モンブランと別れ
今回速く書けました。
由貴姉の本名は達右由貴菜です。
あの一件以降、学校へ行くのが非常に億劫になっている。生徒や一部の先生以外を除いてこの一件を知られてないとはいえ、こんな学び舎で勉学を前向きに学ぼうとは微塵も思えなくなってしまった。
そんな気が重い日常がすぎていく中、言ノ葉さんとの約束が直近の唯一の楽しみであった。
「着ていく服どうしようかな」
自室の鏡の前。僕は明日着ていく服を何にしようか悩んでいる。高校生らしい服装というとチャラさがあった方がいいのだろうか、それともジャケットやスキニーなど綺麗めにしていった方がいいものなのか、基準がわからない。
「これはなんか違うしな〜」
クローゼットから取り出した服を片っ端から着ていくがどれもピンと来ない。気づけばベットに服が散乱している始末。
不思議なもので青木さんと付き合っているのにも関わらず、彼女と出かけたことが今のところ一度もない。誘ったりはしているのだが、いつもその日は予定が有ると断りてしまう。それ故に女の子とデートをするというイベントが今回が初めてなのである。
ジャケット、パンツを脱ぎ終え下着一枚になったところでいきなり部屋のドアが空く。
「結斗」
すると着崩したティーシャツにスラリと長い足が見えるホットパンツを履いた姉が僕の部屋へと入ってきた。
「ちょっ、いきなり僕の部屋入ってこないでよ」
下着一枚だったということで慌ててすぐそこにあったパンツを手に取る。
「なんでいちいち私があなたの部屋に入るのに確認を貰わないといけないのよ」
「いや、一応姉弟の関係でもプライバシーってものがあるでしょ」
「はいでたでた、いつもいつもプライバシープライバシー。昔はお姉ちゃんと一緒!ってそんなこと言わなかったのにな〜。あの可愛い弟はどこへいっちゃったんだろ」
「可愛くない弟でごめんなさいね。由貴姉だって自分の部屋ノックなしで入られたら嫌でしょ?ましてや着替えてたりしたら尚更さ」
この時期の自分の部屋というものはいわばいちばん安心できる空間。誰にも邪魔されず自分と自分の好きな物だけがそこにある場所。そして思春期なら尚のこと自分の体への意識に敏感になるからこそ、それをいくら身内であっても許可なしに入ることは僕としては考えられない。
「いや、私は別に気にならないけど」
昔はよく一緒にお風呂に入っていたが姉が小学校高学年になったくらいだったか、それ以降めっきり一緒入ることはなくなった。まあそれが自然な流れだし、僕自身も姉と一緒に入ることへの抵抗感はその当時持ち合わせていたのですんなりと受け入れられた。
「そこは気にしてよ女性なんだから」
「なんなら見る?」
一瞬、心臓高鳴る。不意に見せる妖艶で艶かしさに目を惹かれてしまう。
「やめてよ」
意識さえしなければ姉の裸を見たところでなんとも思わない。仮にも異性なのだからもう少し恥じらいを持って欲しいしこういってからかい方をして欲しくないというのが弟としての本音である。
「冗談だって、私だって恥じらいくらいあるんだから。もういつも結斗は相変わらず真に受けるんだから」
僕が高校に入学してからというもの姉との距離感が次第に近くなっていると感じる。いや姉から近づいているように感じるの方が正確か。あの当時抱いていた感覚、それを持とうとすると身体がそれを離してしまう、故に昔みたいには戻れない。
僕が意識しすぎなだけなのかもしれないが。
「でなんの用?」
「あんたんとこのさ洗濯物に私の下着混じってない?私のやつ見当たんなくて」
「姉さんの下着?混じってたらいつも持ってくでしょ、だから僕のところには来てないよ。お母さんのところとかじゃないの?」
「ママのところ確認したからここに来たんじゃん。結斗頭悪い?」
「その一言は余計でしょ。まあともかく僕のところにはないよ。だから早く出てってよ」
「えー酷くない?せっかくお姉ちゃんが来たっていうのに。結斗と一言多いよねほんと」
「ここは僕の部屋だから僕に決定権があるんだから当たり前でしょ、だから早く」
姉は視線を僕のベットの方に向けると散らばった服を見て何かを察したのかニマニマと笑いだした。
「はぁはぁ〜ん、結斗明日デート行くんでしょ?」
「服選んでるくらいでデートって決めつけるの推理が浅すぎるよ」
友達と出かける時などでも服は選ぶもの。それ故に由貴姉の推理は雑で核心をついていない。
「私知ってるんだよ、結斗が服選ぶの面倒くさくていつも同じコーデしかしないことを」
「.....」
「伊達に十五年間結斗の姉やってないって。だからお姉ちゃんに隠し事しても無駄だから」
身内というのは時にして実に厄介だ。僕のくせからこだわりまで長年一緒に暮らしてきたというだけで見破られてしまう。本当に厄介だ。
「でその子は彼女なの?」
「彼女ではない、別のクラスであ仲のいい友達。前にも言ったよく家にお菓子食べに来る子」
「えっ?あれ慧くんじゃなかったの。私てっきり慧君かと思ってた」
「あれ性別言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ!そういうのはもう少し早く言ってね。てことは明日告白するの?」
「いや僕別に付き....なんでもない。まあとにかく明日会う子とはそういったのじゃないから。はいもうこの話終わりね、出てった出てった」
いつものように由貴姉のダルい絡みに付き合うのは疲れる。ただからかわれるだけならいいのだが、時に核心をついてくる時があるので油断出来ないのだ。
「はいはい出ていきますよーと」
由貴姉は観念したのか部屋の扉へと向かっていく。
「あのさぁ結斗」
僕を呼ぶ声は先程よりも声のトーンがひとつ下がっていた。背中にはこれから大事なことを話すと書いてあるかを物語っているように感じた。
「明日なんかあったらお姉ちゃんのとこ来なね」
唐突に告げられた言葉に僕の頭は何を言っているのかわからず混乱してしまった。
「なんかってなに?」
エスパーでもないのだから、そういったことを無闇矢鱈に言うべきでは無いと思うのだが。
「わからないけど、なんか起こると思うから」
「何それ根拠あるの?」
「根拠はないけどまあ女の勘ってやつ」
女の勘。それを信じれるだけの実績が由貴姉にあれば信じるに値するのだが、そこまで高くないというのが事実としてある。故に僕としては受け流すしかない。
「あっそ、じゃあおやすみ」
後ろに手を振るだけで由貴姉からのおやすみの一言はなかった。僕が素っ気ない態度を取ったからそうしたのか、それとも別の意味があったからなのか、それはわからない。今わかるのは由貴姉の勘が予期したことを知るのは今の僕ではないということだ。




