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ビターアンビエンス  作者: 遠藤 敦子
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 それから莉子と朔は1週間の間に通夜や葬儀などの事務手続きをした。喪主を務める朔が主にそういったことをしていたけれど、朔だけに任せるのも心許なかったので、莉子も手伝っていたのだ。あっという間に1週間が過ぎ、莉子の忌引き休暇も終わろうとしている。諸々を終えて1人暮らしの家に帰った頃、莉子は今まで忙しくしていた分の糸が切れ、部屋で1人で号泣してしまった。芙美子を失った喪失感が今になって来たのだ。今の莉子には女友達からのLINEも返す気力がなかった。


 しかし生活がかかっていることもあり、週明けから莉子は会社に復帰する。ファンデーションやアイシャドウでもごまかせないほど目が腫れていたので、莉子は眼鏡をかけて--いつもはコンタクトレンズを使っていて、家でのみ眼鏡を使用している--出社した。

「……川本さん、大変だったな」

 開口一番に男性上司が莉子に声をかける。莉子は「はい、だいぶ……」と答えるのが精一杯だった。

「川本さんもいろいろ大変だっただろうし、しばらく休職っていう形で休養とってみたら」

 そこで男性上司は莉子に休養をとることを勧める。しかし莉子は在籍したまま休養して仕事に穴を開けるのが嫌だったのだ。休職して迷惑をかけるくらいなら、退職してから休んだ方が良いという考えが莉子の中にあった。莉子は営業事務という仕事は好きだったけれど、貯金があるので仕事から離れても生活に困ることはない。

「休職も考えたんですけど、休んで仕事に穴を開けたくなくて……。急で申し訳ないんですけど、来月末で退職したいです」

 莉子は来月末での退職を申し出た。芙美子が亡くなったからといっていきなり退職するという無責任なことはしたくなかったので、就業規則に則って退職の旨を伝えたのだ。それからは残りの在籍期間のうちに引き継ぎを済ませ、有休消化に入る。


 有休消化中、莉子は趣味--ピアノ--に打ち込んだり単発のアルバイトをしたりして過ごした。何かしていないと、芙美子を失った喪失感に襲われてしまうからだ。しかし莉子には罪悪感もあった。お母さんは交通事故に遭って痛い思いをしながら亡くなったのに、自分だけ好きなことをして楽しんで良いのだろうか。そういったことすら考えるようになったのだ。莉子は芙美子が亡くなったばかりの頃のように自分も芙美子のところに行きたいとは考えなくなったものの、今度は罪悪感に襲われ、休養した気がしなかった。

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