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3話 街

 時間と空間が歪んだ異空間。

 夜空に浮かぶ赤と青の双子月は、まるで血と炎を混ぜ合わせたような妖艶な光を放っていた。


 照らされるのは、影のみを残し消えゆく街。

 しかし、力ある者たちは消えず、戦いの炎を燃え盛らせていた。


 魔術師の青い炎が、夜の闇を鮮やかに照らし出す。

 彼は炎の鞭で魔物を攻撃し、魔物は雷撃で反撃をする。


 互いに一歩も譲れない攻防が続き、街は戦場と化す。

 燃え盛る建物、倒壊するビル、戦士たちの亡骸。

 全てが廃墟と化した街の一部でしかない。


 激闘の末、魔術師は魔物を炎の牢獄に閉じ込めて勝負がついた、そのように思えた。しかし、魔物は牢獄を破り、魔術師に致命傷を与える。


 剣の大悪魔は、戦闘の余波で破壊された街並みを眺めるが、一切の感情の起伏は見受けられない。彼は、死と破壊の光景に慣れ過ぎていた。


『魔術士に魔物、そして一部は戦えない者か』


 ビルの立ち並ぶ、時の止まった街では別の戦闘が繰り広げられている。


 魔術士と魔物が最も多いが、魔術士同士や魔物同士も見受けられる。燃え盛る車から立ち上る黒煙が街を包み込み、鼻を刺すような異臭が辺りに漂う。


 しばらく戦いを観察した後、移動を開始する。

 剣の大悪魔は、ビルから飛び立ち、赤い翼を広げ夜空を滑空した。


 誰かに加勢するわけにはいかない。

 勢力図が分からない以上、干渉しないと告げた魔術士達と対立することもあるのだから。


 また戦えない者達を助けるのも避けなければならない。

 魔術士達と敵対していることも考えられるのだから。


 空を飛び、地上を見下ろす。


 戦闘の余波で、公園の遊具は壊され、鉄パイプが曲げられている。

 地面には深い亀裂が入り、地震のような揺れ。

 燃え盛る車から黒煙が立ち上り、街は異臭に包まれていた。


 だが、双子月の時間が終われば、街は元通りになっている。

 その事実を考えれば、単純に時間が止まっているというわけではないのだろう。


 やがて、慧達が通う学園にまで辿り着き、屋上へと降りて翼を消す。

 歩きながら、周囲の地形を確認した。


 やはり、この辺りも例外なく、あちこちに戦闘痕が残っている。


 足跡からは、身長、体重、格闘経験など多くの情報が手に入る。


 戦闘痕も同じだ。

 知識ある者が見れば、多くの情報を手に入れることができる。


 探すのは、戦闘痕の無い場所。

 この戦いに参加するかどうかは別にしても、拠点と出来る場所が必要だからだ。


 学校から、更に西へと移動をする。


 街の西に流れる大きな川。

 その水を使うために工場が集まった土地。

 さらに、その端には多くの廃工場があった。

 中に入り、様子を確認する。


 剣の大悪魔は、廃工場の扉をゆっくりと開けた。

 ギィーッという金属音を響かせながら、扉が開いていく。


 内部は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。


 窓ガラスは割れ、壁には落書きが描かれている。

 天井からは蜘蛛の巣が垂れ下がり、床には錆びた機械が散乱している。

 唯一の光源は、わずかに差し込む双子月の光のみ。


 音は、遥か遠くから聞こえる戦闘のもののみ。

 その事実が、剣の大悪魔に隠れるのに丁度よいと判断させる。


 埃っぽい空気を吸い込みながら、廃工場の奥へと進んでいく。

 足音は、埃を巻き上げながら、虚な空間に響き渡らせ最奥にまで到達する。


『強度は十分か。しかし……』 


 彼の鋭利な感覚が、この場所の違和感を捉えていた。

 何者かが支配する固有の空間というべきか、それか並行世界と呼ぶべき物が存在している。


 ここだけではない。

 他の場所でも同様だ。


 それが何であるのかは分からない。

 干渉することは可能だが、情報の少ない現状でそれを行うのは悪手だろう。


 剣の大悪魔は、この事を心に留めて再度の移動を開始する。

 西側の確認を終え、北へ……東へ……南へ…………戦闘が行われている街の中央部以外を一通り周る。


 剣の悪魔は、校舎の屋上に立っていた。 

 赤と青の月が完全に重なったとき、この時間は終わる。力ある者達も、紛れこんだ力無き者達も、魔物も、この時間の終わりと共に何処かへと消えていく。その中に、彼自身も含まれていた。 


 徐々に、赤と青が重なっていく。

 やがて双子の月が完全に一つとなったとき、世界は白一色に染まり、月に照らされていた者達は元いた場所へと還った。


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