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「サプライズバースデー計画」

 長袖でも寒く感じる季節、講義が終わり明日の安息日をどうするか考えを巡らせながら部屋に帰ろうとするところを寮長に呼び止められる。


「ガイトちゃん、ちょっとちょっと」

「何でしょうか」

「もうすぐ、何の日か分かる? 」

「もうすぐですか……特に何も浮かびませんが」


 返答に彼女は一瞬戸惑った。


「そう、そうなると……まあいいかな……誕生日よ、ディーネちゃんの」

「え、ディーネの! ? 」

「そういうことを話したりはしないの? 」


 心当たりはない、頷いて返す。


「そう……余計なことしちゃったかな」

「いえ、ありがとうございます。世話にはなってるんで最高の誕生日にしてみせます」


 寮長の心遣いを無駄にするわけにはいかない。胸を張って答えた。


 ~~

 寮長に大見得を切ったものの特に何をするとかのプランがあるわけでもない。だがディーネのは剣士だ。とすれば剣をプレゼントすれば喜ばれること間違いなしだろう。


「というわけで来たんだけど何か良い剣あるか? 」


 翌日、ディーネに予定があると行って一人で武器屋を訪れるとアルバイトをしているジェシーに尋ねる。


「珍しく一人でいると思ったら……なるほどねえ。それで、予算は? 」

「ないんだなこれが」

「……は? 」


 彼女が目をパチパチさせる。


「いやほら、孤児ってことでオレ食費と多少の生活費は学園側から貰っているけどさ。剣は剣士内定するまで補助がなくてさ、まだ買えるの先でさ。ダメ元で来たんだけどさ……やっぱりダメ? 」

「ダメに……決まってるでしょ! 」


 ジェシーの声が響き渡る。


「仮にあなたがお金を持っていたとしても剣も使う人の好みがあるだろうからサプライズプレゼントという形式ではオススメは出来ないわ」

「すっかり武器屋が板についたなあ」

「おだてても剣は渡せないわよ」


 彼女が顔を背ける。その顔は赤く染まっていた。余程嬉しかったのだろうか?


「悪かった。邪魔したな」

「待ちなさいよ」

「ん? 」

「ついでに聞くけど貴方の誕生日はいつなの? 」

「オレの誕生日は夏……残念ながらもう過ぎたんだな」

「そう、私は三月三十一日だから、何かお店で食べたいわね。期待しているわよ」

「…………はい」


 こうして、数か月先のイベントの予定が埋まった。


 ~~

「というわけで結局聞きそびれてしまって」

「それは大変ですね~」


 酒場に行くとリラさんが注文したパンとサンボケードを置きながら微笑む。


「女性のことは女性の方がよく知っているかと思って……このパンうまいですね」


 ふんわりとした食感に丁度いい甘さ、質問だけじゃ悪いと酒以外の以前はなかったオススメと書いてあるメニューを注文したら大当たりだ。


「本当ですか、ありがとうございます。私が作ったんですよ」

「通りで、この繊細なパンはアルジャーノンさんには作れないかなと」

「ほほう、言ってくれるじゃねえか」


 店の奥からアルジャーノンさんが顔を見せる。


「あ、アルジャーノンさん、昼はお休みのはずじゃ……」

「声が聞こえたからな。それで、結局ディーネさんに何をプレゼントしようと思っているんだ」


 ちゃっかり話まで聞いてる……


「そうですねえ、あっこのサンボケードも良いですね……何が良いんでしょうね」

「お互いまだ学生なんだからあんまり背伸びはしねえ方が良いと思うぞ」

「お父さんは昔お母さんに何をあげたの? 」

「良く分かんねえから金をやったな」


 両親のほんわかした恋愛話を期待していたにも関わらず現実的な返答をされたリラさんの顔が凍り付く。


「お金? お金って何よおおおおおおおおおおお! 」

「今となっちゃあ後悔してるよ、な、ガイト、こうなるからともかく金だけはやめとけよ」

「参考になりました、ありがとうございます。ごちそうさまでした」


 嵐の前に退散、と代金を置くとそそくさと店を後にした。


 ~~

 ウィンディの寮まで押しかけたオレをフウトが快く迎えてくれる。オレ達のフレイム寮と異なり緑が多く心なしか安らぎを得られる内装だ。


「突然押しかけてきて悪いけど、何かないかな」

「ディーネさんの誕生日か……なるほど」


 フウトが頼もしく目を閉じて腕を組む。どうやら女性がダメなら次は女性にモテて贈り物を送ったり貰ったりすることが多そうな男性に尋ねるというのは成功したようだ。


「そうか……ディーネさんの誕生日か……そうかそうか……」


 フウトが深く頷く。この反応、一体何人の女性を虜にしてきたのだろうなどと考える。


「そうか…………剣とか良いんじゃないか? 」

「え? 」


 耳を疑う。オレと同じ答えを出してきたからだ。


「ディーネさんはボク達と同じ剣士なのだから剣とか良いんじゃないか? 」


 どうやら聞き間違えではないらしい。


「変なことを聞くけど、フウトって恋愛とかは……」

「経験はないな……なんせ学生の本分は勉強だからね。剣士になることを一番に考えている」


 キッパリと言い切る。

 なるほど、オレと似た者同士ということか、ならばこの件にて長居は無用だ。


「ありがとう、剣を調べてみるよ」


 と礼を言うと寮を後にした。

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