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百一回目の解体新書  作者: 駄犬
運び屋「センリ」の裏事情
12/15

思惑

「そこで待っています」


 やはり男は、俺たちを誘導するために事務所の扉の前で待っていることを告げてきた。衝立の向こうで扉が開閉する音を聞くまで、ジッと息を殺す。石の裏側にいる虫さながらの、静けさだ。余計な動きをして男の猜疑心を煽れば、算段が立てづらくなる。


「……」


「随分、畏まりますね」


 男の機微に気を配り、ジュラルミンケースの中身への物見高い姿勢は、彼女にとって不可思議な光景にあたる。「今」を蔑ろにするつもりはないが、もっと情報を集めなければ、達成できる仕事ではない。


「お待たせしました」


 子どもを扱うようにジュラルミンケースを大事に抱える男の、二度目のエスコートに歯が浮いた。敷設したレールの上を外れることを極端に嫌い、自分の制御下に置いておきたいという意向は、わざわざ運び屋を頼る理由と合致しない。


「あの、ちょっといいですか?」


 階段の途中で俺は男を引き止める。


「はい?」


 偉くすっとんきょうな顔をした男は、俺が拳銃を向けたことによる、衝動的な疑問だろう。


「パァン!」


 壁に跳ね返る発砲音は彼女の虚を突き、へたり込むほどの驚きにまみれた。頭蓋に穴を開けられて尚、大事そうにジュラルミンケースを抱える男に感服する。しかし、殊更に非情にならざるを得ない。俺は男からジュラルミンケースを引っ剥がし、施錠を拳銃の弾でもって対応する。


「なるほど」


 異様に軽いジュラルミンケースの内訳に合点がいった。そして、どうしてあのようなタイミングで俺たちが襲われたのか。なんとなく察しがついた。


「なに、やってるんですか」


 腰の抜けた彼女が、化け物でも見るかのような眼差しで一連の行動に答えを求めた。肩まで浸かったストレスの潮目に俺は早急に決着を付けなければならなかった。


「?!」


 向けられた銃口に対して、揃いも揃って声にならない驚嘆を湛える。その瞬間を楽しもうという嗜虐的な性質を持ち合わせておらず、只々苦痛なイトマであった。


「次は完璧にこなしてみせるよ」


「?」


 彼女へ捧げる供物にしては、判然としない言葉になるだろう。だが、彼女に報いるためにも、決意を固める上でも欠かせない、意思表明になる。二度目の発砲音に足が眩み、頭の頂点から生気が抜けていくような虚脱感に襲われた。俺は、階段に横たわる彼女の横で、共に目を瞑る。

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