歪さとフルーツ味③
「達右くんさ元気ないね?なんかあったでしょ?」
あれから三日後。僕と言ノ葉さんは週一回の勉強会兼お菓子提供のため僕の家に集まっていた。
「いや何かはあったけど、言わないといけない?」
告白を受けたとはいえあんな態度を取ってしまった、故に顔が沈むのも無理はないだろう。だが「告白したんだよね」ともいいづらいし気持ち的にも言いたくない。
「うん!」
多分これは隠さない方がいいやだ。なぜなら言ノ葉さんは笑顔ではあるがまるで目が笑っていない。
まあ隠すつもりはなかったのだが流れ的に言わざるを得ない。逆に言わなければ何をされるかわからないので僕は白状することにした。
「実はクラスの女の子から告白されてさ、一応返事は保留中なんだけど」
「ふ〜ん、そうなんだね」
言ノ葉さんは僕の表情であらかた察していたのか、あるいは既にあったことを知っていたのかリアクションが薄かった。
「それだけ?」
「それだけって?」
「いやなんかさあるでしょ、驚くとかさ」
「ないよ、だって私と達右くん別に付き合ってるわけじゃないでしょ。だから達右くんが告白されようが付き合おうが私には関係ない」
言ノ葉さんの言う通り僕たちは異性の関係にはない。だがここ数週間で仲が深まったのも事実あるのだから、僕的にはもう少し興味を持ってもらいたかった。
「なになに、もっと心配して欲しかったの達右くん?」
「僕たちそう言った仲じゃないけどさ、もう少しなんかあっても良かったなって思って」
「この前も言ったでしょ、達右くんがこの関係にどう思おうと勝手だけど私は自分のためだって」
期待というものはこうも簡単に裏切られるものなのか、それともエゴだからなのか。
「達右くんが言うから一応聞くけど、それにしては達右くん落ち込んでるじゃん。普通告白されたらもう少し喜んでもいいのに」
「答えは決まってるんだけど、それが言えなくて」
言えない理由は自分でもわかっている。だがその一歩がなかなか踏み出せない。
「要は勇気ないんだ、断る」
図星をつかれた僕は何も言い返せなかった。
言ノ葉さんの寄り添いなど全くない言葉は逆に今の僕としては嬉しかった。変に共感やアドバイスをされても僕の気持ちを表面では理解していると思ってしまうので。
「いいんじゃない別に嫌われても。断る勇気がないってことは嫌われたくないんでしょ」
青木さんに嫌われたくない?確かにそうかもしれない。それは優しくされた過去があったからなのか、彼女という存在を敵に回したくなかったからなのか、それはわからないがとにかく嫌われたくないその心だけが僕にはあった。
「じゃあさ望んでないのにその子と付き合う、無理だよね?達右くんにそれができると思えない。もう答えが決まってるなら行くしかないんだよ」
言ノ葉さんはそういうと紅茶を一口すすった。
僕にはそんなことできるわけない、その通りだ。それはあまりにも真実から遠ざかってしまうから。
「達右くんって自分の為なら進んでいけるのに相手が絡むとダメだよね」
「それは....そうだね」
「でその告白してきた女の子は達右くんのどこが好きって言ってたの?」
「それは聞いてない、ただ好き付き合ってって言われて」
告白を受けたことが今回が初めてなのでセオリーというのはわからないが普通ならどこがどう好きでみたいなことを想いと同時に伝えられるものなのだろうか。
青木さんも緊張などしていたから、ただ単に言えなかったとも考えられるが不思議と疑問は残る感じがする。
「えーなにそれ」
「事実そうなんだよ」
人に好意を向けられることは存在を認められると同義だと思うのでそれ自体は素直に嬉しい。
だが理由付けがはっきりとしないことは物事を曖昧にするだけでなく本質を見失わせてしまう行為である。僕としてはしっかりとした理由付を聞きたかったと改めて思った。
あのときは浮かれていたのと告白されるという経験が初めてであったので頭が回っておらず、時を戻せるのなら戻りたいとすら思う。
「その子の名前はなんて言うの?」
そいえば言ノ葉さんに名前を話していなかったか。
「青木さんていうんだけど」
「.....」
言ノ葉さんは黙り込むと何かを考え出したのか床を見つけている。
「言ノ葉さん知り合いなの?」
「いや、そうじゃないけど.....」
