一章 始まる絶望
私立 朝木ヶ丘学園。
その学園は学園側に推薦された者しか入学が許されない、完全スカウト制の学園だ。そして入学が許されるのは「天才級」の才能がある者に限られている……らしい。世界が衰退し、さらに才能ある者を集めているという。
そんな希望の学園の前に、ボクは立っていた。
ボクの名前は小松 はじめ。ごくごく一般的な高校生だ。父親も普通のサラリーマン、母親も普通の主婦、妹も普通の中学生……と、こうして聞いてもらうだけでも普通の家族だと分かるだろう。ボク自身も特別何か出来るわけでもないし、部活で何か良い成績を残したわけでもない。もっと言えば、頭も特別いいわけではない。
そんな、どこをとっても普通のボクがなぜこんな普通ではない学園の前にいるのかというと、それは他でもない、ボクはこの学園に招待されたのだ。
なんでこんなどこを取っても平凡なボクを……と思うが、それについては自分でも分からない。ただ、中学校の時の担任からその知らせを聞いたのだ。それを聞いた両親は失神しかけたというのは言うまでもないだろう。だってボクはどこにでもいるような、そんな人間なのにまさか卒業したらこんな衰退した世界でも、成功が約束されると言っても過言ではない程の学園に招待されるとは思っていなかったんだから。
「それにしても、大きいな……」
事前準備として情報は集めていたけど、まさかここまでだとは思わなかった。政府公認だとは聞いていたけど、それにしても広すぎではないだろうか?さすが希望の学園。
周囲を見渡しても、他の新入生はまだ来ていないようだ。それどころか人一人いない。
「それもそうか、新入生の集合時間は確か八時だもんな……」
まだ七時にもなっていないのだ、緊張しすぎて早く来すぎた。この様子じゃ、教師達も来ていないだろう。一か所だけ電気がついているので、誰かは確実にいると思うんだけど。
「あの、君、少しいいかな?」
そこに、白衣を着た茶髪の女性が声をかけてきた。
「あ、ど、どうしました?」
「この生物を探しているんだけど、見ていないかな?」
紙を見せながら聞かれるけど、見たことがないため首を横に振った。
「そう、ありがとう。……そういえば今日、入学式だったね。君は朝木ヶ丘学園に入学するのかな?」
「あ、はい。そうです」
「すごいね。……でも、ちょっと嫌な予感がするから気を付けて。何かあったらここに連絡して」
その女性は名刺を渡してどこかに行ってしまう。名刺の名前を見ると「森岡 涼恵」と書かれていた。
「……森岡?」
どこかで聞いたことあるような……?と思いながら、ボクは財布の中に入れる。
そしてまだ集合時間じゃないし、学園内に誰かがいるなら、せっかくだから学園内を回ろうと思い立ったボクはそのまま学園の中へと足を踏み入れた。
その瞬間、目の前が暗くなり、そして――。
ボクの意識が飛んだ。
……ねぇ、大丈夫?
そんな声が聞こえてきた。声の高さからして、女の子のようだ。でも、ボクが声を出そうとしても出せなかった。
私の声が聞こえる?ごめんなさい、私を庇ったばかりに、怪我をさせてしまって……。
声の主はボクを心配してくれているようだ。怪我?どこも痛くないのに。それに、ボクはこの人を知らないハズだ。
でも、何でだろう?
彼女の声を、どこかで聞いたことがある気がする。
それから、どれぐらい時間が経ったのだろう。
薄い意識の中、誰かの美しい歌声が響いていた。目を開くと、そこは知らないところだった。机や椅子がたくさんあって、まるで教室のような……。
「あ、起きましたね」
歌が中断されたかと思うと、近くから澄んだ女の子の声が聞こえてきた。そっちを見ると、そこにはこの国の人とは思えない程の白い肌に腰まである白い髪、それから穏やかな紫色の瞳を持った、美しく清楚な女の子が机に座っていた。白いシャツに緑色のスカート、そして青色のフード付きのコートを着た彼女は高校生とはとても思えない程の美人だった。絵に描いたような美しさと言うけど、その言葉は彼女のためにあるようなものだろう。
――でも、この子どこかで見たことがあるような……?
なぜかそんな感覚に陥る。それに、気のせいかこの声もどこかで聞いたことがある気がする。どこでだっけ……?
