2話 しあわせな時間②
妹は天才だった。
友達つくりの天才だったのだ。
3才の誕生日会のために、普段よりも煌びやかに彩られた食卓の間。
3才の誕生日には踊りにも披露することとなるので、普段は使われない舞踏の間が開かれている。
無駄に煌びやかな装飾があちらこちらに施されていて、光が反射されて目がチカチカとする。
これまた豪奢なドレスに身を包むこととなって、正直にいうと気が重い。
わたしは転生前も、こういう華やかなものは嫌いだ。
嫌いというか馴染めないのだ。
どうにも自分が場違いに浮いているようにすら思える。
「おねえさま」と妹は明るく無邪気な声で話しかけてきた。「このケーキすごくおいしいの」
妹の周りには取り巻きが2人いた。
妹はその無邪気さと可愛らしい容姿で友達をすでに作ったようだ。ちなみにこの取り巻きの友達は初対面だ。
わたしは挨拶をする。
「はじめまして。第1皇女でございます」とドレスの裾を掴み、お辞儀をする。
相手も貴族の子で、貴族である。上品で無駄のない慣れた動作で「はじめまして」と頭を下げる。
「…………」
それで。
ここで終わる。
ーーーそれがわたしだった。
だけれど妹は違うようだ。
「奇跡の鐘とわるい竜といい竜の劇をするの。見てくれませんか?」と妹は話題を振る。
「ええ、もちろんです」と屈託のない笑みが返される。
妹とわたしは似ている。
似ているだけで、中身は全く異なる。
わたしはここから見れば異性からきた異物であり、本来はここにいてはいけない子だ。
だからといって死のうとは思わないけれど。
妹はすっかりとこの世界になじんで友達もできた。
はじめは、言語能力の高いわたしのほうが愛されていた気がするが、いつの間にか妹の無邪気さと聡明さ、人間性に母も父も妹に惹かれている。
姉妹に順位をつけてはいけないのだろうが、どっちが好きかと訊かれれば妹と答えるだろう。
「ありがとうございます」
妹は踊りがうまい。
3歳の誕生日会は成功した。
奇跡の鐘とわるい竜といい竜の劇はたくさんの拍手で終えた。
「楽しそうじゃないわね」
「いいえ、楽しいです」
「ほら、笑って」と母はわたしに微笑みを見せた。
「国なんて難しいことは考えなくていいのよ。わたしはみんなで幸せに暮らしていきたい」
「わたしもそう思います」
遠くを見つめる母の双眸は憂いに満ちていた。
煌びやかな宮廷の中には悪意が満ちている。
母の出身は身分が高くはない。王妃になるには身分が低すぎたのだ。王の寵愛を受けて成り上がったシンデレラ。王子に選ばれたあとの人生は知らない。
王子の寵愛だけで宮廷を生き抜けたのか、幸せに生きれたのかはわからない。
もし幸せに生きることができたらシンデレラは参謀になれただろう。
幸せに生きてほしい。
誰もが自分の幸せや周りの幸せを願って生きている。
そしてほとんどの人は満足のいく人生を送っていない。
自己嫌悪に苛まれ、憎悪している。
それでも。
「わたしもこの日々が続いてほしいと思っています」
嘘偽りなくそう思った。