モンブランと別れ⑥
遅くなりました。最近執筆スピードが落ちてます。
「えっ、何言ってるの。言ノ葉さんだっけ?まずは達右くんとあなたの関係からの話じゃない?」
そう青木さんの指摘は正鵠を射ている。青木さんと幸村くんの関係は確かなものであったが、だからと言って僕と言ノ葉さんが一緒にいたことがなかったことになる訳ではない。それが消してやましい気持ちがなかったとしても。
「関係もなにもただの友達だけど?」
言ノ葉さんは一切表情がゆらぐことはなく淡々とした口調で述べる。
言ノ葉さんの言っていることは正しいし、間違ってなどいない。だが人間ならこの状況であったのなら多少なりとは揺らぎや迷いなど出てしまうもの。やましい気持ちがないにしてもそれが出ない言ノ葉さんは何を考えてこの言葉を紡いでいるのか。
「私が言えることでもないけど関係のない男女がわざわざ休日に水族館になんてくる?」
「来ないと思う普通なら」
「普通なら?」
「うん、普通なら。ね達右くん?」
あまりにも自然な会話のパスに体が急反応してしまいビクンと跳ねてしまう。
「いきなりこっちに振らないでよ」
「達右くんのことも話してるんだから振るのは当然でしょ」
「当然か.....まあそうだね。それでその言い方だと僕たちが普通じゃないって聞こえるんだけど」
「自覚なかったの?私たちは普通じゃないよ」
言ノ葉さんの認識としては自信と僕が普通ではないらしい。確かに普通の友達関係とも言えないしましてや恋人でもなく、利害の関係とも言い難い。何かと言われればそれを言語化するのも何か違う気がするわけで。普通じゃないという言葉がしっくりはくるのは間違いない。
「その言葉が一番僕たちの関係を表してるのは間違いないけど。でも今日来た理由はもっと単純で気晴らしというかリフレッシュを兼ねてなんだよ。だから青木さんが疑うようなことは何もないよ」
「二人で口裏を合わせればどうにでも言えるもんね」
「多分口裏なんて合わせなくても私と達右くんは同じ回答をしたと思うよ」
「あっそ。じゃあ聞くけどその普通じゃないってなんなの?」
「それは.....」
僕たちの関係は言葉に表すことができない、其れは言ノ葉さんも理解している。他人には到底理解できないし共感もされないわけであり言葉に表すことなんて意味はない。
「結局変に高尚ぶって自分たちは男女の関係じゃありませんって言いたいだけでしょ。傍から見たら私と同じことやってるのにね」
「本当に僕と言ノ葉さんは....」
「いいよ達右くん」
机から乗り出す僕を静止するように言ノ葉さんが手の伸ばす。
周りには理解されないという建前を張っているだけなのかもしれない。それでも僕は言ノ葉さんと.....いたい。
「ごめん熱くなりすぎた」
普段から冷めきっている僕がここまで熱くなるとは。
「私と同じってことは幸村くんとの関係を認めたってことでいいの青木ちゃん?」
「認めるも何もさっきここで幸村くんと話した内容が全てだよ。私はもう幸村くんと関係のない立場だけど逆にそれがわからない言ノ葉さんじゃないでしょ。それに達右くんも幸村くんも私を求めたから私はそれに答えただけ、それの何がいけないことなの?」
青木さんにわるびれる様子など一切ない。彼女は本心からそう思っているのだと表情から伝わってくる。いけないわけがない。必要とされたいと願う承認は誰しもが持っているもの。僕もそれに応えたかった、答えたかっただけなのだから。
「いけなくはないと思うよ節度がないだけで。要は誰にでも求められたら股を開くってことでしょ。承認を性で満たすのと、それに達右くんを巻き込むのをいい加減やめたら?」
「自分が関係持てないからって嫉妬?男女の仲だったらそれが普通なんじゃない。あっでも言ノ葉さんにとってはそれが普通じゃないんだっけ?」
明らかにいつもと様子の違う二人。言ノ葉さんに関しては言葉が鋭く相手が一番言われたくないであろう言葉をわざとチョイスしている悪どさがある。青木さんは普段とは違い荒々しく教室で話す時程の優しさは微塵も感じられない。
「青木ちゃんってそんなに下品だったんだね初めて知ったよもっと品があると思ってたのに。まあそれはいいとして現状では確たるものがある側と断定できるほどのものしかない側だけどそれでもまだ続ける?青木ちゃんならもうわかってるんじゃない?」
言ノ葉さんのいつもともうひとつ違うところ、それは今回ばかりは譲る気がないということ。肝心な部分ははぐらかすのがいつもの言ノ葉さんだが今回は蹴りをつける、そんなふうに感じてしまうくらいに気迫迫っている。
「さっきの答えだけど私たちは互いに必要としてる、それは青木ちゃんみたいに承認を求めるものでも幸村くんみたいに自尊心を得るためではなく互いの在り方として求めあってる。そこには体も愛も必要ない。必要なのはそこにその人がいるただそれだけ。それが私たちの関係であって青木ちゃんが私に求めている答えだよ」
「そんな普通を本当に達右くんは求めてるの?それは言ノ葉さんのエゴであって達右くんがそう思ってるとは限らないでしょ。現に私と関係があるんだから」
「そうかもしれないね。でも青木ちゃんというノイズが達右くんの在り方を変えてしまったこう考えることもできるんじゃない?だから私は青木ちゃんと達右くんはここで終わるべきだと思う。それが互いにとって一番いい選択になるから」
「だからって」
僕に助けを求めるような目でこちらを向いてくる青木さん。
確たる証拠はある。僕自身も彼女のやってしまったことを擁護するつもりはない。だが曲がりなりにも彼氏なのだ、故になにか彼女に助けを出すべきなんじゃなか。守りたい気持ちか同情心が区別がつかないけれどなにかしてあげなければとの思いがふつふつと湧いてくる。
「でも」
「達右くんダメだよ」
僕の言葉を遮るように言ノ葉さんが視線を向ける。
「女を使って自分を守ってもらおうとする女の子を守りたいの達右くんは?達右くんの取る行動はひとつしかないのわかる?」
「.....」
感情に区別がつかないそれがもう既に答えだと自分でもわかっている。青木さんと過ごした時間は嘘ではないし作り物なんかでもない確かに本物だった。そこにあったのは自分の空虚さを埋める他人の承認と肉欲ただそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない愛とは無縁の代物。それにしがみついても何も生まれないししがみつかれても何も生み出せない。
「はー呆れた。私にはエゴだのなんだ言っておいて自分のはエゴじゃないって言い切れるんだ言ノ葉さんは?」
「言い切れるよ。確認してみれば達右くんに?」
「その自信はどっから湧いてくるの。私と達右くんは言ノ葉さん以上に繋がりがある。だから私を選ぶに決まってる。そうだよね達右くん?」
「僕は.....」
僕が取るべき選択はこれしかない。 いやこれしか選んではいけない。
「青木さん。僕たち終わりにしよう」
時間にしては短く体感としては濃密な青木さんとの関係。それを終わらせる言葉を僕は言ったのだった。




