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人生は予想外だから面白い

*マクシミリアン視点です(#^^#)


色男で有名な近衛騎士団団長のハリー・ウィンチェスターは僕の親友である。


僕は子供の頃から神経質で人見知りの激しい子供だった。


今考えると子供が抱えるには多すぎる魔力量をどうしたら良いのか分からず、常に苦しんでいたような気がする。


両親はどちらかというと僕に社交的になって欲しかったのだろう。同年代の貴族の子女や、王子王女なんかと会う機会を多く作ってくれた。


典雅な貴族のお茶会や、狩りの手ほどきを受けるために他の子供たちと一緒に森に行ったこともある。


でも、僕は誰一人仲良くなれなかった。


仲良くしようと近づいてきた子供もいたが、必ずと言っていいほど不純な動機や下心があった。


公爵家の地位とか、魔力の大きさとか、なにかしらよこしまな欲を惹きつけるものがあったのかももしれない。


魔力量が豊富だった僕は、幼い頃から既に大人顔負けの魔法を使いこなしていた。


そんな僕に勝手にライバル意識を燃やして勝負を挑んでくる子供たちも多かったが、僕は全く興味を持てなかった。


人と比べて自分がどうとか、考えたことはない。


他人には全くと言っていいほど関心がなかった。


もちろん、家族は大切な存在である。


両親や弟は社会性が足りない僕のことを理解し、愛してくれた。


使用人は、僕が変な実験や魔法の練習を始めると避難を始めることもあったが、基本的には温かく見守って応援してくれていたように思う。


うちの母は体が弱く、僕を育てることが出来なかった。


僕と弟は乳母に育てられた。


とても温かい人柄だった乳母は母への気遣いを忘れず、かつ僕たちに十分な愛情を注いでくれた。


乳母の実の息子であるトムは僕と年齢がほとんど変わらない。


トムは幼馴染のような年の近い兄のような、そんな近しい間柄で絶対に僕のことを裏切らないと信用できる存在だ。


僕に必要なのはそれで十分。


外に友達なんて作る必要はないと思っていた。


父は「将来爵位を継ぐのなら友人はいた方がいいぞ」と言っていたけれど、僕からしたら胡散臭い友人を持つくらいなら、独りの方がましだと思っていた。


***


そんな頃、当時の近衛騎士団の団長が引退して、剣技の個人指導を始めるという噂を聞いた。


見込みのある弟子しかとるつもりはない、という引退したばかりの元団長は「弟子になりたくば、かかってこいやぁ!」と宣言し、弟子希望者が殺到した。


僕は引退前から団長の剣技が美しいと思っていたので、当然選抜試験に申し込んだ。


剣の実力を試すというよりは体力テストか!?というくらい走らされて、クタクタになった子供たちが地面に這いつくばる中で、立ったまま元団長を見上げていたのは僕とハリー・ウィンチェスターだけだった。


その日以来、元団長の鬼のような訓練に二人で耐えてきた。


ハリーは身体面でも精神面でも強靭だ。


さらに柔軟性もある。僕のちょっと世間からズレたモノの考え方も面白いと受け入れてくれた。


顔がイイせいか多少自信過剰のきらいはあったが、僕に対して誠実な友人でいてくれると信用できた。


そんな僕とハリーが成長するにつれて、貴族令嬢との付き合いは不可避になってきた。


しかし、十代の頃には多少の好奇心があったものの、女性のズルい面や計算高い面などを見せられ続けて、僕は女性に幻滅するようになる。


貴族令嬢はこう・・もっと、たおやかというかお淑やかな存在ではないのか?


猪突猛進という言葉がピッタリの突撃をくらうことが多く、僕は女性に辟易していた。


ハリーは華々しく女性たちと付き合っていたようだが、僕は正直『なにが楽しいんだ?』と思っていた。


母と田舎で老後を楽しみたいという望みを叶えて父親が早々に引退し、僕が爵位を継いだ時にも周囲は勝手に「結婚!」「結婚!」と騒ぎ立てた。


しかし、僕はこのまま一生結婚はしないと本気で思っていた。


弟は幸せな結婚をして子供も複数人いるので、爵位はいずれ弟の子供が継げばいいと思っていたのだ。


それなのに・・・


僕はシルヴィと出会ってしまった。


彼女もちょっと世間からズレたところがある。


僕とは若干意味が違うが、真面目で一生懸命なのに何故かちょっとだけピントが外れてしまうのだ。


『え!?私なにか変なことしちゃいました?』


というキョトンとした顔つきがとても可愛らしい。


そして、もしかしてまた失敗しちゃったのかも・・・と不安そうな表情を浮かべるところも堪らなく庇護欲をそそられる。


侯爵家に生まれて、何不自由なく育ってきたはずの令嬢が何故こんなに自己肯定感が低くて、人に遠慮ばかりしているのだろう?


やはりクズ王太子の婚約者として苦労してきたことが彼女の性格形成に影響してきたのかもしれない。


心理学者でもない僕にはよく分からないが、貴族というだけでエライと思っているような傲慢な令嬢を数多く見てきた目に、シルヴィはとても新鮮で清らかな存在に映った。


そんな僕の初恋をハリーは応援してくれていたはずだった。


それなのに、いざ初恋が実り婚約が調ったところで、ハリーは突然シルヴィが信用できない、というようなことを言い出した。


曰く


「彼女は本当にお前のことを好きなのか?」


「利用されているだけじゃないのか?」


「後でお前が傷つくのを見たくないんだ」


シルヴィは絶対に大丈夫だと力説する度に、益々不安の色が濃くなっていくので、僕もどうしたら良いか分からなくなった。


いくら言っても僕が主張を変えないと分かったハリーは、今度は僕がいないところで直接シルヴィに会って彼女の気持ちを確かめたいなどという不可解なことを言い始めた。


まず、僕以外の男と二人きりで会うことなんて許せっこない。


それにシルヴィの魅力に気がついて、万が一ハリーまで彼女に恋してしまったらどうするんだ!?


