5話 魔法の勉強
この世界には魔法がある。
前の世界も、何万キロと離れたところで会話できたり、行ったこともない場所を知ることができたり。
箱の中に入れるだけで温かくて美味しいご飯が食べれたり......
前の世界もきっと魔法のように素晴らしかったのだと思う。
それを思うとこの世界の文明は劣化版にしか過ぎない。
予想だが、これは異世界あるある、なんちゃってヨーロッパだ。
小説投稿サイトの名前と掛け合わせて、ナーロッパと呼ばれる世界だ。
この世界の文明は前の世界でいうと500年以上も前を舞台としているため、文明はもちろん遅れている。だがそれを補完するかのように魔法文明があるのだ。
魔法は科学を超越したものーーーとされるが、実際に見ると、魔法は科学の代替え、または劣化版にしか過ぎないというのが、わたしの感想だ。
魔法は貴族のたしなみ、と言われ、英才教育を受ける。
呪文を唱えると炎が出たり、ものを触らずに動かすことができる。
だがそれだけだった。風を起こせるからなんだというのだろうか......
内心はそう思い、魔法を軽蔑している。
それでも。
そうはいかない事情があった。
この世界は文明が進んでいない。
文明が進んでいないということは、わたしが思い描く普通の暮らしには、とんでもないほどの努力が必要となるのだ。もしかしたら、この世界であの世界と同じようなレベルの暮らしをするのは不可能かもしれない。
だがそれは魔法と金があれば別だ。
鐘があれば便利な召使は大勢雇える。魔法があれば人から尊敬される。
魔法があれば火を起こせる。ろうそくに炎を着けれる(なにせこの世界は電気がないのだ。夜なんて真っ暗闇の中、蝋燭に手作業で火を灯すのは大変だと思わないか?)
水の鏡を出して、身だしなみを確認することができる。
ーーーーまぁスマホには劣るが、この世界は魔法があれば、それなりに便利に過ごせるのだ。
だから、わたしは魔法を習得したい。
必要だから。
だけれど、魔法を勉強するうちに思うことがあった。
楽しいーーー
多分、この世界には娯楽がないせいかもしれないが、魔法がとても楽しいと感じた。
なにかに熱中したり、できるとうになっていくことには、快楽とは違う満足感が得られる。
わたしはもっといろいろな呪文を学びたいといい、メイドや執事たちから魔法を教えてもらった。
貴族の方々にも魔法を教えてもらおうと思ったが、それは止められた。
どうやら魔法はそれぞれの家で秘伝の魔法があるらしい。
あまり追及しないほうがいいのだとか......。
それでも母は、今度は庶民の魔法の指導者を紹介してくれた。
「お招きに預かり光栄です」と微笑んだ師匠とも呼べる人は、貴族のような風貌と身だしなみがあった。母とメイド、貴族に会うときは質素でそれでいて洗練された身だしなみをしていて、左右対称の整った中世的な顔立ちと相まって、貴族に負けない華やかさがあった。
魔法の先生はわたしに庶民が使うという魔法を教えてくれた。
先生はひとつの季節ーー一年の中の一節を終えたとき
「わたしにはなにも教えられるものはありません」
灰色の髪束の隙間から白い縮れた髪を覗かせた先生は、軽く頭を下げ、去っていった。
すごいわね、と、わたしが魔法をマスターしたことに母は頬を嬉しそうに赤らめた。
それでも、わたしには物足りなさがあった。
空虚感や物足りなさを感じていたのだった。
多分、その気持ちが顔に出ていた。だいぶ、経ったあとだが、3節目を迎えるときに、その人は現れた。
そしてこの人が、のちにわたしが師匠と仰ぐ優れた人だったのだ。
ーーーというのは嘘ではないが、最初としばらくの印象はよくなかった。
ーーというのはまた次回。