「名家の誇り」
「はあ? その女が俺様と? 冗談だろ? 貴様らの学園の温い修練より俺様のが強いってことはあの二人で分かっただろ? 」
バーンが吐き捨てるように言う。
確かに、バーンの言う通りルーカスとライオは修練をサボるなんてことはしなかったにも関わらず敗れた、だがディーネは違う。いつもの学園での修練に加えて夜もオレと二人で剣術を磨きあっていた。彼女なら勝てると自信を持って言える。
「まあ、戦ってみればわかるさ」
「冗談じゃないようだな、ならこれでどうだ! 」
バーンが窓側にいるのをいいことに剣から巨大な炎で窓を覆い通せんぼをしようとする。
……だが、遅い。
「頼んだぞディーネ」
言い残すと光の翼を出現させまだ覆われていない左端の窓から抜け出し煙の中へと飛び込んだ。
煙を抜けると先ほど見た黒い服を纏った男の姿を捕らえる。奇妙なことにその剣は先端から三分の一位を球体のような炎が纏われていた。信じられないがあれで攻撃をしたのだろう。遠距離攻撃があるからと煙に隠れ学園長室の対角線上に出なかったのは成功だったようだ。
「バーンの兄だか知らないがもう一度学園長室を狙うか? それならオレはその隙にその首を落としてやるぞ! 」
高らかに叫ぶ。
これで奴は学園長室を狙えないはずだ。
「やれやれ、わざわざ計画に参加してやった。俺の素性をばらすとは……つくづくダメな弟だ。気合を入れるために一撃程度では生温かったか」
何やらぶつぶつ呟いた後男はオレを見て叫ぶ。
「よかろう、どの道俺の存在を知っている者は生かしては置けぬ。貴様から排除してやろう『プロミネンスボム』」
男が勢いよく剣を振る、すると球体がオレ目掛けて飛んできた。
フレイムなのに遠隔攻撃か、クソ……だがこの速度なら避けられる。
悠々と攻撃を避けたその直後だった。
ドオオオオオオオオオン!
と再び背後から爆発音。どうやらパワーは見かけの小ささによらないようで当たったら即死は免れない。
参った……こちらとしては加速のためにある程度直進しなければならないのにその線上にこれを撃ち込まれたらお終いだ。どうしたものか。
インターバルもかなり早いようで既に次の攻撃が剣に準備されていた。
「フハハ、さっきまでの威勢はどうした。そうやって動かないのは勝手だがもう時間はないぞ」
「時間がない? 」
何のことだ? ブラフか? それだとしたら構わないがもし真実だったら……どの道この間もディーネはバーンと、フウトとジェシーは門番と戦っている。決着は早い方が良いだろう。
「こうなれば一か八か、アレをやるしかないか」
要は屋上に辿り着けばいいのだ。それならば、とずっと前から考えていた戦法に賭けることにしてオレは空高く舞い上がる。
「なんだ? 血迷ったか。確かにそれなら俺は攻撃を当てずらいがお前も無理だろう」
男が笑う。
……その通りだ、正直無茶なことだと我ながら思う。でもやるしかない。
ある程度上昇し終えるとオレは男の頭上まで真っ直ぐに移動し落下を開始する。
「バカめ、それがどうした頭上なら爆発に巻き込まれるのが怖くて放てないとでも思ったか」
勝ち誇りながら男が剣を振る、しかしその剣から炎の球体は放たれない。
「なに!? まさか貴様」
そのまさかだ、今のオレはオレのソウルの能力、光の翼を解除しもう一つの力でソウルを無効化している。能力の併用が出来ないならこうするしかない。あとは落下寸前で再び光の翼を出せば良いだけだ。ただしこのやり方には欠点が一つある。着地のために光の翼を出現させると同時に向こうもソウルを発動してくるということだ。
オレが着地と共に斬るのが先か……ソウルを喰らうのが先か…………勝負だ!
男との距離目測三メートル、先程目にした爆発の威力なら相打ちとなる距離で光の翼を出現させると着地の動作に映る。
「光の翼、ということは情報通りなら今なら……俺にだって誇りがある。たかが学生風情がエリート剣士であり名家プロミネンス家の長男を、舐めるなああああ! 」
言葉通り彼はこの状況を即座に読み取り先程よりも小さなオレだけを吹き飛ばせるような球体を作り出す。流石名家のエリートだ。
でも……
「サタン復活に手を貸しておいて、何が誇りだ! 」
本来減速するところを加速し男目掛けて剣を振る。キィンという音とともにその一撃は防がれたがそれがオレの狙いだった。
「き、貴様……スピードで負けたとみて加速してくるとは」
「これなら剣は振れないからな。振れなければその先端にあるソウルは放てない」
加えて落下の衝撃もある。たちまち男は力負けをし大きく体制を崩した。
「もらったあああああああああああああ」
その隙を見逃さずにオレは剣を男へと突き刺した。