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百一回目の解体新書  作者: 駄犬
運び屋「センリ」の裏事情
10/15

巡る

 肌に粟立つ凹凸は、切迫した状況に際した人間の根源的な恐怖である。薄く目を開けたなら、枠組みだけになった運転席の窓に腕が入れられるのを見た。直後、口に異物を押し込まれているかのように頭を左右へ振る運転手の後ろ姿に俺は一人、死期を悟った。


「ケースは?」


 仕事を請け負っていなければ、脈略のない言葉である。


「後部座席の下に転がってる」


 確かに、ジュラルミンケースはあの衝撃によって手元を離れ、彼女の足の側まで吹っ飛んでいた。僅かに残った窓ガラスを蜘蛛の巣のように蹴り倒して、一人の男が身を乗り入れる。あろうことか、俺の膝を支えにしながら、手繰り寄せようとする始末に、鼻持ちならない感情を抱く。俺は本当に馬鹿だ。ジュラルミンケースに腕を伸ばす眼前の男など、見逃してしまえばいいのに、そぞろに制止を訴えていた。


「あ?」


 その一瞥は、蛇に睨まれるより悪質な武力の呼び水であった。当然のように携帯しているスタンガンが腰から抜かれて、衣服越しに強く押し当てられる。ピンボールのように目玉が跳梁し、頭は薄明に染まった。


「女々しい道具だが、効果的だな」


 ジュラルミンケースは呆気なく奪われ、帰り間際に肘打ちまでされた。車の走り去る音と入れ違うように身体は自由を取り戻す。廃車同然の車内に取り残され、運び屋の本分たる荷物を奪われた惨状は筆舌に尽くしがたい。俺は懐のある物に手を伸ばした。奴らがジュラルミンケースを奪うためにスタンガンを用いたように、俺は三日前に戻るために拳銃を用意している。


「出鼻をくじかれたなぁ」


 俺たちの出会いは男と女である以上に共有しうる運命的な素地があった。俺は一生かけて彼女と連れ添い、衰弱死という袋小路に差し当たる心構えがある。どんな困難だって二人なら克服できる。


「また、一からだ」


 彼女の頭部に拳銃を向けた。手垢も付いていない真っ新な引き金を何度、引いただろうか。枚挙に暇がない時間の淀みは、軽はずみに請け負ってきた運び屋の仕事ならではだ。意識が朦朧とする彼女を撃ち殺す手軽さに安堵した。あの、にわかには信じ難いといった表情は、何度繰り返しても見慣れない。


 乾いた発砲音に備えて、片耳を押さえる。滞りない人を殺す手順に、少しばかり嫌気が差したが、致し方ない事象だ。


「パァン!」


 爆竹にも似た甲高い音は、彼女の額に銃創を作り、俺は彼女を抱き寄せる。鼓動が止まるまでの間、時のまにまに漂う。次に目を開けた瞬間、カーテンの隙間から差し込む日差しを顔に受けた。


「おはよう」

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