歪さとフルーツ味
新しい話書きました。次回分はまだ書いていないです。
教室の前からは朝の気だるさとは裏腹に今日の時間割の愚痴や昨日あったことなどなどそれぞれがそれぞれの好きな話題を楽しく話している声が聞こえてくる。この朝の独特の雰囲気がとても心地いい。
「おお達右よっすー」
教室に入ると入口前にいた柳原くんが挨拶をしてくれた。
「柳原くんおはよう」
「おいおい達右よー、昨日の放課後女の子と歩いてただろあれ誰なんだよー、もしかして彼女できたのか?」
僕も柳原くんはとても仲の良い関係というわけではないが時たま僕をいじってくる時がある。彼なりに僕がクラスで浮かないように配慮しての行動は嬉しいのだが多少の軽薄さが優しさを相殺してしまってる感が否めない。
「いや彼女でないけど」
「くぅー、彼女いるやつは大体そういうんだよ」
彼の大きな声量とリアクションはクラス中に響き渡りみなの視線を大きく集めた。
「達右お前いつの間そっち側に行っちまったんだよ」
「ちょっと柳原くん声大きいよ」
「ごめんごめん」
少し反省したのか多少声のボリュームが下がった気がする。茶化すのと真剣なのとの緩急差が激しいんだよないつも柳原くんは。
「で実際のところはどうなんだ?」
僕的に言ノ葉さんとの関係を知られても問題はないのだが、ただ勘違いされるとなると話は別だ。
僕だけだったら気にしないで済むのだが言ノ葉さんに迷惑がかかってしまうのでここは勘違いを訂正する必要がある。
「4組の言ノ葉さんって言ってまあただの友達だよ」
「ふ〜んただの友達ね〜。今はそういう事にしといてやるよ」
柳原くんは訝しげな表情を受けべると僕の肩を叩き自分の席へと戻って行った。
自分の席をと着くと僕はいつものように隣の席の青木さんへ挨拶を交わす。
「おはよう」
「おはよう〜」
あくびと共に挨拶を返してくれる青木さん。
「やけに眠そうだね、昨日夜ふかしでもしたの?」
「昨日塾の帰り遅くなっちゃって寝不足なんだよね〜」
あくびは誰でもするだろうが、しっかり者の青木さんが眠そうにしている姿は、彼女も完璧ではないのだという安心感にも似た感情を僕に抱かせた。
「それにしても達右くん今日来るの遅くない?」
「ああ、今日寝坊しちゃってさそれで少し遅れたんだよね」
そう僕は今日寝坊してしまい家を出る時間が遅くなってしまった。朝ごはんも食べていないので眠気と空腹のダブルパンチで正直辛い、まあ自業自得なのだが。
「そうなんだ。そしたら朝ごはん食べてない感じ?」
「うん、そうだけど」
青木さんは鞄を探ると中から黄色い箱に入ったお菓子を取り出した。
「何も食べないと頭回らないでしょ!だから食べて」
「いいの?」
「いいのいいの。私もよく朝ごはん食べない時あるから、それでこれ常備してるの。今日は朝ごはん食べてきたから達右くんにあげる」
「ありがとう、じゃあいただきます」
青木さんの用意周到さには恐れ入る。
コンビニも寄れる時間はなく、ましてや売店までは距離があるので休み時間ではいけない。なのでお昼までこの空腹を覚悟していたので本当に助かった。
渡されたものを見るとパッケージの印字の部分が緑だった。
「フルーツ味好きなの?」
「私は一番好きなんだけど、あっもしかして嫌いだった?」
「いや僕も好きだからいいんだけど、ただ意外だな〜って」
フルーツ味はレモンピールが入っているので少し苦く味的にもかなり好みが別れてしまうため、万人受けする味に仕上がっていない。僕の体感だが好きという人はかなり少ない印象がある。
故に僕が言えたきりではないが変わってるな思った。
「そう?」
「うん、勝手なイメージだけど青木さんは王道な味好きなのかなって思ってたから」
