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重力女6

「おつかれ~。芝崎、あんたさあ今日のカラオケはさすがに来るでしょ?クラスで集まるのこれが最後だよ」

「そうね。顔ぐらいは出そうかな。すぐ帰るけど」

「卒業式だってのにいつもと変わらず淡々としてるねえ。喜怒哀楽の怒しか持ってないんじゃないの?」

「海田。そういうあなたも泣いた形跡がないわよ。友達多いギャルのくせに。それに私は怒なんて持ってないわ。喜怒哀楽で言ったら怒髪天よ」

「どんだけキレてんだよ。それよりさあ…芝崎って大学行かないんだよね。どこだっけ?」

「警察よ警察。安定の公務員」

「そうだった警察だ。もし私が駐禁しても切符切らないでよ」

「なんで交通課前提なのよ。多分そういうのじゃないから将来力になれることはないわ。海田はどこの大学に行くの?」

「私も就職だよ。派遣しか受からなかった」

「向いてなさそう。てか大学行かないんだ。あなた頭良かったのにね。高2から丸くなったし。高1の時はなんか…ちょっと…ねえ」

「それは私の黒歴史だから二度と言うな」

「海田が派遣ねえ。私の予想だけどすぐやめると思うわ。あなたがまともな職につけるわけないもの」

「なんでだよ。つけるだろ」

「漠然とだけど反社が向いてると思うわ。変なカリスマ性があるもの。暴れるのはいいけど私のお世話にはならないことね」

「反社は仕事じゃねえし、なる前提で話してんじゃねえよ。ったく気分悪くなったわ。夜遅れんなよ。じゃあな」

「バイバイ」

 バッと起き上がった。どこにいるのか分からなかった。なんかめっちゃしょうもない夢を見ていた気がした。

「急に起きるなよ。危ないだろ」

「金本さん」

 金本がりんごをむいていた。相変わらず料理している姿が似合わない。どうやらここは病院のようだ。 

 千代吉も患者衣を着ていた。

「気分はどうだい?正式にテロリストになった気分は?」

「私テロリストなの?ニュースではどうなってんの?」

「お前が黒心館で大立ち回りかましてからもう3日たってるよ。その間情報も錯綜しててな。とりあえず面白そうなやつは録画してるよ。お前にみせてやろうと思ってな。にっしし」

「性格悪いっすね、金本さん」

 3日も寝ていたことに驚いた。顔の腫れはまだ残っており、肘にもギプスがされている。少し痛い。

「とりあえず見せてくださいよ。ニュース映像」

「よし、待ってろ」


「夕方のニュースです。本日の夕方、日本最大規模の空手会館黒心館が破壊されたとのことです。死亡者は館長の黒田信勝さん55歳を初め門下生157名、負傷者は32名におよび瓦礫に押しつぶされていたとのことです。この事件で都内のホテルに勤務する海田千代吉容疑者25歳を指名手配するとの発表がなされました」


「ふざけんな!マジか」

「かはははははは!笑えるわ」

「何がおもしれえんだよ!このくそじじい!はあもうお先真っ暗だ」

「死傷者大量だ。黒田さんも死んじゃって。もうこれ大量殺人鬼だよ」

「でも殺らなきゃ殺られてたよ。あのジジイマジで強かったがきっちり地獄に送ってやったよ」

「そうかい。そりゃ何よりだ」

 金本は満足そうに笑みを浮かべる。千代吉の方はまだ心の整理をつけきれてはいない。人を殺したのは初めてのことだったし社会復帰は完全に不可能となった。後悔がないわけじゃない。だがうじうじと悩むほどではなかった。

 もちろん誇らしさや爽快感などあるわけがない。ただなすべきことをなしたというのが一番しっくりくるのかもしれない。

「しかしよく勝てたな。あんな手使われたらお手上げだよ全く。いつ思いついたんだよ。最初からあんなとんでもないこと考えてたのか?」

「まさか。自分でもよく思いついたと思うよ。ていうか見てたんなら手伝えよ」

「やったことなかったのか!ぶっつけ本番とは恐れ入ったよ」

「最初にあのジジイと殴り合った時に正攻法の喧嘩じゃ勝てないと思ったんだよ。他にも奥の手があったら手に負えないしね。実際あいつ奥の手があって私はこの様だ。しばらくコンビニにも行けない面になったでしょ。だからあいつが何をしてこようが勝てない方法をとった。それでどでかいビルを使って隕石を作ろうと閃いたんだよ。初めてだけど上手くいって良かった」

 自分でもびっくりしている。よく勝てたと思う。金本も唖然としていた。

「改めて歓迎するぜ。海田千代吉。今日から仲間だ」

「やだよ。なんで金本さんの仲間にならないといけないんだよ」

「なんでってそれしか道ねえよ。この病院だっていつまでも誤魔化せないしな」

「助けてくれたのは感謝するけどそもそもあんた何者なんだよ」

「ああそういや言ってなかったな」

 金本はかばんをごそごそと漁り、名刺を取り出した。

「改めてテロリスト派遣会社パスカルのリーダー金本新蔵だ。よろしくな」

 名刺には金本新蔵とパスカルの文字が書かれていた。

「いや~びっくりした。あんたそんな大物だったとは。懸賞金2000万とかじゃなかったけ?交番でよく見るけど顔も名前も謎だもんね」

「正確にはテロリストじゃなくて派遣な。必要とする人に適した人材を送るテロリストの人材派遣会社だ。結構需要あるんだぜ」

「あったら駄目だろ。いよいよ日本も終わりだな」

「ちがいねえ。というわけでうちの社員になってもらいたい。去年も何人かパクられてな。人が足りてねえんだ。千代吉なら即戦力だ」

 千代吉は考えた。他にやることもなくしばらくは逃亡生活だ。1分もたたないうちに腹は決まった。

「よろしくっす。海田千代吉です。こき使ってください。社長」

「金本でいいよ。よろしくな。まずは怪我を治せ。治ったら早速働いてもらうっと」

 金本の携帯が鳴りだした。

「今日も仕事が山積みなんだよ。合間縫って来たんだ。じゃあな。もしもし……」

 金本が去った病室一息つく。日の当たる場所では生活できなくなったし老後ものんびり過ごすことも叶わないし結婚も子供ももう無理だろう。

 この際もう行けるところまで行くしかない。良いか悪いか知ったことか。為すべきことを為していこう。

 2035年10月中旬いつもと変わらない近未来の出来事である。


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