モンブランと別れ③
休日ということもあり、水族館は家族連れやカップルの客層が多く賑わっている。
エントランスを抜けると海の中をイメージした空間が一面に広がる。
「達右くんなんでそんなキョロキョロしてるの?」
「いやだって僕たちって付き合ってる訳じゃないでしょ?だから学校の人に見られたりとかしたら面倒くさくなるからさ」
僕と青木さんが異性の関係にあるということは周りに気づかれていない。それ故に言ノ葉さんと一緒にいるところを見られてしまうと一瞬にして噂が広がってしまう。
僕としては見られて困るリスクが二つあるため見られないことに越したことはない。
「別に周りがどう言おうと事実は違うんだから気にしても仕方なくない?」
「それはそうだけど.....さ」
「達右くんが本当に気にしてるのって青木ちゃんのことなんでしょ。今日のことはちゃんと伝えてきたの?」
「いや、それが伝えられなくてさ」
そう二つ目のリスクというのが青木さんへ今回のことが知られてしまうことだ。
やましい気持ちなど一切抱いていないのなら、それをそのまま伝えればいいだけの話なのだが僕にはそれが出来なかった。彼女が僕に向ける期待を裏切りたくない気持ちや他の女の子出かけてしまうという負い目からそれを言い出せず今日に至ってしまったのである。
「それで良かったの達右くんは?」
「良くはないと....思う。実際恋人がいるのに他の女の子とデートなんて浮気とほぼ変わんないし。勿論僕にはそういう気持ちはないけど、それを証明する手立てがないから」
「そうだよね。男女の友情って成立しないって思われてるけどそれはあくまで未熟な人ならの話。成熟した人ならそれは成り立つのにみんなそれを無視して感情に走っちゃう」
僕は正直にいうと言ノ葉さんに好意がある。だがこの好意は人としての好意であって異性としてのそれではない。性別という括りはそれだけで人の在り方を決めつけてしまうが故にある事情だけを切り取りとるだけで異性の関係と疑われてしまう。そこに互いを想う気持ちがなかったとしても。
「だからもし今日のこと誰かに見られたりとかしたら遠慮なく私のせいにしていいよ。私が強引に誘ったって言えば達右くんが悪く言われることはないと思うから」
「それだと言ノ葉さんに申し訳ない気がするんだけど」
いくら今回のことを知られたくないとはいえ、全て言ノ葉さんのせいにするというのは違う気がする。元はと言えば前回の森宮先生との一件を僕が上手く納めれなかったのが原因であってほぼ全て僕の不甲斐なさが招いてしまった結果なのだから。
「いいよ全然。私達右くんほどそういうの気にしないから」
次第に歩き進めると当たりが少し暗くなってきた。
「今日はこれを見せたかったんだ」
目の前の水槽を眺めながら言ノ葉さん指を指す。
そこには大人三人から四人の高さを誇る大きな水槽が僕の視界を被う。一面青の景色は僕を魅了し虜にさせた。考えや思考のモヤモヤと霧がかっていたものが今はどうでもよく、全身に浴びる青それに浸かりたい、浸っていたいそれだけしか考えられなかった。
「なんか凄くて.....上手く言葉がでない。」
言葉では表せない感覚。壮大さ、綺麗さ、美しさ。どの言葉も当てはまるが当てはまらない。作り出された美しさ故の感覚。
水槽の中では多種多様な生き物達が自由に本来の在り方に従って動いている。これを見てしまうと人間がいかに縛られているのかを目の当たりにしているかのようだった。
「さっき言ってた言ノ葉さんの意味がわかった気がする」
ルール約束それらを守ることは大切だ。だがそれらを意識していたら息苦しくなってしまい、時として人も在り方を縛ってしまう。
人は気づかない間に自分を縛りはこに入りそれを自由だと勘違いしてしまう。本来の自由とは何にも縛られず何処へでも生きるもの。
そう考えると僕は自由のスタートラインにすら経っていないと言ノ葉さんは言っていたのかもしれない。
そして今の僕を縛っている物は。
「そう?それなら良かった」
目の前の光景に心を奪われても尿意は突然とやってくるもの。
「ごめん御手洗行ってきていい?」
「このタイミングで?」
言ノ葉さんはくすくすと笑いながらトイレの方向を指さしてくれた。
「ごめんいってくる」
僕はそう残すと言ノ葉さんの指さす方へと向かった。
用を足し急いで戻ろうとトイレを後にする。
「あっ」
「あっ」
T字路で向かい合う男子トイレと女子トイレ。
そこから出ると向かいの女子トイレから見慣れた彼女が現れた。
そう青木さんだ。