「あぁ〜確かにチョコ味とかメープル味人気だもんね。フルーツ味苦くて独特な感じがあるから好きな人少ないしそう思っても仕方ないかも」
「そういう事じゃなくて青木さんのタイプ的に人気な味取ると思ったからさ」
偏った見方かもしれないが青木さんのイメージだとメープルやチョコレート味が好きと言われた方がしっくりすると思う。
それ故に癖のある味を選ぶということにギャップを感じてしまう。
「私でも変わった味選ぶ時あるよ。でも達右くんから私ってそう見えてるんだね」
「うんまあ実際勉強もスポーツもなんでもできるし人当たりもいいしで僕的には完璧ってイメージがあるから表を選ぶタイプかと思って」
一瞬の間が空くと青木さんがおもむろに語りだす。
「達右くんはさその人に持ってるイメージと実際が違っても失望したりしない?」
青木さんの声はその前の時よりもワントーン下がっており、まるで何かを肯定してもらいたいかのような雰囲気を感じた。
「えっいきなりどうしたの?」
「イメージと違うって言ったから、それと違ったらどう思うのかなって」
「それって.....このお菓子のこと?それとも」
「さあ、どっちだろうね達右くんの判断に任せる」
仮に好みの味の話だったとするならば好みの味の印象が違うと言うだけで劇的にその人の印象が変わることはない。ギャップがあってそこに対する新鮮さなどは生まれるとは思うがそれ以上の感情はあまり感じない。
逆に自分自身のことを言っているのであっても青木さん本人が選択肢行動しているのだから、僕のイメージと違ってもそれはそれで受け止めるしかないだろう。
「どっちにしても青木さんに対する印象は変わらないと思う。だって青木さんは青木さんでしょ」
僕が思い描いている青木さんはあくまで僕の中での話、それ以上でもそれ以下でもない。だからこそ実際がどうかは本人が決めることであり僕の介入する余地はないと思う。
「それが青木さんである以上変えるっていうのも違うと思うから、それを受け入れてくれる人と付き合ってくのがいいんじゃない。イメージは確かに大事だと思うけど会ってみたり話してみたりすることで理解し合えるのが人間だからあんまり気にする必要ないと思う」
「じゃあ」
ザワザワとした教室の中、青木さんと僕以外の時間が止まって見える。その場に多くのクラスメイトがいるのにも関わらずその他の音が一切耳に入ってこない。
「達右くんが思ってる私と実際の私が違くても受け入れてくれるってこと?」
こういうからには青木さんには表では見せていない顔があるのだろう。
それは気になるがここであえて追求しない。本当の青木さんがどういう人なのかはわからないが僕にはそれを受け止める勇気が今はないし、それを聞いてしまえば引き返せなくなると思うから。
「絶対とは言えないけど、でも拒絶はしないと思う」
曖昧な返答。今の僕にはこれしか返せなかった。
「そっか、それを聞いて安心した」
そんな返答聞いた彼女はどこか嬉しそうだった。
「放課後達右くんに伝えたいことがあるから教室に残っててもらえる?」
「伝えたいこと?」
「そう」
自分の脈が早くなっていくのを感じる。多分想像している通りのことが起こるそんな予感がした。期待しすぎだろうか?でも女の子からの呼び出しなんて人生で初めてだし男なら期待してしまうものだろう。
だが正直心の準備はできていないし、この話を聞いてしまうと戸惑いが生まれてしまうのも必然。
「わかった」
断る訳にも行かずおもむろに返事をしてしまった。
「じゃあ放課後ね」
始業のチャイムがなる。
青木さんが考えていることなどわかりはしない。ただひとつ言えることがあるとするのならば、それは.....
青木さんが肯定を求めているということだけだ。
その後も隣の青木さんは放課後まで僕の方も向かず話しかけてくることもなかった。




