歪さとフルーツ味⑤
自分で何を書いてるかわからなくなってきました。
あとえっちシーンがあるので苦手な方はごめんなさい。
六限目が終わり、青木さんと待ち合わせをしている公園へと向かう。
なぜ同じクラスなのに一緒に帰らないのか。ほれは人目が気になると僕が青木さんに待ち合わせしたいと申し出たからだ。
彼女と一緒に帰っているところを誰かに目撃されたのなら良からぬ噂に発展することは目に見えているし、何よりもこの状況下で彼女と二人きりになる時間を極力避けたかった。
彼女としては少し不服そうな顔を浮かべていたが強引に僕の意見を押し通し今に至る。
「あれ達右くん」
「強引すぎたかな」と若干の申し訳なさを抱え歩いていると聞き覚えのある声が横から聞こえきた。
「おっ、言ノ葉さん」
振り返るとそこには帰り自宅を整えた言ノ葉さんがいた。
「奇遇だね」
「そうだね。達右くんはこれから帰り?」
「うん、まあ」
「じゃあ途中まで一緒に帰ろ」
この関係が始まってからというもの言ノ葉さんといる機会はかなり増えたと思う。
だが僕たちは基本的に週に一回会う関係であり学校であっても互の立場が有ることやクラスが離れているので親密に話すことはあまりない。馬場くんの時のような例外はあるが。
だからこそ普段はそういうことを言わない言ノ葉さんから「一緒に帰ろう」と提案されることに意外さを感じてしまった。
「言ノ葉さんが一緒帰ろうなんて言うの珍しいね」
「たまにはいいかなって思って。あれもしかしてて嫌だった?」
「別にそういう訳じゃ無いけど、実はこと後予定があってさ」
そもそも僕は彼女がどこに住んでいるのか知らないし、帰りの方向が同じなのかもわからない。
今改めて思うのは僕は言ノ葉さんのことを何も知らない。その一点がふと頭をよぎった。
「そっか、残念。明日のお菓子何作ってもらうか相談したかったのにな」
そいえば明日は言ノ葉さんとの週に一回の約束があったんだ、すっかり忘れていた。
考えごとやモヤモヤしていることがあると先の予定などを忘れてしまうのは僕の悪い癖だ。目の前のことに集中していると言えば聞こえはいいが、逆に集中し過ぎることによって周りが見えなくなってしまう。
「まあ今日の夜メールくれれば明日には間に合うからそれでいいんじゃないかな?。そういった時のために連絡先交換したんだし」
「それもそうだね。私ももう少し前に言えばよかったね」
「いや僕も気が回ってなくてごめん。すっかり頭から抜けてたからさ」
僕は忘れていたことを素直に言うことにした。いつもは二、三日前くらいに話をつけるのだが、今回は僕の落ち度でこうなってしまったので謝罪するのが筋だろう。
「いいよ全然私も確認しなったのが悪かったし。じゃあさ達右くんが悪いと思ってるなら一つだけ聞いてもいい?」
「僕に答えられることならなんでも」
言ノ葉さんは何を聞いてくるのか、少しソワソワした気持ちが僕の中に渦巻いた。
「この後の予定を教えて欲しいな」
言ノ葉さんはまっすぐ僕の目を見ている。
「えっ、そんなことでいいの?もっとなんか大きいやつかと思ってた」
普通ならもっと聞きづらいことや普段なら聞けないことを聞くのがセオリーだと思うのだが、言ノ葉さんに限ってはそうではなかった。
来るぞ来るぞと期待していたぶん、心構えを作っていたのが無駄になってしまった。
「私の中では結構大きいんだけどな」
大きい?別にこの後僕が何をしようが言ノ葉さんには関係ないとは思うのだが少し不思議である。
「青木さんと会う予定があって。その.....この前言った青木さんへの返事をしにさ」
「ふーん、青木ちゃんね.....。確認なんだけど今でも答えは変わってないよね?」
「うん、変わらない」
「そっか、良かった。じゃあまた明日学校でね」
「ああ、うん」
そういうと言ノ葉さんは階段の方へと向かって行った。
時刻を見ると約束の時間まで十分を切っており、 余裕を持たせていたつもりだが、言ノ葉さんとの会話が長引いてしまったせいか猶予がかなりなくなってしまった。
