エピローグ 芽生えた希望
あれから数か月、ボク達は希望復興機関という朝木ヶ丘学園の卒業生が立ち上げた機関に勤めていた。ボクはあかねさんの協力もあって全ての記憶を取り戻していた。
どうやら、あの共同生活は全世界に放送されていたらしい。「影内 こはるがいなくなった今、「悪意の残党」の勢力は弱くなっていくだろう」と思われているようだ。でも、簡単にこはるさんの影響がなくなるとは思えない。それはあかねさんも同じ意見のようだ。
世界は思ったよりも悪意に満ちていて、復興するまでに相当な時間がかかると言われている。土地も死に絶えて、草木が生えてくるのにも数年はかかるらしい。
それから、あかねさんがボクを利用しようとしていた話だけど、あれはただこはるさんを倒すためだったらしい。そんなことなら、別に利用されたとは思えないんだけど。でも、あかねさんは「本当にごめんなさい」と頭を下げた。ボクは「そこまでしなくてもいいよ」と言ったのに。
そして、朝木ヶ丘学園……あの学園はいずれ復興させるとあかねさんは言っていた。もちろん今は無理だけど、ある程度状況が落ち着いたら、希望復興機関に勤めながらまた元の学園に戻していくそうだ。何年かかるか分からないけど、ボクも協力するつもりだ。
それに、入学式当日に会った茶髪の女性も手伝ってくれるようだ。旅をしているようで、戻ってきた時に状況を教えてくれたり知り合いに頼んで協力してくれたりしていると聞いた。正直、かなり助かっている。
……とまぁ、近況報告だけでもこんな大変な状況だと分かってもらえると思うけど。
それでも、ボク達は諦めない。
あの残酷な共同生活を乗り越えてきたのだ。ボク達なら出来る。
「はじめさん」
ボクを呼ぶ声に立ち止まる。振り向くとそこにはスーツを着たあかねの姿。実は、あの後ボク達は互いの呼び方を少し変えたのだ。
「あかね、どうしたの?」
「少し来てほしいところがあるんです」
「来てほしいところ?どこ?」
「すぐに分かりますよ。……こっちです」
すぐに歩き出す彼女を慌てて追いかける。そうして辿り着いた先はあかねが作った花壇だった。目の前に広がっていた光景は、まるでそこだけが別の世界のようにたくさんの白い花が咲いていた。ここまで育てるのに相当な労力を要したことだろう。
「わぁ……!すごいね!なんていう花なの?」
ボクが尋ねると、あかねはにこやかに答えた。
「スズランにカスミソウにカモミール、それからガーベラです。それぞれ希望や無垢の愛、逆境に耐えると言った花言葉があります。この光景を、まずあなたに見せたかったんです」
その花言葉は、まるでボク達を表しているようだった。ボクはあかねの肩に手を回す。
「は、はじめさん?」
その行動に驚いたのか、彼女は頬を真っ赤に染めた。それに構わず、ボクは言葉を紡いだ。
「……今度、二年生の更生プロジェクトが始まるね」
その言葉にあかねさんは不安そうな表情を浮かべた。
「そう、ですね。だけど、あれはまだ完全ではないから、失敗するかもしれません。それに、あの子もそのプロジェクトに参加すると聞きましたし……正直、心配です」
その声は、表情と同じように本当に不安そうだった。
「うん。……だけど、どんなことがあっても、希望を捨てるようなことだけはしないようにしよう」
ボクのその言葉に、あかねは頷く。頭を撫でると、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。
「……そう、ですね。あの時も奇跡が起きたんですから、今度もきっと、奇跡が起きるでしょう」
そう言って、あかねは目を閉じた。その瞳には何が映っているのか、やはりボクには分からない。それが、素晴らしい未来であることをただ祈るだけだ。
彼女が育て上げたこの花達が穏やかな風に吹かれ、揺らいでいた。