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第四話 ⑦【完結】

「その名の通り、地球の近くを通過する小惑星を呼び寄せ、爆撃する技のことだ」

「はぁ⁉ そんなのアリ⁉」

 アイが眉を吊り上げる。

「本来、あの攻撃はダーク・グレイが数人がかりで行うと聞いていた。まさか、あんな下っ端じみた奴が一人で撃てるとは思わなんだ!」

「俺はこう見えてもなァ、能力値は高いんだ! その俺をナメた落とし前、ここでつけさせてやるゥ!」

 こう見えてって、見た目が良くない自覚あるのか!

 俺がそんなことを思う間に、空が赤い輝きに包まれ始めた。

 上空からとてつもない速度で、小惑星が飛来しているのだ!

「うわ! あれヤバイよ! 隕石だよ!」

 タクの言う通り、あれは極めてまずい!

「みんな! 俺の背後に伏せろ!」

 もはや逃げることは間に合わない。今ここで迎撃するしかない!

 俺はプラズマキャノンにエネルギーをチャージする。本来なら単発で発射するキャノンだが、エネルギーをさらにチャージすることで、より強力なビームを撃つことができるのだ。

 この一発に掛けるしかない!

「リスク・ラブ! やはりあのとき倒しておくべきだった! その失敗、ここで取り戻させてもらう!」

「俺のリスクを見せてやるって言ったろォオ!」

 足を大きく開き、重心を落として身構える俺を、リスク・ラブは嗤う。

 小惑星がさらに近づく。もう猶予はない!

 視覚カメラの映像を基に、フェイスマスクのコンピューターが小惑星の威力を算出。モニターに表示する。

 このグラウンドどころか、街の半分が消し飛ぶ威力だ!

「死にさらせやァアアアッ!」

「させるかァアアアアアッ!」

 雲を散らして地上に迫る小惑星目掛け、俺はビームを発射!

 俺の肩から放たれた凄まじい閃光が空高く伸び、小惑星と激突!

「――くッ⁉」

 プラズマキャノンから放ったビームは無論、最大出力だ。だがッ! 小惑星はさらに近づいてくる!

 く、くそ! このままでは、地上と衝突してしまう! 威力が、足りないッ!

「きゃあああああッ!」

 と、ハルカたちが悲鳴を上げたその時、学校の裏山の頂上から、もう一つの眩い光が伸び、小惑星へと激突した。

 その光は、色も太さも、俺が放つビームと同じ!

「まさかッ⁉」

 俺は視界の隅に山の屋上を捉えているが、振り向く余裕はない。

「な、なにィ⁉ ビームが二つだとォ⁉」

 想定外だったか、リスク・ラブも焦りの声を上げている。

 今、二つのビームが小惑星を押し返す!

 ここはタクが通う学校だ! リスク・ラブの好きにはさせん!

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼」

 俺の雄叫びに合わせるようにして、二つのビームの光が小惑星を包み込み、空中で大爆発を引き起こした。

 衝撃波が降り注ぎ、粉塵が弾け、校舎の窓ガラスが破砕。

「ぎやあああああああああああああああああああああああああああああッ‼」

 そして、リスク・ラブの悲鳴がビームの余波で吹き飛ばされていき、光は収束した。

 大破して煙を上げるプラズマキャノンを格納した俺は、裏山の頂上――あの、街を一望できる開けた場所に目を向けた。

「……」

 俺は視覚カメラの望遠機能で、そこに一人の人物を見出した。

 俺のものと同様、プラズマキャノンから白煙を上げさせ、胸の前で腕を組み、仁王立つ兄者の姿を。

 兄者は一瞬、こちらに顔を向けたように見え、それから颯爽と踵を返し、闇へ消えた。

「兄者……」

 兄者は最後まで、俺の兄者でもあったのだ。


 その後、血相を変えたアイが【事後処理班】なる人間の部隊を呼び寄せると、校舎の壊れた個所の修理が急ピッチで行われた。

 俺はそのとき、アイがとある人物と電話するのを耳にし、衝撃の事実を知った。

「長官! お忙しいところごめんなさい。拓くんの小学校でも【地球外事案】が発生しました」

 長官? ということは、アイが所属する異星種対策局のリーダーか! 興味深い!