含みのある間が僕の疑問を駆り立てる。
「その子青木稲美ちゃんでしょ?あんまりいい噂聞かないから」
どういうことだ。青木さんはクラスでも優等生的立ち位置にいて教師陣からもかなり評価が高い。委員会での貢献や校内での実績もそれなりにあった気がする。そんな彼女の噂が悪いとは到底信じられない。
「それほんとに?言ノ葉さんの聞き間違いとかじゃなくて?」
「私の聞いた範囲ではそうだよ」
「具体的には?」
具体例を聞くまでこの話は信じられない。いや仮に聞いたとしても僕が普段接している青木さんとの印象が違いすぎるであろうから信じるに到れる自信がない。それくらい彼女の印象は僕にとって良いものなのだ。
「ちょっと待って」
言ノ葉さんは顎に手を当て何かを考え出した。
数分が過ぎようやく頭をあげる言ノ葉さん。
「誰にも言わない?」
そんな彼女はいつになく真剣な眼差しを僕に向けていた。
「誓う誰にも言わない」
まあ僕自身、こういった話をする相手がいないので言わないではなく言えないのであるが。
「一応最初に言っておくと青木ちゃんの名誉のために言わない方がいいのかなって思ったんだけど、ただ立右くんが絡んでるとなると話が別だし、何かあってからだと遅いから」
何かあっては遅いとはどういう意味なのだろうか。それだけことが大きい話なのか。
「青木ちゃん複数の男子生徒と関係があるって裏で言われてるんだよ」
「青木さんが?」
「うん」
青木さんはクラスでもトップクラスに可愛い。それに加え人当たりも良いし誰に対しても優しい故にそれはモテるであろう。
だが僕が接してみての印象は不純異性交友をやるタイプの人間ではないいうことだ。青木さんは優秀だからこそ人目に付くだろうしそこまでして自分の評価を下げる行動を取るとは思えない。
「それってどこまでを指すの?異性同士の付き合い?それともそれ以上の.....」
最近の出来事として似たような事例を知っているがそれとはどの程度違うのだろうか。
「達右くんの想像通りだよ」
それなら尚のこと信じられない。あの青木さんが?まさかそんなことがあるのか?
「それってデマとかガセの可能性あるんじゃないの?れっきとした証拠あるの?」
「あるけど....言えない」
「言えない?」
「理由があって今は言えないの。だから信じてとしか今は言えない」
僕は真実性のないものを信じるほど馬鹿では無い。何か関連付けるものがあれば味方も変わるだろうが、それが言えないのなら信じるに値しない。
「それはいくら言ノ葉さんでも無理があるよ」
「そう.....だよね。いいの忘れて」
「でも今はってことはいつかは言えるんでしょ。だからその時まで待つよ。だけど今は.....」
「わかってる。それでいい」
こんなにも歯切れの悪い言ノ葉さんは初めて見た気がする。
言ノ葉さんが言えないと言うからにはそれ相応の理由があるのだろうが、そこを踏まえてまで僕は信じられない。
「達右くんはどう返事するか決めた?」
「噂を聞いたからって訳じゃないけど断ろうと思う。ようやく決心がついたよ」
結局今回も言ノ葉さんの言葉に動かされた。僕だけだったら返事を曖昧にしたままにしていたかもしれない。やはり言ノ葉さんには言葉に表せない魅力があるそう思った。
「僕自身彼女が欲しくない訳じゃないけど、青木さんを好きになれる未来が来ないんだよね。だから自分の気持ちをありのまま伝えることにする」
彼女が欲しくないわけではない。ただ冷笑的と思われるかもしれないが学生時代のこういったイベントに熱くなれる自信がないしら相手を好きになれる自信もない。今は自分で精一杯だから。
「そっか。達右くんが心変わりしないことを祈るよ」
「それって?」
「そのままの意味」
言ノ葉さんの安心と不安が感じが入り交じったようすが僕の疑心をさらに駆り立てた。
「それじゃあ私帰るね」
テーブルを見るとケーキも紅茶もいつの間にかなくなっていた。
「ああ、うんまた明日学校で」
「ちなみにこの話オフレコでお願いね」
「そこは大丈夫」
彼女を玄関でみおくると家に一人になった。
言ノ葉さんとのやり取りも気になるが、それよりもいつ返事をするのかで頭がいっぱいになっていた。
「ああ、どうしよう」
結局のところ寝れるわけもなく次の日を迎えてしまった。




