴り落ちた水は頬をつたり緑色のジャケットの色を変えた。
「これ使って」
「はぁー。黙って聞いてればさ青木ちゃんは自分が浮気したのに達右くんとまだ関係を続けたいって思ってるの?傲慢過ぎじゃない」
言ノ葉さんは青木さんに渡そうとしたハンカチを取り上げるように僕から奪う。
「いい、青木ちゃんが悪いの。青木ちゃんが幸村くんと関係があったこれは揺るがない事実なのわかる。それなのに関係を続けたいですって虫のいい話はあると本気で思ってるの。思ってたら認識を改めるべき。まあ自分の厚顔無恥を晒してもいいなら別だけど」
先程よりも一段と切れ味が増している言ノ葉さんの言葉。自らが犯したことに対する責任それに向き合わせるための哀れみの言葉を僕はただじっと聞くだけしかできない。
「言ノ葉ちゃんには関係ないでしょ。最後は達右くんが決めることなんだから」
「関係ないかもね。でもその達右くんの答えはさっきのでしょ?じゃあそれを青木ちゃんは飲み込むべきなんじゃない。そもそも否定する権利は青木ちゃんにはないけど」
「もうそのくらいで言ノ葉さん。僕は別れを告げたし、これ以上彼女を咎めるつもりは無いから」
あまりにも火力が高すぎる言葉にいても立ってもいられず静止を促してしまう。
「さっきのハンカチもそうだけど達右くんは優しすぎる。さっきも言ったけど彼女のためを思うならここは怒らないと。意味のない優しさは優しさじゃないんだよ」
「意味のない優しさは優しさじゃない.....か」
僕は全てを包むことを優しさだと認識していた。それは僕が彼女に渡せるものがそれしかなかったからだ。だが僕が渡した優しさとは空虚なものでそれ以外に渡せるものがなかったが故の消去法。つまりは何もない空っぽなやつに限って優しさが武器で優しさが良いと叫ぶ。そこには何も詰まっていないのに。
「それで青木ちゃんはどうする帰る?」
「達右くん本当に終わりなの?」
青木さんは言ノ葉さんの言葉を無視するように僕へと言葉を投げかける。
「終わり。浮気する人とは付き合えない」
青木さんは顔一面が赤くなり、先程よりも多くの涙を流す。落ちる涙には色が混ざりせっかくのメイクが崩れてしまっていた。
「一方的に振られるってこんなに辛いんだね。私今まで必要としなくなったものは自分で切り捨ててきたから。こんなにも胸が張り裂けそうになるなんて思いもしなかった」
彼女の声は震えいつもより小さく彼女の姿が映った。
「言ノ葉さん。私はあなたを許さない、私が悪くても今日あなたさえいなければ別の道が開けたから。あなたへのこの思いは絶対に忘れない」
「あっそ。私は青木ちゃんに対してどうも思ってないけどね」
「最後までそういう態度なんだねまあいいけど。達右くん多くは言わない。ただ好きだよそれだけ」
「ありがとう僕も好きだった」
「そっか最後にその言葉は貰いたくなかったな」
そして僕と青木さんは同じクラスの人に戻ったのだった。
そして店内には僕と言ノ葉さんのみが取り残された。