「あの……どうしました?」
「あ、ご、ゴメン……!」
どうやら魅入ってしまっていたようだ、彼女は顔を少し赤くする。同じようにボクも頬が熱くなった。きっと、今のボクの顔は茹蛸のようになっていることだろう。
「え、えっと……き、キミは?」
その恥ずかしさを誤魔化すように質問すると、彼女は小さく微笑んだ。
「私、ですか?私は木護 あかね、才能は「信仰者」です」
「信仰者?」
「はい。私、キリスト教徒なんです」
そんな天才級の人もいるのか……。初めて知った。それに木護って……どこかでその苗字を聞いたことがある。どこで聞いたのか、思い出せないけど。
「あなたは?」
「ボクは小松 はじめだよ。えっと……」
ボクは彼女と違って天才級の才能を何一つ持っていない。正確には知らされずにこの学園に来た。そのことを正直に言うと、あかねさんは笑って「大丈夫ですよ、この学園に入学できたのなら何か特別な才能があるハズです」と言ってくれた。
「ありがとう、そう言ってくれて」
ボクは素直にお礼を言う。なんて優しいのだろう、初対面なのに慰めてくれるなんて。初対面、という言葉に少し違和感があったけど、それはきっと気のせいだろう。
「それより、早く体育館に向かった方がいいと思います。多分、他の人達はもういると思いますから。それに、時間が……」
彼女の目線の先には時計があった。時計の針がさしているのは……。
「もう八時過ぎ!?ぼ、ボクが来た時はまだ七時前だったのに!」
「小松さんが何時に来たかは分かりませんが、遅刻は確定ですね。ほら、早く行きましょう」
言うが早いか、あかねさんはドアの方に向かう。ボクは慌てて彼女について行った。
体育館に向かっている途中、ボク達は自分の身に起こったことを話した。すると、あかねさんは数秒考えこんだ後、
「では、小松さんも……?」
と言ってきた。少しの間が気になるところだけど、今は少しでも情報が欲しい。
「も、ってことは、あかねさんも気を失ったの?」
「え、えぇ……なんなんでしょうね……?」
それはどこか戸惑っているようだった。冷静そうな彼女でも、さすがに状況が把握しきれていないのだろう。
「それから、ずっと気になっていたんだけど……外が見えないようになってるね」
ボクが窓を指すと、あかねさんは同意するように頷いた。
「そうですね……網戸という訳でもないみたいですし……何でしょう?」
試しに窓を開けようとするけど、開かなかった。まるで密室に閉じ込められたみたいで、どこにも抜け道のない脱出ゲームのようだった。
――さすがに、玄関は開くよね……?これは誰かのイタズラだよね?
確かめに行きたいけど、今は他の人達を待たせているらしいから後回しにしよう。
「そういえば、体育館の場所は分かってるの?」
「はい。あの角を曲がったらすぐですよ」
どうやら彼女はボクが気を失っている間に少し高等部の方の校内を回っていたらしい。その時に丁度体育館を見つけたそうだ。
そうして体育館に着くと、
「ほら、ここです」
「……うわぁ、広いね……」
「あ、あはは……そうですね」
ボクが驚いた声を出すと、あかねさんは乾いた笑いを浮かべた。
「私も、高等部の体育館は初めて来たので」
高等部の体育館は初めてって……。
「じゃあ、あかねさんは中等部からこの学園にいたの?」
「はい、ちょっと特殊な事情があって……」
ということは、彼女は厳密には新入生ではないわけだ。確かに、彼女みたいな人なら中等部からいてもおかしくない。天才級と呼ばれるような信仰者ということは何年も教会に行っているハズだし、洗礼というものを受けていてもおかしくない。
――特殊な事情というのが気になるけど。
それは聞いてはいけないだろう。隠したいからそう言ったのだろうし。
「それじゃあ、開けますね」
そう言って、あかねさんは体育館の扉を開ける。
「おい、遅いぞ」
体育館にはボクとあかねさんの他に十一人の人がいた。ボクらにそう言ったのはいかにも体育会系といった雰囲気の男の子だった。他にも理学系の男子やアイドルのような女子など、平凡なボクとは本来関わらないような人達もそこに立っていた。
「まぁまぁ、仕方ないわよ。こんな状況なら……」
「そうだけどよー」
桜色の髪の女の子が赤い髪の男の子に言うと、彼は頭をカリカリと掻いた。なんか、申し訳ない……。
「皆集まったみたいだね~」
すると自己紹介をする間もなく、どこからか黒ウサギのぬいぐるみが現れた。それにボクを含めその場にいた人全員が驚いた。
「あ、あんた誰よ!」
「あ、ぼく?ぼくはミミック、こう見えても雄だよ~」
「そんなことは聞いてない!」
ボクがそう言うと、何でもないようにサラっと物凄く重要な言葉をミミックの口から聞かされる。
「君達をこの学園に閉じ込めたんだ」
「な、なんだと!?」
皆が睨んでいるというのに、ミミックと名乗ったぬいぐるみはニヤニヤと気味悪い笑みを浮かべていた。
と、閉じ込められた?
