体育とカルパス⑤
遅くなりました。多分次回でこの章終わります。
「人が狡猾さを持ってるのはわかるよ。でもそれは子供でも同じなんじゃない?だって誰だってずるいことやったり考えたりするだから」
大人だけに限らず人間そのものが狡猾さを秘めているわけなので言ノ葉さんの論は一部正しく一部間違っている。
「達右くんの言ってることは正しいよ。でも使えるものが大人と子供では圧倒的に違うの。だから種類が同じでも中身が違うんだよ。わかりやすく言うとカルパスってドライソーセージだけどカルパスっていう確立されたものになってて名前が同じでも実際の認識はまるで違う.....みたいな感じかな」
確かに大人と子供だと使えるリソースに大きな差がある。それは権力や権限、社会的な地位に至るまでどこをとっても大人には敵わないからだ。それ故に言ノ葉さんが言っていた壁をただ見上げることしかできないと言うことの意味を僕はようやく認識できた。
「私は今回何も言わないよ。それを言葉にしたらそれだけの事が起きるから」
「それってどういう.....」
「もうこの話は終わり。今日は勉強とお菓子でしょ?それをしたいな私は」
彼女は駆け足で僕を追い越した。
「待って言ノ葉さん」
その背中を追いかけるように僕も駆けていった。
その後は僕はお菓子を言ノ葉さんは勉強を約束通り行い提供した。流れ的に帰り道に話した話題が出ることを期待していたがそれは一切でなかった。
言ノ葉さんが帰り家の中が静寂に包まれる。リビングに一人、ソファーに横たわると今日話した出来事が脳裏をよぎった。
言ノ葉さんはああ言っていたが彼女は何を考え行動しているのか僕にはさっぱりわからない。仮に僕の推測が正しければ言ノ葉さんはセクハラ強いては性暴力を受けたということになる。だが当の言ノ葉さんは助けてともそれがあったことすら正確に話さなかった。それは心境的に言えないのか、それとも言えない別の事情があるのかはわからない。だがもう少し僕を頼ってもいいのでは。
彼女は言葉にしたらそれだけの事が起きると言っていたけれど言葉にしなければ物事は動かない。静寂を貫いても何も動かず、ただ森宮先生の思いどおりにしかならない、言ノ葉さんはそれでいいと思っているのか。
「とりあえず明日森宮先生に会いに行ってみないと始まらないか」
僕自身割り切っているほうだと思っていた。だが違った、こんなにも自分が今回の件に肩入れするとは思ってもおらず、真実求めたいという気持ちだけではないものが確かに僕を動かしていた。
次の日。
僕は昼休みを使い森宮先生に会いに行くことにした。こう早いスパンで職員室に行くというのもあまり気が進まない。だが向き合わないとわからないことの方が世の中には多いからこそ、ここで逃げる訳にはいかない、言ノ葉さんのためにも。
「森宮先生今よろしいですか?」
「あぁ、ああえーっと一組の.....」
「達右です」
「ああ、達右な」
相変わらず自分の気に入った生徒以外覚え気のない態度はいい加減やめて欲しいものだ。もうちょっとで一年立とうとしているのにこの有様、呆れることすら馬鹿馬鹿しく思う。
「で何の用だ?俺は忙しいから手短にな」
忙しいなんて嘘をつく理由があるのだろうか。体育教師が暇なんてこと、全校生徒が知っているのにも関わらずよく言えたものだ。旧校舎の職員室で寝たり、テレビを見たりしていることを知られていないとでも思っているのか。それくらい事実に基づいたものが流布されているのにいい加減気づき教職という仕事への向き合い方をを改めるべきだと思うのだが。
「話っていうのは言ノ葉さ、4組の言ノ葉涼さんの事なんですが」
「なんだ言ノ葉?、おまえもしかしてあいつが好きだから繋げて欲しいてか?それな男なんだから自分でアタックしてこい!玉着いてんだろ」
デリカシーのなさは一級品だ。僕対しても言ノ葉さんに対しても失礼で配慮や生徒という認識が欠けている言葉に僕は呆れるしかない。
「いやそういう話じゃなくてですね、この前の生徒指導室での一件の話なんですが」
「何の話だ?生徒指導室?」
「四、五日前、言ノ葉さんを生徒指導に呼んだ話です」
「あーあれか、であれがなんなんだ?俺は言ノ葉のスカートの丈が短いって怒っただけだぞ。それかどうかしたのか?」
「えっ、.....それだけですか?」
「それだけってそれ以外あるのか?」
その時僕は悟った。この人の中では悪い事をしたともやってはならないことをしたという認識がないということを。
この手の人に認識を提示すること自体意味のないということは理解している。だが最後の希望にかけたい思いが僕の中にはあった。
「先生が言ノ葉さんにしたこと僕は知ってるんですよ、それでもしらばっくれるつもりですか?」
「しらばっくれるも何も俺はただ怒っただけだって言ってるだろ。それのなにがいかないんだ?」
「何がいけないって....。先生が言ノ葉さんに対していかがわしいことをしたのは知ってるんです。正直に認めないと学校側に訴えますよ」
「したこと?あーもしかして達右は言ノ葉の体触ったことを言ってるのか?それなら普通のことだし体触られたくらいでそんな騒ぎ立てることでもないだろ。それにあれは罰なんだからそれくらい受け入れる度量がなきゃこの先やっていけないぞ」
普通、騒ぎ立てるほどのことではない?、やはりダメだった。彼は化石だ、年月をかけて固まり、固まってしまうと元には戻らない。修正は効かずそのままの姿で世に現れる。元々そういう人とは思いってはいたがまさかここまでとは。
「言ノ葉は悪い事をした、俺はその罰を与えた。それの何が悪いかお前は説明できるのか」
女性が心を許していない男性に触られるということがどれ程の怖さ恐怖があるのかも理解しておらず、自分の裁量のみで裁きを与えることがどれ程の愚かなことか。言葉に出すのは簡単だがこのひとには理解出来ないであろう。
「説明も何も.....もういいです。僕からはこれ以上言うことはありません。失礼します」
「おうそうか。それと最後に俺からひとついいか?」
「なんですか?」
「言ノ葉はこの件に関してなんて言ってるんだ?」
「何って....詳細には言ってなかったですけど」
「何も言ってないんだろ。それが答えだよ達右」
何を言っているんだ、僕は確かに言ノ葉さんから救難信号をもらった。詳細なことを話していなくともこんな事態があると察すれば誰でも動こうとするもの、だからこそ僕も動いたわけだ。
今は彼の言葉を考えても仕方ない。とりあえずやりましたという言質を取った、この事実だけでいい。
「それじゃ僕行きます」
そして僕は職員室を後にした。




