モンブランと別れ②
今回も少し短めです。
一定の読者さんがいることが素直に嬉しいです。
言ノ葉さんとの約束の日当日。
駅のロータリーは休日ということだけあり人の往来がかなり多い。
服装は悩み悩んだが、結局いつも着ている上下セットアップの服装で行くことにした。緑がメインで赤、白、紺のタータンチェック柄のジャケットにワークパンツ。一目見るとパジャマかと思う服装だが僕は案外気に入っている。
「今日ってどこいくんだろ」
待ち合わせ時刻の十五分前。指定された駅からして多分水族館に行くと思うのだが行く場所の検討が未だにつかない。
というのも誘われたということもあり今回のプラン、計画は全て言ノ葉さんに一任しているからだ。本来なら男性の僕が決めるべきところなのだが、言ノ葉さんがそこを譲らなかったためこんな感じになったのである。
電車のアナウンスが駅ホームに響き渡る。
「達右くんお待たせ」
聞きなれた声が聞こえスマホの画面から目をあげる。白いデニムのワイドパンツに黒いダウン、長い髪はウェーブがかかり、いつもの雰囲気を感じさせない言ノ葉さんが視界に映る。
「あれ言ノ葉さんいつもと雰囲気違うね」
言ノ葉さんと平日以外で会うのが初めてなので私服に新鮮味を感じるというのもあるが、普段ストレートの髪型に内巻きのウェーブがかかっている髪型や艶やかで美しいメイク姿が普段よりも彼女の女性らしさを引き立たせている。
「そう?ありがとう。達右くんも似合ってるよ」
「そうかな?あんまり自信なかったからそうって貰えるとありがたい」
「セットアップってオシャレ的な難易度高いからそれに挑戦するだけすごいよ」
言ノ葉さんはそう言ってくれているが僕的には挑戦した気持ちなどない。好きな物を着るのに理由や気持ちなど必要ないと思うのだが。
「挑戦って大袈裟な。僕は好きだから来てるだけだよ」
「そっか、そうだよね男の子だもんね達右くんは」
「それはそうだけど、なにか僕おかしなこと言ったかな?」
「そんな事ないよ。ただ似合う似合わないを気にしなくていいのが羨ましくてさ。失敗への恐怖が男の子と女の子では違うって話」
確かに男の子の場合は髪型や服装を失敗しても笑い話なったり、あるいは自分自身のネタにできるのだが、女の子と場合は一つの失敗で自分への見られ方が大きく変わってしまうからこそ、そこに対する恐怖や恐れというものは男の子より何倍もの重圧に晒される。
それ故に普段来ているものしているメイク、髪型全てに至るまでセンサーを張り巡らせていなければいけない過酷さを再確認させられた。
「考えたこともなかった。やっぱり女の子って大変だね」
「まあその分恩恵もあるけどね。それじゃ行こっか」
「ああ、うん」
駅の階段を降りると目の前の信号が赤へと点滅が変わる。天候は晴れていて太陽も出ているが建物から出るだけでこんなにも気温差があるとは。一瞬にして両手がかじかんでしまう。
「今日は一段と冷えるね」
「天気予報では寒波が来てるって行ってたからね。達右くん脚震えてるけど大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫。言ノ葉さんこそ寒くない?」
「達右くんよりは暖かいの着てるから大丈夫だよ」
この時期にジャケットだけというのは少し無防備過ぎたのかもしれない。晴れていたのでこの格好でも余裕かと思っていたが全然そんなことはなかった。家を出るまでの自分にアドバイスをしたいと今改めて思う。
「確かにダウンだから暖かいか。ところで今はどこに向かってるの?」
「聞かなくても達右くんならわかってるんじゃない?」
「まあこの近くアウトレットと水族館しかないから消去法で水族館だとは思ってるけど」
ここに来てアウトレットという選択肢はまずない。なぜなら付き合ってもない男女が互いの好みや趣味もわからない状態でショッピングをしても盛り上がらず、互いの時間に付き合わされているという感覚が生まれてしまう。ならば水族館に行き同じ光景を見た方が話題に事欠かず、同じ感覚を共有できる方が互いに有意義な時間を過ごせるからこそ選択肢としては一択しかないのである。
「正解。まあさすがにわかりやす過ぎたかな」
「二択だし、片方は言ノ葉さんならアウトレットは選ばないと思ったから簡単だった....かな。それで今日はなんで水族館なの?」
「うーん、私が一回行ってみたかったってのと自由に泳ぎ回るお魚さんを見て達右くんにも自由になって欲しいと思ってさ」
人間は生きているだけでなにかに縛られる。それは学校や職場、その他のコミニュティなどが挙げられるが、それらも条件さえ満たせば退出は自由だし再度加入することもできる。故にこれといった不自由などはないと思うのだが。
「確かに今の僕は自由かと言われればそうじゃないかもだけど、でも不自由って程ではない気がするんだけど。僕は何に縛られてるの?」
「それは水族館に行けなわかるんじゃないかな?」
晴れていたはずの空が次第に曇りだしひらひらと雪降り始めた。白い雪は言ノ葉さんの黒いダウンに一瞬模様をつけるが言ノ葉さんが歩く度に模様が移り変わる。
「雪.....降ってきたね。急ごっか」
彼女は水族館に着くまでそれ以上の言葉を紡がなかった。僕が縛られているものそれはなんなのだろうか。結局言ノ葉さんはいつも大事な部分を覆い隠し、見えているに語ろうとしない。それが言ノ葉涼という人物なのである。