ここから待ち合わせ場所までは歩いて十五分くらいなので走っていくしかないか。
そう思い急いで青木さんと待ち合わせをしている公園へと僕は向かった。
外へ出ると僕の心をうつしたかのような空は曇り空だった、朝晴れていたのに。
公園着くと当たり前ではあるが青木さんがもう既にいた。
「ごめん、遅れた」
「うんぜんぜんいいよ」
彼女は遅れた僕を責め立てる訳でもなく笑って微笑みかけてくれる。
「じゃあ、行こっか」
「うん」
僕と青木さんは公園を後にし歩き出す。
「青木さんの家はここから近いの?」
「うーん十分くらいかな」
「そっか」
「.....」
「.....」
話題が見当たらず冬の冷たい風の音と車の行き交う音だけが流れる。
いつもの教室ではこんなことにならないのに。今のこの空間が二人の距離感の歪さを表しているように感じた。
言ノ葉さんの後について歩いているがどんどんと街の方に向かっている。
もしかして青木さんの家って結構お金持ちなのかな。
「着いたよ」
といつの間にか着いていたらしく指を刺されたのは立派なマンションだった。
結構のところあれ以降僕と青木さんの間で言葉が交わされることはなかった。
「立派なマンションだね」
「そうだね。でも中身は空っぽなの」
「それってどういう意味?」
「入ればわかるよ」
彼女の言葉に疑問を抱きながらも僕たちはエントランスを抜け言ノ葉さんの部屋がある二十階へと向かった。
部屋の前に着くと言ノ葉さんが鍵を開けらうのを躊躇っているのか数十秒立ちすくんでいる。
「開けないの?」
僕はそんな彼女を見かねて言葉が出てしまった。
「うん....今開ける」
彼女はそういうとそっと鍵を開け静かにドアを開いた。
「さあ上がって」
「お邪魔します」
彼女が言った「空っぽ」という意味が部屋に入った途端理解できた。
青木さんの家には何もない。いや何も無いというよりは必要なもの以外置いていないと言った方が正しいか。
家族写真のひとつも置かれていないこと、雑貨や小物類がまるでないことがミニマリストの部屋とはまた違う無機質さを感じさせる。
ここでは家族が過ごしているようで過ごしていない、外観だけがいい淡白で色も愛情もない見せかけの空っぽの空間だったのだ。
「青木さんの家....綺麗だね」
僕はこの無機質さをその場限りの言葉で彩ってしまった。
「そう?私はそうは思わないけどな」
愛着が無いものを褒められた時の人こうも感情を動かさないものなのか。
「私の部屋ここだから、少し待ってて」
彼女は玄関から入って右手にある自分の部屋に僕を案内した。
青木さんの部屋に中に入ると、やはりここも必要なものしか置かれていなかった。勉強机、ベット、そしてクローゼット最低限のものしかない。普通の女の子いや子供の部屋なら自分の好きな物を飾ったり、置いたりして自分色に部屋を染め上げるだろう。
だがこの部屋はそんな楽しさや自分らしさとは正反対で個性の欠けらも無い誰もが利用できるホテルの部屋を彷彿とさせた。
ドアがノックされ青木さんが入室する。
「お茶持ってきたよ。外寒かったから暖かいのにしたけど良かった?」
「ああうん、ありがとう」
部屋の中央に二人向かい合って座り込む。クッションもテーブルもラグすら引かれていない。地べたは冬場ということもありかなり冷たく足元から全身が冷えていくのが感じられる。
「私もっと頑張れば良かったのかな」
重く辛い彼女の言葉。それは僕の心をさらに冷え込ませた。
「青木さんは頑張ったと思う。僕、中学の時の青木さんを見てないからなんとも言えないけど、でも高校一年生の青木さんはすごく頑張ってた....と思う」
「本当に?」
「うん、本当に。だから他の人が青木さんを必要としなくなって理解しようとしなくても、僕が君の存在を肯定する」