頭が混乱する。学園長はどうしたとか、どうやって閉じ込めたとか、いろいろ疑問に思うことはあるけど、それどころではない。なぜそんなことになったのか、まるで訳が分からない。確か、ボク達はさっき来たばっかりだよね?
「……それで、あんたは何しに来たんですか?」
そんな中、あかねさんは冷静にミミックにそう聞いた。口調がやけに冷たかったけど、まぁ当然だよね。こんな状況じゃあ。
「ぼくのことはどうでもいいよ。それより自己紹介した方がいいんじゃない?」
こんなぬいぐるみに言われるのはなんか腹立つけど、確かにその通りだ。ボクは教室のような場所で会ったあかねさんしか知らない。他の人達もそう思ったらしく、誰かが口を開くのを待っているようだった。
「……私は木護 あかね。才能は「信仰者」です」
最初に口を開いたのはあかねさんだった。こんな緊迫した中、最初に自己紹介出来るなんてすごいと思う。あかねさんのそんな行動もあってか皆が自己紹介を始めた。
「私はソフィ。「天才級のアイドル」です」
そう名乗ったのは黒髪を高い二つ結びにした女の子。あかねさんとは違った美人さんだ。
「俺は村崎 りんたろう。「天才級の野球部」と呼ばれてるらしいな」
彼はさっきボクとあかねさんに「遅いぞ」と言った赤い髪の青年だ。
「私は霧咲 さくら。「天才級の占い師」よ」
さくら、と名乗った通り、桜色の髪の少女だ。
「僕は赤石 かおる。「天才級の理学部」だ」
そう名乗ったのは、冷静で知的なオーラが出ている金髪の青年。
「わ、私は白夜 きく。「天才級の園芸部」です……」
彼女は横に一つ結びの白い髪の、気弱そうな女の子だ。
「オレは菊地 ひびや。「天才級の料理人」と呼ばれてる」
冷静そうな雰囲気の茶色の髪の男の子で、エプロンを片手に持っている。
「あたしは岡本 かれん。「天才級のバレー部」だ」
茶色の短髪で気が強そうな女の子だ。
「僕は森田 らい。「天才級のプログラマー」だよ」
そういう彼は茶色より少し明るい髪色で、ブルーカットを入れるためかメガネをかけていた。
「私は川崎 らら。「天才級の音楽家」ね」
音符の形のネックレスをつけているのは真面目そうな青色の髪の女の子だ。
「俺は山野 だいち。「天才級の俳優」だね」
髪を整えている、穏やかそうな雰囲気の黒髪の青年だ。
「あたしは影内 こはる。「天才級の読書家」よ」
そう名乗ったのは、派手な服装ながらどこか儚げな、少しピンクがかった紫色の髪の女の子。
こうして聞いていると、皆、やっぱり天才級の才能を持っているようだ。ボクは少し場違いな気持ちになる。
少し落ち込んでいるボクの背中に、隣に立っていたあかねさんは軽く触れる。大丈夫だと言ってくれているようだ。それに勇気をもらってボクも口を開いた。
「ボクは小松 はじめ。えっと……どんな才能なのか分からないんだ……」
「でも、この学園に入学出来たのですから何かの才能があることは確かです」
ボクの自信のない自己紹介にあかねさんはすかさずフォローを入れてくれた。どこまで優しいんだ、あかねさんは……。
「まぁ、そうですよね」と言ったのはソフィさん。皆はあかねさんの言葉に納得しているようだ。
「あはは!才能がないなんておかしいよね」
「あんたは黙っていなさい」
そんな中、ミミックが皆を戸惑わせるような言葉を発したが、それもあかねさんがすぐに一蹴した。意外と気が強いようだ。
「そこまで彼を庇うなんて何かあるの?君に利益なんてないよね?」
ミミックがそんなことを言うと、彼女はため息をついた。
「どうでもいいでしょう?いきなりこんなことに巻き込まれて私もイライラしているんです」
「ふぅ~ん。いきなり、ねぇ。信仰者なのに?」
何か言いたげだけど、ミミックもあかねさんの気迫に押されたようだ。二人(?)に一体何があったんだ?そもそも会ったことがあるのか?分からないことだらけだ。
「まあいいけど。それより君達に渡したいものがあるんだよね」
「……渡したいもの?なんだ、それは?」
りんたろう君が聞くと、ミミックはボク達それぞれに物品を渡していった。ボクの手にあるのはサバイバルナイフと救急セット、それから工具セットだ。サバイバルナイフなんてどこで使うんだ?ミミックの思考が分からない。
あかねさんの方を見ると、その手には裁縫セットとノート何冊か、監視カメラ、そしてデジタルカメラがあった。
