7話 おいしい肉が食べたい
妹が寝室を出て行ったのは、騒がしさでわかる。
扉がバタン、と開閉する音がして、木と金属の装飾品の扉がぎしぎしと音を立てる。
窓は小さな窓がひとつしかないが(外部からの侵入と覗きを防ぐためだと考えられる)、部屋中には馬鹿みたいに金と職人技を凝縮したシャンデリアがあり、僅かでも光を拾うと、あちこちにと光が散乱する。
姉妹で同じ寝室であることに不満はない。
妹の寝相が悪いのだ。
今日も日が昇る前に、鼻っ面に攻撃を食らった。
おかげで目覚めは最悪だ。
のそのそと起き上がる。ふと意味もないが、小窓を覗き込むと、誰かが歩く姿が小さく見えた。
あの体系は......
我らが父ーーーーといってもわたしは父には数えられるほどしか会ったことがない&異世界人だから父だと思っていないーーーの体系はふくよかだ。
そして派手な赤髪だ。趣味の良しあしは別として、父は赤系統の派手な衣装を好む。
ん?ーーーでも今日はいつもの趣味の悪い服ではないな、とわたしは気づいた。
ということは、と思考が次に進む。
狩りをしていきたのだ。
狩り。狩猟。
元いた世界でいうと、鹿やイノシシ、場合によっては熊を猟銃で仕留める(わたしはたいぶオブラートに言ったぞ)。
あくまで目的は楽しみや娯楽ではなく、適切な繁殖数にするため、人間と自然の境界を引くため。
父は趣味で狩猟をしている。
この世界では狩猟は悪だ。
血は汚らわしいとされる。とくに死んだ生き返ることもできない屑の血肉は最も汚らわしいものとして扱われる。
この世界には猟銃はなく、剣で戦う。
よっぽど上手い人でない限り、血肉をもろに浴びるのだ。
狩猟は悪とされている。それでも狩猟をするのは単純に楽しいからだろう。
楽しいから。獲物を追い詰めるのは楽しいのだろう。
それ以外にも理由はあるーーーと少なくとも、わたしは考えている。
肉だ。
人には肉は汚らわしいと言っておきながら、自分たちはこっそりと肉みたいなものを食べていることを知っている。肉みたいなものというのは、植物肉でも豆腐肉でもなく、一見、肉だとバレないもの、ということだ。
この世界とあの世界は似ている。人間の感覚はほぼ同じだと言っていい。
肉が美味しくないわけがない。ーーーでなければ、汚らわしいといいつつ、食べる意味がわからない。
わたしは拳をぐっと、握りしめ、窓の下で護衛を十人以上も引き連れて歩く父の姿を、冷めた目で見下ろした。でもきっと冷めた目の中には、肉を食べたいという闘志の炎が渦を巻いている。
妹ががんばるぞー!と誓いを立てる中、姉であるわたしは、肉を食べたいという純粋な欲望を誓ったのだった。この話は直に続く。