闇男3
「ブンブンハローユーチューブ!なんつって!配信ってこれであってんの?ちゃんと映ってる?逆行すごいな。こっち向こ。よし。どうもみなさんおはこんにちばんは!グッドモーニング!私のこと誰か分かるかな?分かんないか?顔出しはしてるんだけどね。有名人ではあるんだよ。っつうか寒っむうう!もう12月だからさすがにさみいわ。みんなは私のいる場所がどこか分かる?この高い景色。下映したら高所恐怖症の人とか縮み上がっちゃうんじゃない?ヤバいよね!正解は東京タワーのてっぺんでしたあ!本当のてっぺんだぞ。先っちょですよ。ここも来月から取り壊しが始まる予定なんだけど生まれも育ちもチャキチャキ江戸っ娘の私としてはなんかノスタルジーが刺激されるっていうか無性に寂しくなるのよねえ。ええっと何の話だっけ?そうだ!自己紹介。私は海田千代吉。25歳。前職はホテルのコンシェルジュやってたんだけど今はフリーのテロリストやってます。パスカルっていう大手テロリスト派遣会社にジョブチェンしたんだけど2か月足らずでクビになりました。それからはやりたいことを気ままにやったりフリーでテロ請け負ってます。なんか潰したい団体とか組織とかあったらどしどしチャンネルに書きこんでください。気が向いたらやります。さてと宣伝はこれくらいで、本日は動画1発目ってことで東京タワーぺしゃんこにしてみたああ!イエイ!!っというわけで今から高さ333メートルもある東京タワーを破壊してみたいと思います。一瞬で。今近場にいる人は気をつけなよ。特にガキンチョ!巻き込まれても私は責任取らないからね。じゃあダラダラ話してもあれなんで早速やっていきまーーす!せーの」
東京タワーの頂上に突如として現れた海田千代吉は正午と同時にライブ配信を開始した。命綱をつけることなく立っているのもやっとな豪風の中、穏やかな海岸にいるかのようにたたずむ。
動画内からは鉄の軋む音がはっきりと聞こえてきた。千代吉の足場が鉄の軋む音とともにへこんだ。
そのへこみは彼女の足場を中心に東京タワー全体に広がっていく。東京タワーが千代吉と地面に挟まれプレス機で圧し潰されていくように形を変容させていった。
その映像は凄まじいものであった。動画のコメントもお祭り騒ぎである。同接はあっという間に100万人を超え、全世界に拡散された。
ものの5分ほどで東京タワーは文字通りぺしゃんこになった。激しい土煙の中、パトカーのサイレンが鳴り響く。
「ゲホッゲホッ!!くっるしい!今度はスカイツリーとかもいきたいね。以上千代っきチャンネルでした。チャンネル登録よろしくねえ」
ここで海田千代吉のチャンネルは途切れる。この2分後警察が到着するがすでに海田千代吉の姿はなくプレスされた無残な東京タワーだったものだけが残されていた。
この事件の衝撃は計り知れず日本だけでなく世界でもニュースになり事態を重く見た警視庁は特殊テロリスト対策チームを作ることとなった。聖子たち公安4課の出番である。
警視庁のとある一室に公安4課のメンバー4人が全員揃った。テーブルの上には各人それぞれタブレットが置かれホワイトボードにはびっしりと情報で埋め尽くされていた。
すべて海田千代吉についてのものだった。
「それでは始めていきます」
司会のすみれがタブレットを片手に説明を始めていく。
「海田千代吉25歳。東京都浅草出身、地元の高校卒業後、人材派遣会社に就職してホテルチェルヴィニアに契約社員として勤務約7年間働いたのち、突如バックレて次に社会に出たときはパスカルのテロリストとして活動、この2か月で数多くの組織、団体、国家機関と戦闘と今1番厄介でホットなテロリストですね」
光夜はタブレットで千代吉の資料を見るがざっと見ただけでもこの2か月で10件もの事件に関与している。
「最初に出てきたのは確か黒心館だったわね」
聖子がタブレットに目を落としながら尋ねた。暗に説明しろと言っているのだろう。すみれも聖子の意図を察し話し始めた。
「そうです。彼女が最初に表に出たのは2か月前の10月15日ですね。都内にある国内最大派閥である空手会館の黒心館に1人で乗り込み館長の黒田信勝を含む157名の門下生を殺害、瓦礫による負傷者が32名出ました」
「最初は黒心館の評判が悪かったんで世間からは結構いい風に報道されてましたよね?倭の国からジャンヌダルクが生まれたなんて書いてる週刊誌もありましたよ」
壮太が当時を思い出して語った。