見てみると、男子にはまだ使用されていないサバイバルナイフと工具セットが、女子には裁縫セットと監視カメラが必ず配られていた。それから、生徒手帳も。
「えー、それでは、今から皆さんには絶望の殺し合いをしてもらいます」
ミミックから突然告げられた言葉に、その場にいた全員が一斉に動きを止めた。
――なんて、言った?
今、殺し合いをしてもらうって……言ったよな……?
それにはさすがのあかねさんも驚きを隠せないようだった。
「あ、ただ殺し合うんじゃないよ。誰かが殺された時は六時間の情報収集の後、学級裁判を開廷して、殺したクロを見つけるんだよ。詳しいルールは生徒手帳を見てね」
そう告げるミミックは楽しそうだった。
「そんなことは聞いてない!何考えてるんだよ!?そんなこと出来るわけないでしょう!」
こはるさんがミミックに反論した。衝動的か、彼女はミミックの胸倉を掴む。
しかしその瞬間。
こはるさんのお腹を複数の剣が突き抜けた。
「はっ……?」
目の前で起こっていることに頭が追いつかない。ただ、こはるさんの血があたりに飛び散ったことだけは分かった。
「な、なんなの……?これ……?」
ミミックを掴んでいた手は離れ、その場に力なく倒れこむ。それっきり、彼女が動くことはなかった。あかねさんがすぐにこはるさんの手首を握り、脈を測ったが首を横に振る。
「……絶命、ですね……」
でも、その言葉すらボクの耳に届かなかった。ただ、目の前の光景に呆然とするしか出来なかった。
「ぼくに逆らうなんて、バカだな~。そんな奴は見せしめにした方がいいよね」
ミミックの言葉に、ボクは唇を噛んだ。
見せしめ、だって?
なんで彼女が殺されなくじゃいけないんだ!
まだ会って数分しか経っていないけど、それでもこはるさんが殺されていいなんて思っていない。彼女だけじゃない、他の皆も。
自分の無力さが悔しくて、ボクは拳を握りしめた。しかし、その手に温かい誰かの手が重ねられた。
「……駄目ですよ、小松さん。今は冷静にならないと」
「でも……!」
「本気で倒したいなら、今は我慢するべきです。きっと、倒せるチャンスはやってきますから」
あかねさんは苦い顔を浮かべながらそう言った。そこで初めて、彼女も悔しいのだと思い知った。そのおかげでボクも少し頭を冷やすことが出来た。
確かにあかねさんのその通りだ、今、ミミックに歯向かっても返り討ちにあうだけだ。そんな無駄なことをするより、出方を窺った方がいいだろう。
「賢明な判断だね。さすがあかねさんといったところだよ」
「……うるさいな」
それにしてもさっきからミミックに対して冷たすぎる気がしなくもない。目の前で人が殺されたから、とかそんな理由だけではなさそうだ。
「怖いなー。じゃあ、ぼくは退散するよ。あかねさんに殺されそうだしね」
「……私に殺されるつもりなんてさらさらないくせに」
忌々しそうにあかねさんが言うけど、それがミミックに聞こえたのかは分からない。ただ、一つ分かったのは、ミミックとあかねさんには深い因縁があることだけ。
黒幕の正体も、なぜ殺し合いなんてしないといけないのかも、何もかも分からなかった。
それからしばらく探索をして、それぞれの個室があること、二階より上に行けないこと、それからあかねさんの証言でここが本当に朝木ヶ丘学園であることが分かった。なぜここが朝木ヶ丘学園だと断定できるのかというと……。
「これを見てください」
そう言って渡されたのは一枚の紙。そこには学園案内と書かれていた。そこに書かれている地図によると、どうやらボクが目覚めた場所は本当に教室だったようだ。
「これは玄関にあったんです。それから、玄関のドアが来た時と変わっていて、とても開けられそうになかったです……」
「あぁ、僕も見たんだけど……あれはどうやっても開かないね」
と、まぁ、そんなことを告げられた。かおる君とあかねさんを信じていないわけではないけど、やっぱりにわかに信じられなくて、ボク達は皆で玄関に向かった。そして、そのわけを知った。なんと、鉄の扉で塞がれていたのだ。確かに、これだと出るどころか誰かが入ることさえ出来ない。ボクが来た時は至って普通の扉だったのに。
「ここまでするなんて……凝ってるわね」
ららさんの言葉に同意する。でも、学園内に閉じ込められたなんて世間に知られてしまったら、いくら衰退したとはいえ警察が動き出していてもおかしくはないハズだけど……。
――本当に来るのか?