ずっと否定され続けてきたからこそ、見えなくしてしまったものがあるのだとしたら、それを僕が彼女に与えてあげればいい。異性の関係ではない人間が他者から貰わなければいけないもの、それが彼女に足らなかったものだから。
「達右くん....。私ずっと辛かった、どんなに頑張っもパパとママは褒めてくれない、必要としてくれない、そして私の存在をなかったことにしようとする。出来損ないって何度も言われた。他の人も理解するフリして逃げていく。私の存在価値は?ってずっと思ってた」
彼女の瞳からはポロポロと涙が滴り落ちている。
そして彼女は倒れ込むように僕の胸へと顔を埋めた。
「私これからどうしたらいいの?達右くんの答えももう知ってるんだよ。ねぇ答えてよ達右くん!」
力強く掴まれたブレザーはくしゃくしゃで中のワイシャツは彼女の涙と鼻水ぐちゃぐちゃに濡れていた。
それから数分と時が流れただろうか。僕は何も返せずにその場の彼女に胸を貸すことしかできなかった。
青木さんは泣きやみそっと僕の胸から離れる。
胸元のリボンを解く彼女。そしてワイシャツの胸元から水色の下着が僕の視線を誘導させた。
「何やってるの」
僕は咄嗟に自分の目元を覆い隠す。
「.....」
「.....」
彼女は何も言わないまま座り込んでいる。
青木さんは何を考えこの行動に至ったのか僕には到底理解できないでいた。このままいても埒が明かないと思い僕は自分のバックと上着を取り青木さんの部屋を立ち去ろうとする。
「青木さん僕もう帰るね」
部屋のドアノブに手をかけたその時
「待って」
先程まで口を開こうとしなかった青木さんがいきなり僕を止めに入った。
「今日はもう」
青木さんの方を振り返ろうとした次の瞬間、彼女は僕のネクタイを掴むと自分の方へと引き寄せた。
「えっなに?!」
自然と青木さんの方へと吸い寄せされる。そして青木さんの唇と僕の唇が重なった。
驚く暇は全くなかった。柔らかい、そして味わったことのない感触が僕の頭を駆け巡る。
何秒、いや何十秒だろうか。これほどまでに時間の感覚を遅く感じたことはなかった。
余韻に浸っていたい気持ちはあった。だが僕は理性を取り戻す、そして青木さんの肩をつかみ彼女を弾き離した。
「ちょっ」
ただ、沈黙だけが流れる。
俯く彼女。
「達右くん痛い」
気づけば彼女の肩を強く握っていた。
「ごめん.....」
「今日さ家に誰も帰ってこないの.....だから.....しよ」
上目遣いそして頬を赤らめた彼女がそこにいた。
「何言ってるの?無理だよそんなの」
「無理?なんで私はいいって言ってるんだよ?」
「いやおかしいでしょ。だって僕は返事をしにここへ来たんだよ。行為をするために来たんじゃない」
僕がここへ来た理由、それはか彼女を肯定し別れを告げるため。それは彼女の心境を慮ってのことだった。
「ねぇ....お願い」
「だからダメだ」
次の瞬間掴まれていたネクタイがまた引っ張られた。
同じことだったが咄嗟の出来事で避けられず、手で口を塞ごうとしたが間に合わなかった。
暖かい感触が口の中に入ってくる。
先程とはまるで違う、絡み合いそしてとろけるような感覚。互いの粘膜どうしが互いを繋ぎ合わせ自分の意思に関わらず離れさせない。熱くねっとりとした唾液が口の中を覆い流れる。
溶ける溶ける溶ける。
何も考えられない。いやそれは嘘だ。目まぐるしい気持ちよさの中、目の前の彼女を求めようとしている自分がいる。
理性を保とう。その言葉が頭をかけめぐるが快楽が心地よくあらがう気力を削いで削がれすり減っていく。
ああもうダメだ.....。
理性そんな言葉今はどうでもいい。わかっているだけど.....。
気づけば僕はそっと彼女の下腹部に手を伸ばしていた。
――
濃密な時間。終わってみればあっという間だった。
二人で入るシングルベットは狭く物理的に互いの距離を短くさせる。
慣れないシーツ、布団の感触。部屋は寒いが体は火照っている感覚それは冬場のスポーツを彷彿とさせる。
