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百一回目の解体新書  作者: 駄犬
運び屋「センリ」の裏事情
9/15

にわかに

 その漁港で水揚げされた新鮮な海産物は一通り町のスーパーや魚屋に並ぶのだが、中でもシラスは地物の代名詞となっており、港近郊の飲食店はシラスを売り文句に客を集めている。とはいえ、港に直接足を運ぶとなれば、年に数回ある地引き網の体験会を除いて、赴くことはそうそう無い。


「いいですか?」


 送り届けることは命題であり、運ぶ物に関して是非は問わない。中身がなんであろうと、依頼は全うする。


「えぇ、うちは運び屋ですから。運びますよ」


「実はね、もう下にタクシーを寄越しているんですよ」


 三日間の猶予もあって、工程を踏ませる順序立てに思慮の程が伝わってくる。


「今すぐにでも向かった方が都合がいいんですかね?」


「できれば」


 男の目付きが鋭くなった。まるで、俺がこの仕事を撥ね付ける想定が為されていないかのような、有無を言わず従えと言わんばかりの姿勢が伺える。


「構いませんよ。一向に」


「では、行きましょう!」


 機を逸することを何より恐れる男の並々ならぬ押し掛けに俺は宥めた。


「表で待っててもらえますか? 私たちにも準備がありますので」


 俺が言う「表」とは、事務所の扉を隔てた話ではなく、雑居ビルの手前を指す言葉であり、街路樹を眺めながら立っていろと言ったのだが、男は扉を指差して「そこで待っています」と、強情な姿勢を崩さない。そして、男が事務所を出ると、彼女はすかさず釘を刺してくる。


「大丈夫なんですかね?」


「それを今から確かめるんだよ」


 手早く準備を済まし、事務所の前で男と合流する。ここへ初めてきたはずの男の先導に従い、階段を下りていく。


「このタクシーです」


 路肩に停車しているタクシーまでの短い道中も、男の手厚いエスコートを受けると、彼女は猜疑心に顔を曇らせた。後部座席の扉を開けたタクシーのはからいに頭を下げれば、男によって荷物のように車内へ押し込まれた。


「黒川港まで向かってください」


 男がそう運転手に声を掛けると、趣旨となるジュラルミンケースを漸く俺の膝の上に置いてくる。そして、車が走り出してから数十分が経った頃、通勤に努める町の雑多な熱は冷めて、出払ったアパートやマンション、一軒家で深閑とし始める。感慨には及ばぬ間の抜けた雰囲気だ。程なくして、塀に囲まれた見通しの悪い十字路に突き当たる。


 やおら十字路に進入した瞬間、交通事故の何たるかを体験した。その衝撃は、踏み切りを超えた先で出会い頭に電車と衝突を起こしたようなもので、重低音を伴って窓ガラスが散開する様子に唖然とする他なかった。身体はシートベルトの恩恵を授かったものの、首へ掛かった不可避の力に俺はだらりと頭を垂れる。うつらうつらと隣に座っていた彼女へ目配せすると、苦悶の表情を浮かべて微かに唸り声を溢しているのを聞く。


「派手にやったなぁ」


 外から、微笑まじりの口吻が耳に届いた。


「映画でこんな止め方してたぞ?」


 ひしゃげた後部座席のドアのノブが、猛々しく動き出す。


「開かねーぞ」


 火事場泥棒と呼んで差し支えない、あからさまなやりとりが、朦朧とする意識の中でもハッキリとわかった。


「あっ、こいつ。まだ元気そうだ」

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