僕はハッキリと拒絶した。


それなのに・・・


ハリーはシルヴィの兄という伝手を辿って、直接シルヴィに面会を申し込んだらしい。


しかも、シルヴィが僕に相応しい令嬢かどうか見極めたいという失礼な文言までつけたという。


当然、シルヴィの兄は激怒して断ろうとした。しかし、シルヴィアは受諾したらしい。


「大切な親友が付き合う女性がどんな人間か気になるのは当然でしょう?私はマクシミリアン様にハリー様のようなお友達が居てくれて良かったと思うわ」


何故こんなことを知っているかというと、シルヴィが事前にすべて僕に話してくれたからに他ならない。


「シルヴィ、あいつには僕から話すから君は何も心配しなくていい。嫌な思いをさせてすまない!」


僕はハリーに対する怒りではらわたが煮えくり返っていた。


だが、シルヴィはハリーと直接話をさせて欲しいと言い張った。


「ハリー様は意図的に女性を傷つける方ではありません。それに二人きりで話すと言っても、近くに兄のサミュエルに居てもらうからそんなに酷いことは言われないでしょう」


ニッコリと微笑むシルヴィは、続けてこう付け足した。


「それにセーラ様の恋文の返事についてもお話がしたかったの。ちょうどいい機会だわ。飛んで火にいる夏の虫・・・ってね」


何の話だか良く見えないが、ちょっと黒いシルヴィの笑顔も最高だと、僕の胸はキュンキュンと弾んだ。


彼女の新しい面が見える度に僕の愛情は高まっていく。


気持ち悪いくらいに重い愛情も嬉しいと受け止めてくれるのはシルヴィくらいだろう。


僕たちは『割れ鍋に綴じ蓋』といういにしえの金言がピッタリだ。


ハリーに僕への愛情が真剣だと分かってもらいたいという気持ちが嬉しい。


それでも、愛する婚約者を他の男と二人きりにするはずがない。


僕はコッソリと小さなネズミに化けて、シルヴィアにも内緒で彼らが面会するラウンジに潜んでいた。


昔の恋人が、かつて僕に隠れてハリーを誘惑していたことがあった。


その時も怪しんだ僕がネズミに化けて隠れていたなぁ、と思い出す。


シルヴィがそんなことをしないのは分かっている。ただ、ハリーが失礼なことを言ってシルヴィを傷つけないか心配なんだ。


彼女とハリーの会話を盗み聞きする罪悪感はあったけど、二人の会話を聞いて胸が温かくなる。シルヴィは表も裏も俺が知る彼女と何ら変わることがない。


彼女の存在がますます尊いものになった。



***



その後、驚くべきことにハリーはセーラ嬢からの恋文を読み、全力でセーラ嬢を口説き始めた。


ハリーが真剣に女性と付き合うことなど想像できなかったが、今回は本気らしい。


「やっとお前の気持ちが分かったよ。シルヴィア嬢の気持ちを疑って悪かった。俺も・・・セーラの気持ちを疑われたら腹が立って仕方がないだろう」


なんて顔を赤らめて言う。


お前、そんなキャラじゃなかっただろう!?


まぁ、とにかくハリーとセーラ嬢はとんとん拍子に上手くいって、婚約までこぎつけたらしい。


シルヴィはセーラ嬢と仲良くなり、休暇に辺境伯領に滞在するよう招待されたそうだ。


当然「僕も同行する!」と主張したら、ハリーも休暇を取って一緒に行くと言い出した。


「賑やかな方が楽しいです!」


嬉しそうなシルヴィの笑顔を見たら、僕は他のことなんてどうでも良くなった。


***


あ、忘れちゃいけない。


セーラ嬢を襲った追いはぎは無事に捕まった。


驚くことに頭領は女性で、しかも特殊魔法が使えるらしい。


非常に短時間だが、時間を止める魔法が使えると聞いて僕は驚いた。


様々な種類の魔法が開発されてきたが、時間系の魔法は非常に珍しい。


時間を止めている間に騎士と御者を襲い、馬車に侵入したという。


ただ、彼らは義賊というか、絶対に人を傷つけたことはないと訴えている。


奪った獲物を換金して貧しい人たちに配っていたという話を聞いて、国王は二度としないと誓えば恩赦も考慮するそうだ。


まぁ、僕には関係のない話だ。


シルヴィと馬車デートする時に邪魔するような輩がうろついていなければそれでいい。


僕はただシルヴィと過ごす時間を大切にしたいから。


そして、次に彼女に会える日を指折り数えて待つ。


シルヴィの笑顔を思い出すと陽だまりで昼寝をする猫のような気持ちになる。


(幸せだにゃ・・・)


僕だってこんなキャラじゃなかった。


女嫌いで人から恐れられる大魔術師だったんだ。


人生は予想外だから面白い。


心からそう思った。

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[一言] 読みやすくて面白かったです! いつもありがとうございます!
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