横たわる彼女を視界の端で確認すると後悔と自責の念が込み上げてきた。あの時なぜ抵抗できなかったのか。頭ではわかっていた、それでも行動に移せず目の前にいる彼女を求めてしまった。
「そのさ、なんかごめん。こんなつもりじゃなかったんだ」
「なんで謝るの?誘ったのは私だよ」
「そうだけど、でもなんか.....」
「私は嬉しかったよ!達右くんと繋がれて。本当の意味で一緒になれたね」
こんなこと僕には初めての経験だった。だが彼女はそうではなかったらしい。言ノ葉さんの言っていた噂、本人は証拠があると言ってはいたが、まさかこういった形で確認することになってしまったとは思いもしなかった。
「僕さ初めてだったんだ。だからあんまり上手くできた自信がない」
向かい合う背中。
先程こういった行為をしていたのにも関わらず隣の彼女を見ることができない。恥ずかしさと惨めさそれを隠すように後ろをむくことしかできなかった。
初めての経験とはこういうものなのだろうか。何事にも初めては付き物、だが身体を重ねるという経験に関しては同じような類のものはない。だからこそ唯一無二な経験でみな思い入れも強くなる。
それがこんなにもあっさり終わってしまっていいのか。もっと特別な何かを夢のような展開を期待していた。だがこの気持ちは間違いであの途中に捨てざるを得なかった。そこにあったのはただの動物が行う行為そのもので期待も幻想も夢も美しさも何一つない人間の本能だけであった。
「こういうのあんまり自分で言いたくないけど、勿論上手い下手はあるよ。でも達右くんとこういったことをできるのは上手い下手に関わらずそれ以上の価値が私にはあると思う」
彼女はそっと僕の背中を抱きしめた。先程沢山感じたきめ細やかでまるで上質なシルクを触っているような肌の感触。僅かな膨らみだが押し当てられると柔らかさを感じることができる二つの感覚、そこから中から奏でられる命の音。全て背中越しだけれど全て伝わってくる。
「わかる?私今ものすごくドキドキしてる」
知っている、さっき僕も感じたから。
「わかる」
「ねぇ、達右くんもう一度聞かせて」
僕を包み込んでいた手は解け、彼女は僕の右手をぎゅっと握ってきた。
「私と付き合って」
額を背中に当て、まるで祈るように彼女は呟いた。
これは卑怯だ。こんなことをしたら断れるはずがなく、この味を知ってしまったら戻れるはずもない。
僕は握られた手を解き彼女の方へと身体を向けた。そしてもう一度僕から手を握り返す。
少し汗で濡れた髪がより一層彼女の妖艶さを引き立たせていた。
言おうと思っていた言葉は僕の経験とともに捨て去られた、そして新たな言葉を青木さんから受け取った。
「いいよ」
僕は今どんな顔をしているのだろう。嬉しい顔、悲しい顔誇らしい顔、いやどれも違うな。
今してるのは満足している顔だ。
僕の中でなにかピースのハマった感覚があった。青木さんは自分を必要とされたがっていた。それは人間なら誰しもが持っている感覚だ。自分はそうではないと僕はどこか一線を引いていたわけだがそれは僕も例外ではなかった。
「ホントにいいの、こんな私でも?」
彼女に求められたからこそ僕も彼女を求めた。人間の心というものは至極単純でわかりやすい。これまで抱えてきたものや葛藤していることなどはひとつの存在で簡単に解決してしまう。
「青木さんだからいい」
僕は必要とされる気持ちに答えたい。結局青木さんと本質的な部分では何も変わらなかった。
僕が求めていた真実とは誰かに必要とされることであり、青木さんもそう。この気持ちは必然によって引き寄せられたとすら思うほどに。
「やった、これで名実ともに恋人だね」
彼女は僕の胸の中に顔を埋めた。甘く重い花の匂いが僕を更に抜けれなくさせる。
「うん」
僕はいつの間にか彼女の身体を抱きしめていた。
考えてやった訳じゃない、自然とこうごいていたのだ。
だがそんな中、何故か言ノ葉さんの顔が頭をよぎった。
触れる体温は暖かく、安心も心も満たされている。
でもなにかが違う気がした。




