6話 ~わたしの姉は優秀です~
『人には人それぞれの役目があるの』
「わたしの役目はなんですか?」
『あなたはお姫様。いつかは王子様のお嫁さんになる。そのために己を磨きなさい』
「己を磨く......?」
『魔法も勉強も踊りも稽古も身だしなみ、振る舞い......あなたがいつも頑張っていることを続ければいいのです』
★
『魔法は貴族のたしなみです。魔法が使えるからこそ、高貴でいられるのです』
夢を見ていた。
夢を見るのは久しぶりだと思った。
いつも楽しそうな夢ばかりね、と言われるが、夢の内容は覚えていない。夢を見た感覚すらない。
「今日こそは氷魔法を習得するぞぉ~!」と拳をにぎり、高く手をあげ、鏡の前に座る。
ぼさぼさの髪に花のオイルを塗って、櫛で梳かしはじめる。
わたしには姉がいる。けれどわたしたちは双子だ。
だから姉といっても年齢は一緒。
鏡に映るわたしと、いつも見る姉の姿はとても似ている。目の形、大きさ、輪郭、鼻筋、体の大きさ、身長、ふわふわとしたくせのある髪質、ちょっと太い眉毛。
ちょっとこもってて高く響く声もそっくりだ。
そんなわたしたちを見分ける方法がある。
髪色だ。
姉の髪色は遠くから見ても目立つほどの紅の色だった。眉毛も紅。睫毛や目のラインも光の反射によっては紅色がうっすらと見える。
対して、わたしは母譲りの金色だ。黄金の髪色は母譲りで美しさとは別に気に入っている。愛着があるのだ。
睫毛も眉毛も金色。
母譲りといえば、エメラルドの瞳は頬譲りのものだ。
父の瞳は赤くくすんだ色をしている。
姉も同じく母様譲りのエメラルドの美しい瞳だった。
こんなこと問う様にいう気はないが、父のくすんだ暗い目は御免だと思っている。本人には言わないけどね~。
「…………。今日は魔法のレッスン。昨日できなかったこと、できるようにならなきゃっ★」
姉とわたしは似ている。
とても似ていて見分けがつかないほどに似ている。
だからこそ姉妹や家族以上に愛着がある。
そして。だからこそ。
「どうしてこんなに違うのかな......」
どうして同じ見た目と同じ母を持ちながら、こんなに違いがあるのだろう。
わたしの姉はとてもできる人だった。優秀だった。
わたしがこれから頑張ろうと思ったことが、すでに姉はできるようになっていた。
スタート地点から差があった。
周囲は天才だから、と褒める。そう姉は天才なのだ。難しい言葉を知っている。物覚えがいい。反感を買わない言葉選びができる。嫌なことを言われても我慢できる。
姉は母から褒められる。
そんな優れた姉のようになるために......
「今日も頑張るぞっ★」
鏡の前で拳を小さく握りしめた。
わたしの笑顔は今日も口角があがっていて、可愛い。
あの不愛想な姉とはえらい違いだ。
朝ごはんはなにかな、と思いながら。わたしは寝室をあとにした。
たまには語りてを変えるのもいいかな、と思い、妹の視点で挑戦しました。年齢を考えると、幼い子の語彙力に合わせるのはとても大変。
まぁお姫様だから英才教育だから、異常に有能な語彙力は教育と努力の賜物だと思い込んでいます。