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出没! 転生トラック野郎

作者: 喫煙者

後味は悪いです。

 ホットなニュースがラジオを通して流れてくる。

トラックを運転しながら煙草を燻らせ、渋滞にも雨にも滅気ずに今日も今日とてトラックを運転する。

目的は届け物を必要な場所に届けるためだ。


 物流は今でも陸海空あるが、中でも毛細血管の役目を持つ車がやはりいちばん重要である。

整えられた道を車で飛ばす。制限速度のギリギリを攻めつつヒタスラに飛ばす。


 おっさんはこの流れる景色と流れるラジオを生業とする。可愛い娘が待つ家に居ても良いのだが、最近は煙たがられるので帰りは遅くしている。

先立った妻には感謝しかないが、性別の異なる子供の面倒を見るのが大変だった頃に色々やらかした結果、変な距離感で進んでしまった。


 まぁ、それも今日が終われば娘も結婚し、家庭をもつことになる。

少々寂しい気持ちもあるが、どちらかと言うとホッとしている自分が居た。

父親は娘の結婚を望まないというラジオ情報もあったが、自分の場合はそんなことは無かった。


 煙たがられ嫌悪されていても、可愛い娘の成長は喜びでしかなかった。妻が先立って逝ってしまったが、それでも踏ん張って家庭を守り続けた。

金を稼ぐ。娘を育てる。それだけだ、俺が主役の人生は終わっている。この子が主役でいい。


 そんな主役の娘が連れてきた男と娘の結婚を報告を受けたとき、ああ俺はまだこの子の親をしてやれてたんだなと感無量であった。

嫌われていると思っていた。避けられていると思っていた。

 だが、この歳まで育ててくれてありがとうと言われたときは胸がいっぱいになり頭が真っ白になり泣いた。


 そんな娘の晴れ舞台が明日には待っている。今日は本当は会社を休むつもりだったが、そんな情けない姿を見せたくはない。

お前の親父は頑張っていると胸を張って送り出してやりたい。


「……ちっ。目頭が涙でくもってらぁ」


 目を腕で拭った瞬間、トラックを運転しているという状態の中一瞬の油断。


目の前にいきなり十字路が現れる。信号は赤! 俺は急ブレーキを踏んだ。渋滞を抜けたところではあったが、特に次に信号が差し迫る場所を走ってはいなかったはずだ。

それなのに突然十字路が現れた。そして、横断歩道には娘より若い子どもたち、いや高校生たちが目の前に現れた。


俺は横断歩道を歩いている高校生三人を轢き殺した。



 酒を飲んでいたわけではない。妻に先立たれた後、酒に逃げて失敗して、それから親友に進められて病院でアルコール依存症と判断されその後一切酒は飲まなくなった。

その時から娘から嫌われていたことを知っている。だが、今は一切酒は飲んでいない。

 薬で脳を抑制して酒への依存を薄くし、かつ酒を飲むと二日酔いより酷い症状が出る薬を毎日のんでいるからだ。


 なのに俺は記憶が飛んでいる。気がついたら十字路で高校生を轢き殺している。


 ドライブレコーダーを調べてもらった。疑わしき点は特に無い。

なにが起きた? トラックの運転中に涙をこぼすようなことを考えて居たのがまずかったのか? いや、普通にそういった場所で目を拭うようなことをするわけがない。

 本当に突然、十字路に飛ばされて予定調和のように三人の子供を跳ね飛ばしてしまった。


 ハンドルから轢き殺した感触が蘇る。


「はぁ……はぁ……」


 取り返しのつかないことをしてしまった。未来ある若者を三人も……。

どうすればいい。俺は業務上過失致死になるのか? 殺人罪が適用されてしまうのだろうか? いや、違う、娘の結婚はどうなってしまうんだ?


 事故の後、警察に事情徴収やら何やらあったが、茫然自失としていて何を話したのかすら思い出せない。

何が起きだのだろう。


 留置所に居る俺は家族との連絡すら取れないと諦めるわけには行かない。明日は娘の晴れ舞台である。

だが、俺はどうすればいい? 犯罪者の娘になってしまう。結婚はどうなる。俺は今を説明して娘への連絡を懇願した。


「明日。娘の結婚式があるんです。でも、この状況を説明するのが……」


 警察の一人が俺の言葉を聞いて沈痛な面持ちを引っさげて言った。


「……申し訳ありませんが、あなたが人を殺したのは事実です。過失や故意などではなく、あなたが死なせてしまった遺族の方たちがあなたの幸せを望むことはないです」


「……そうですね。自分も娘が死んだら、そんなのはどうでもいい。相手を恨みますよ。本当に……もうしわけない」


「……」



その頃、死んだ三人は異世界でヒャッハーと言いながら幸せな日々を送っていました。


「異世界、さいこう! ちょ~たのしいい!!」

「口うるさい親が居ないって気楽だわ!」

「ああ、もう毎日が充実してるわ!」


「「「あははははは!!!!」」」







「ちょっと待て。なんじゃこりゃ?」


 三人を転生させた神に問いかける。お前、なにしくさってんねんという目で。


「あ、あはは、なんというか手違いと言うかなんというか……」


「手違いというか。私の夫に対して異世界転生で私と出会うように調整してたのよね? なんでこうなる?」


「……えっと、その手違いでトラックも持ち物に含めてしまって、容量が足りなくて結果的にトラックに引かれた子たちが転生してしまったみたいで……」


 女神は激怒した! 愛する夫を転生させるどころか不幸にした子のバカな転生神にたいしてだ!


「て、テメェのせいで夫が不幸になって、娘は結婚を解消されて、更には娘は号泣して、夫を攻め立てて! それに死なせてしまった家族から糾弾されて! 自殺にまで追いやられた!」


「あ、はい。すみません。てへ」


「自殺してしまった魂は私の管理から外れちまう! 夫とは永遠に会えない! 娘も自殺した夫に対して自責の念でいつ自殺してしまうかわからない!」


「あはは。いやぁ手違いですみません~」


 へらへらと笑う転生神。


「そ、そんなに怒らないでくださいよぉ。たかが人間の命じゃないですか。間違えちゃっても替えなんていくらでもあるじゃないですかぁ」


 もはや何を聞いても言われてもキレる寸前だった訳だったが彼女はついに実力行使にでた。


「……シネ」


 こうして転生神は死んだ。彼女は笑顔で死んだ。








「やぁ、久しぶりだね」


「あはは、ほんと、厄介なことになってましたよねぇ」


 トラック野郎がいる世界が死後の世界である。


そこに立ち入れるのは転生神だけである。


「君のラジオに励まされていたよ。記憶を奪われて自分だけを見てほしいという理由だけで死んだフリを続ける妻と別れたいなんてリクエストが届くとは思わなかったよ」


「あはは、ラジオネーム『To Luck 野郎』で、ピンと来ましたし、ここまで明け透けだと逆に疑っちゃいましたよ」


「ところで娘はどうなった?」


「……えっと、異世界に行ってます。魔王ポジションですね」


「そっか、その何ていうか、利用した三人はどうなったのかな?」


「あははっ。魔王に殺されてるんじゃないですか? 知りませんけど、事情をある程度話しておきましたからww」


「「ははははははっ」」


誰が悪いのかわからんなぁ

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