 と、俺は聴覚センサーを強め、アイの電話相手の声を拾った。すると、音声の解析結果がモニターに表示され、そこに【お母さん殿】とあったのだ。

「っ⁉」

 俺は思わず声を上げそうになるが、ハルカとタクを見て堪えた。

 二人の様子だと、恐らく、お母さん殿が異星種対策局の長官を務めていることは知らされていない。

 お母さん殿がそれを子供たちに教えないのは、何らかの理由があってのことだ。

 故に俺は、一先ず黙っておくことにした。

 道理で、初めて俺を目にしたお母さん殿の反応が、妙に落ち着き払っていたわけだ。

 お母さん殿の帰りが遅いのも、きっと、宇宙船の目撃情報から、俺がSNSで話題になったこと、今夜起きた一連の騒動の情報操作に追われているとか、そんなところだろう。

「最後のビーム、超すごかった! またやって!」

「いや、もうあんなにヒヤヒヤするのは懲り懲りだ……」

 はしゃぐタクを宥める俺に、ハルカがこう言った。

「みんなを守ってくれて、ありがとね。クロウ」

「礼には及ばん。困ったときはお互い様と言うのだろう? 俺はここへ来て学んだことをやっ

たまでだ」

「素直じゃないところも、兄弟だね」

 何故かはわからないが、両手を腰の後ろで組んで微笑むハルカに、俺の鼓動は跳ね上がった。


 ナーデルは、俺たちが家に戻ったちょうどその時に再生が終わったらしく、こちらもすべて終わったことを伝えると、

「えー、せっかく面白いことが見れると思ったのにぃ……」

「面白いどころか地獄だったんだぞ? 下手したらみんな死んでたんだぞ? 頭良すぎておかしいんじゃないのか? お前」

「そんなことには、ボクがついていればならなかったよ……あと、頭良すぎておかしいって日本語がおかしいよ……」

と、落ち込んだ様子で帰っていった。

 それから朝までのことは、疲労が限界だったこともあってあまり覚えていない。

 ただ、俺はハルカとタクを両脇に抱え、三人で眠った。

 そうして朝方帰って来た長官――ではなくお母さん殿に正座で謝罪し、ハルカはバイト、タクは本当に病気が感知したのかを確かめるべく、お母さん殿が病院へ連れて行った。

 俺が兄者との戦いで負った傷はダメージが大きく、昨夜のうちに回復薬を投与したものの、完治まで数日は掛かる。

『わたし達、明日からまた学校だから、しばらくお留守番よろしくね』

 と、ハルカにも言われたことだし、しばらくは家で勉強だ。

 勉強といえば、俺が倒した数学の小テストの結果は、ハルカ曰く明日わかるらしい。

 名前の欄にはしっかりと教員の名前を書いたことだし、満点の結果にハルカは喜ぶだろう。

「……うぅむ」

 というわけで、俺は朝からパソコンに向かっている。

 俺がずっと気になっていた、とある感情についてを調べたかったのだ。

 ハルカやタクに対して感じたり、兄者に対しても感じた、ぽかぽかと温かい感情。

 兄者が俺に対して抱いたのも、同じものだと思っている。

「これは……違うか」

 力加減にもだいぶ慣れてきた俺は、爪の先でマウスをクリックする。

 これから、見つかるまで続けるぞ。

 何事も粘り強く続けることが大切だと、ハルカに今朝教わった。

 この分だと、人間と接して学べることはまだまだありそうだ。

 そう思うと、俺の闘争本能ならぬ、冒険本能のようなものが高まってくる。

「ん? これは!」

 そんな矢先、俺はとある単語に辿り着いた。

「うむ。俺が探していた感情は、これだ!」

 その単語の意味を読んで、俺は頷いた。

 俺が何度も感じていたのは、【愛】という感情だったのだ。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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