「そうだったね。当初は世間からの評判は悪いものじゃなかった。でもそこからの暴れ方が尋常じゃない。茨城県警襲撃事件や国内左派組織天誅の壊滅、右翼団体希望の翼の解体、中でも1番ヤバかったのは陸自の演習に殴りこんだ事件ですね」
「あ~~。あったね」
ニュースを見ない光夜には知らない事件だった。
「それもタブレットにのってますよ。滋賀県の饗庭野演習場で自衛隊がB軍と一個旅団規模で演習しているところに突然現れて両軍合わせて死傷者106名の大虐殺をかましてます。これがあって海田は国際指名手配犯、B国じゃあ1億ドルの賞金首ですからね」
終始タブレットを見ていた聖子が顔を周りに向ける。
「海田千代吉の不気味なところは目的が分からないところね。パスカルって言いながらいろんな組織を壊滅させている。目的がはっきりした傾向のあるパスカルの中でも異質なメンバーね。動画で言ってたクビになったって言うのも案外本当なのかも。鎖をちぎった獣が野に放たれている今こいつが何をするのか読めたものじゃないわ」
「1個いい?」
光夜はずっと気になっていたことを尋ねた。
「瓦礫で圧死ってどういうことですか?道場破りだからてっきり殴り殺したとか斬り殺したとかだと思ったんだけど?」
すみれは首をふる。
「海田千代吉のダイナもヤバいね。亡くなった門下生は全員瓦礫による圧死、黒田を含めて。7階建てのビルのうち上4階部分が球体になってそれに潰されたの。ただビルを倒壊させるのとはわけが違うわ。今回の東京タワーをプレスしたのもそうだけど海田のダイナは常識外れのエネルギーを持っている。それこそ聖子さんクラスの化け物エスパーね」
「重力を操ってたわね」
聖子がすぐさま返答した。光夜はまるで見てきたかのようにはっきりと答える聖子に違和感を感じた。
「何か見てきたみたいに言うんですね。まさか知り合いですか?」
すみれも光夜と同じことを思ったらしい。壮太の顔もそのようだった。
「彼女、私と同じ高校なのよ。中学は別だけど小学校も同じよ。そんな仲良くなかったけど」
ええっと全員がびっくりした。言われてみればそうだった。年も同じである。
「そうだったんですか。高校まで一緒なら連絡先とか分かるんじゃないですか?」
「だからそんな関わりなかったわよ。あの娘ヤンキーだったし。その時は拳に重さ乗せて威力を上げるぐらいの使い方しかしてなかったから最初分からなかったのよ。強かったけどここまで化け物になるなんて想像もつかないわ」
「へ~~。向こうも案外覚えてたりして」
「さあどうかしらね。覚えていないと思うわ」
すみれからそう聞かれた聖子の顔がわずかに笑ったように見えた。この鬼畜女でも昔を懐かしむ感情があったのかと光夜は感動した。
「とりあえずさっさとこの最悪のテロリストをさっさと捕まえること。いいわね!」
へ~いと全員で気のない返事をした。聖子は呆れた顔を向けながら指針を伝える。
「すみれはこの2か月の海田千代吉のデータを洗って行動パターンを予測して」
「了解」
「私と光夜でチェルヴィニアに聞き込みに行くわ。壮太はすみれのサポートとするも今日はみんなもう解散でいいわ」
「いいんですか。やったああ!!!たまにはみんなで飲みに行きましょうよ」
喜んでいるのはすみれだけである。
久しぶりの休みだったが光夜は全くウキウキしなかった。こういう時の流れは大体決まっている。壮太も同じ思いなのだろう。露骨に苦い顔をしていた。
「飲みねえ。私はパスね。こいつらも昼は無理よ。夜ならいいけど」
光夜と壮太は同時にえっ!と聖子に顔を向けた。
「逆に夜はいいんですか?」
壮太が聞いた。喜びを隠しきれていない。
「もちろん行けばいいじゃない。チームでコミュニケーションをとるのは大事よ。行けるほど元気ならだけど」
光夜は聖子の意図が分かった。行かせないほどボロボロにする気だ。こっちに行けると思わせて行けない理由を自分たちの実力不足にする。飲み会に行かせる気などないに違いない。性格の悪い聖子の考えそうなことである。
「時間はそうね………。6時までにしましょうか」
時計を見る。現在お昼前11時半である。移動と昼食を考えて始まるのはおおむね13時といったところだろう。いつもより断然短い。
何とかなるかもしれないと思った。
「じゃあ決まりね。7時に予約するから2人とも遅れないでよ」
すみれははしゃぎながら部屋を出た。
「それじゃああなたたちは昼食をとり次第、家に集合ね。食べ過ぎたら駄目よ。吐いても知らないから」
これから地獄が始まる。光夜はこの時間が何より嫌いだった。