誰かの声が頭に響く。まるで、何か知っているように……。誰の声だろう?そんなことを考えても意味がないのに。
そんな思考を振り払い、ボク達はそれぞれの個室に行った。
個室は本当の部屋のようになっていた。ベッドがあって、机があって、棚があって……さらにシャワー室まで設置されていた。気になるのは、女子に配られた監視カメラとは別に監視カメラと連絡用のスピーカーが部屋につけられていることだ。
「そうだ、生徒手帳を見ておこう」
ミミックに言われたことを思い出し、ボクは椅子に座って、自分に配られた生徒手帳を開く。そこには、
一.ミミックに手出しをしてはいけません。
二.食堂では自由に料理が出来ます。お腹がすいた方はご自由に。
三.監視カメラや連絡用スピーカーは壊さないようにしてください。
四.もし殺人が起きた場合、六時間の情報収集の上、学級裁判を開廷いたします。クロの方は自分がクロだと知られないように証拠隠滅を、シロの方はクロを見つけ出すために情報を集めてください。なお、皆を殺すことは許しません。
五.学級裁判でクロが選ばれた場合、クロだけが処刑されます。もしシロが選ばれてしまった場合、クロ以外の全員が処刑され、クロはこの学園から出ることが出来ます。
六.学級裁判には必ず出てください。ただし、例外を除きます。
七.ルールはしっかり守ってください。なお、基本的にミミックから手出しをすることはありませんが、ルール違反をした時は別です。
八.このほかに、ルールが追加される場合があります。
手書きでそんなことが書かれていた。ボクは少しイラ立ちながら閉じる。
「なんだよ、これ……」
ほぼ一方的なルールではないか。
本当に、ミミックはボク達に何をさせたいんだ。
そもそも、本当にここは「希望の学園」と呼ばれた場所なのか?
いろんな思いが胸に宿ったまま、ボクはベッドに飛び込む。でも、思考はまとまらないままだ。
「あかねさんなら、分かるかな……?」
なんでこうなっているのか、ミミックの目的は何なのか。彼女ならもしかしたら知っているのではないか。でも、自分から何も話さないということは他人にはあまり話したくないかもしれない。それなら「初対面」なのに無理やり聞く訳にもいかない。
(まぁ、いずれ聞ければいいか……)
そうして考え事をしていると眠気がやってきて、ボクはそのまま瞳を閉ざした。
そして、絶望にまみれた共同生活が始まった。
なんで?
夢の中で、誰かがそう聞いてきた。聞き覚えがあるから、多分、あの時と同じ女の子だ。
なんで、彼らを殺そうとしているんですか?私だけを殺せばすむ話でしょう?
でも、今回はボクに話しかけているわけではなさそうだ。すると、もう一人、女の子の声が聞こえてきた。
なんでって、あんたが一番分かっているでしょ?「天才級の……」を殺すのに邪魔な存在だからよ。それに、あんただけを殺しても意味がない。だって、「天才級の……」は他にも二人いるんだから。
話を聞いている限りだと、この二人は敵対しているようだ。あの時と同じで、ボクは声が出せない。一体彼女達は何を話しているんだろう?ボクには状況が全く分からない。
でも、白と、黒……その二つが今衝突していることだけは、何となく分かった。