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ビターアンビエンス  作者: 遠藤 敦子
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 娘の莉子(りこ)にピアノを教える時は厳しく、莉子が間違うと手を叩くこともあった。しかし莉子が嫌いなわけではなくて、フリルのついたワンピースやリボンのついたブラウスなど可愛い洋服も買って着せてくれたこともある。そんな母親だった川本(かわもと)芙美子(ふみこ)は、莉子の24歳の誕生日である2024年9月1日に交通事故に遭い、53歳の若さでこの世を去った。子どもたちに手がかからなくなり、ピアノ教室を開業しようとしていた矢先のことだ。


 川本莉子はピアノを教えてくれた時の芙美子は厳しくて--成長してから、ピアノが上手になってほしくて厳しくしていたことに気づく--好きではなかった。けれど

「莉子ちゃんにはこれが似合うと思う」

 と可愛い洋服をたくさん買って着せてくれたことや、莉子や6歳上の兄の(さく)--今は結婚して実家から離れている--に愛情を注いでくれたことから、芙美子のことは好きだったし慕っていた。子ども時代にピアノのコンクールで金賞を受賞したことも、音大に通えたのも、すべて芙美子のおかげだったのだ。

 9月1日に莉子は音大時代の女友達から誕生日のお祝いとしてランチを奢ってもらい、プレゼントとしてSABONのボディスクラブをもらう。女友達と別れて家に帰ろうとしていた際に、莉子のiPhoneから着信音が鳴る。知らない番号が表示されていたけれど、出てみると

「もしもし、川本莉子さんの携帯番号でお間違いないでしょうか。私、京都府警の城島(じょうしま)と申します。実はお母様が交通事故に遭いまして病院に搬送されたのですが、搬送先の病院で死亡が確認されました」

 と京都府警の城島という男性が話す。「交通事故」「搬送先の病院で死亡」という言葉が莉子にはどこか違う国の言葉のように聞こえた。事故? お母さんが? 亡くなった? と莉子は頭が真っ白になり、固まってしまったのだ。

「母が……? そうなんですか? 病院って……」

 と言うのがやっとだった。城島に病院の場所を教えてもらい、莉子は大阪駅から京都駅まで向かう。表示された電話番号を検索してみると、確かに京都府警のそれだった。自分の目で確認したいと思い、莉子は京都駅からタクシーで芙美子のいる病院に行く。

 先に朔とその妻が到着しており、朔が「莉子、母さん亡くなったって……」と肩を震わせながら言う。芙美子は穏やかな顔で眠っており、声をかけると今にも起き上がりそうな様子だった。しかし芙美子に触れると冷たかったので、莉子は本当に芙美子が亡くなったことを実感する。それから会社の上司に、芙美子が亡くなったことや明日から出社できないことを電話で伝えた。上司は理解のある人だったので莉子に寄り添ってくれ、莉子は1週間忌引き休暇をもらう。

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