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「欲しい物は」

 昼過ぎの人が賑わう街を当てもなく彷徨う。


「まずい、もう頼れる人がいないぞ」


 先輩方に頼るのも気が引けるしもう打ち止めだ。良い案が浮かぶことを祈りただただ街を歩く。

 この街を当てもなく放浪しているのはオレだけではなかろうか。

 とはいえ、歩くこと既に数十分、もう打ち止めだ。流石に寮に帰ろうと寮への道へと切り替えようとしたその時だった。


「あ、ガイト君」


 歩き回った甲斐もあったのかそこにはヘルガ先輩の姿があった。


「ヘルガ先輩、良いところに」

「ど、どうしたのよそんなに嬉しそうにして」

「実は、もうすぐディーネの誕生日でプレゼントをあげたい思うも浮かばなくて」

「ディーネちゃん、バディの子ね……そうねえ」


 先輩が指に手を当てる。


「そうだ、化粧品とか良いんじゃないかしら」

「化粧品、それ良いですね! ありがとうございます」


 真っ先に向かおうとするも足が止まる。


「あの、化粧品ってどこの店に……」

「そうね、ここから近いし一緒に行きましょうか」

「ありがとうございます」


 何という頼もしい先輩だろう。ヘルガさんが先輩でよかったと幸せを噛み締める。


 ~~

 話題の化粧品を取り扱っている店は花屋の横にある建物のようだった。


「ここは、女性モノの洋服を取り扱っている店ですよね? 」

「そうよ、でも化粧品も販売しているの。女性のお客さんが多いからね」


 その分、男性だけだと入り辛さも感じるけれど……本当に先輩がいて良かった。


「中に入って見てみましょう」


 ヘルガさんと共に店内に入ろうとした時だった。ガチャリと扉が開いて中から出てきた女性と鉢合わせになる。


「あ、すみません」

「…………え、ガイト? 」


 ディーネだった。


「……ガイト、用事って先輩と……」

「違うのディーネさん、アタシがほら、さっきばったりと会ったガイト君が限定の最後の一個のパンを食べていてそれでカッとなって嫌がらせをしようと嫌がる彼を無理矢理ここに連れてきて……」


 有難いことにヘルガさんがこの状況を誤魔化そうと即座に嘘をつく。


「そうなんだよ、さっきばったり会ってさ」

「……そうなんだ、じゃあ、ガイトの用事って何だったの? 」


 まさかの質問、事実なのだが先程バッタリ会ったという体ではヘルガさんの助太刀は期待できずオレだけにこの質問から逃れなければならない。必死に頭を回転させると有難いことに名案が浮かんだので即口にする。


「孤児院の方のジェシーと約束しててな。さっき遊んできたんだよ」


 我ながらこの状況で良く浮かんだものだと自画自賛する程に完璧な回答だ。


「……そっか、じゃあ私はこれで。頑張って」

「おう、またな……じゃあ、行きましょうか」

「マズいかも」


 何故か足早に離れるディーネの背中を見つめていた彼女が言う。


「何がマズいんですか? 」

「思い過ごしだといいんだけど、彼女、貴方の言葉を聞いて俯いちゃったし今も走って行ったでしょ? 早くここから去らなきゃって思っての行動だとしたら……バレているかも」

「嘘がですか? 」


 言われてハッとする。罰ゲームということなら一緒に見るという選択肢もあったはずだ。それなのにディーネはそのことを口にすらしなかった。


「とにかく、追いかけた方が良さそうよ」

「はい」


 ディーネの誕生日を祝うための行動で彼女を傷付けてはマズい。


「すみません、行ってきます。ありがとうございました」


 ヘルガ先輩に謝罪と感謝の言葉を述べると共にディーネの背中を目指して駆け出した。


 ~~

「ディーネ、待ってくれ」


 人混みをかき分け寮の付近でようやく追いついたオレは彼女の手を掴む。


「……ごめん、早く部屋でこの化粧品を試してみたい」

「本当にそうなのか? 」

「……うん」


 どうやらオレ達の思い過ごしだったようだ、と謝罪しようとした時だった。


「ディーネさん、ああ良かったこれ、エマがポケットから勝手に取ったみたいでごめんなさいね」


 メアリーさんだった。片手にはディーネの者であろうハンカチが握られている。


「……いえ」


 ディーネが受け取ったそこでようやく彼女と目が合う。


「あら、ガイトも一緒なの。急用って聞いたけど元気そうで良かったよ。それじゃあ、またね」


 言うだけ言うと子供達の面倒があるのだろう。彼女は帰っていった。


「悪かったディーネ」

「……ガイトが謝ることじゃない、バディだからって休日も一緒にいないといけない訳じゃないから」

「それは誤解なんだ、実は……ディーネの誕生日を何にしようか決まらなくて皆に相談に貰っていたんだ」


 素直に打ち明ける。慣れないことはするものじゃない、サプライズなんて格好つけるのはオレには早かったんだ。


「……誕生日? 」


 彼女が首を傾げる。おいおい、ここに来て寮長の情報が間違ってたとかないよな?


「来週、誕生日だろ? 寮長から聞いて」


 保険に寮長の名を出しておくとみるみる彼女の頬が赤くなる。


「……ごめん、忘れてた。それでガイトはヘルガ先輩と……本当にごめん」

「いや、誤解が解けて良かったよ、悪かった。それでさ、ディーネは何が欲しいんだ? 欲しい物があったら言ってくれ」

「……欲しい物は……特にないかも」


 道理でプレゼント選びが難航したはずだ。本人すら何が欲しいのか分かっていないのだから。


「……でも、いつも通りにガイトと過ごしたい」

「それで良いのか? 」


 ディーネが頷く。

 ……孤児院出身と知っているから気を遣ってくれているのだろうか?


「……あと、ガイトの誕生日も教えて欲しい」


 言われるがままに誕生日を教える。過ぎてしまったことを気にしていたがそれは言わなかったオレのせいで彼女は悪くないのに悩む辺り彼女は優しい、ジェシーと比べても欲がなさすぎるし誕生日にはご飯くらいは奢らせてもらおうと心で決める。

 こうして、ディーネの誕生日はいつも通り彼女とご飯を食べて街をぶらついて過ごした。道中何か視線を感じたような気がしたのは気のせい……だと思いたい。

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