「偽の光の剣士」
階段を駆け上り屋上に辿り着くも時すでに遅し何人もの人が列を作っていた。
「さっき見た時より人増えてないか? 」
「……行列だから目立ったのかもしれない」
追いかけてきたのだろうディーネが言う。
「とにかく、ってこれ以上前にはいけないか」
どういうわけか階段いっぱいに列が出来ており下ることが出来ない。屋台の方もこの事態は予想外なようで対応が出来ていないようだ。すぐ来るであろう怒声に備える。
しかし、いつまで待っても怒声は聞こえてこなかった。
……どういうことだ?
関係者だといい屋上へと続く扉の僅かな隙間まで辿り着いたオレ達は隙間から様子を窺う、そこには不満もなく肉を頬張っている大勢の人たちの姿があった。
「一体どういうことだ? 」
「……あれ」
ディーネが指をさすその先には人々とノリノリで握手をする長髪の生徒の姿があった。親戚だろうか? いやそれにしてはあまりにも数が多い。
「まさか……」
余りにもとんでもない発想が浮かんで固まる。その直後
「彼が光の剣士かあ、やっぱりオーラがあるよなあ」
「良い男じゃねえか」
列に並んでいる人の会話が耳に入り確信に変わる。彼等はオレがいないからライオが光の剣士と言う体で進行しているのだ。
「あいつらめ……」
「……ガイト、気持ちは分かるけど今出るのはマズい」
ディーネの言う通りだ。今オレが出ていくと今まで偽物を出していたのかと問い詰められ滅茶苦茶になってしまうだろう。悔しいが優勝のためにもここは耐えるしかない。
「いや、待てよ……これだけ人がいて肉足りるのか? 」
「……分からない。もしかすると……」
話した矢先に一人の女子生徒がこちらに走ってくる。
「あっ……ガイト君これは」
「いやそれは今はいい、それよりもしかして肉が足りないとか言うんじゃないだろうな」
彼女に囁くと首を縦に振る。
なんてことだ、最悪の事態になってしまった。肉がなければどうにもならない。
「それなら間に合うか分からないけど隣町の肉屋まで飛んで行くしかないか」
「でも男子がワタシに裏門に行けって」
「裏門? 分かった、よく分からないけどオレが行ってくるからうまいこと繋いどいてくれ」
よく分からないままにとりあえず裏門へと向かう、するとそこにはルーカスを筆頭に大勢の生徒の姿があった。
「なんでガイトが来るんだよ」
いきなりご挨拶だが気にしてはいられない。
「満員で屋上から出るのも一苦労みたいだったからたまたま階段近くにいたオレが来たんだよ」
「なるほどな、後でビックリさせてやるつもりだったがまあいいか。持ってけよ」
そう言って右に避けるとそこには氷漬けにされた肉塊の姿があった。
「こんなにどうしたんだ、今日の分はオレが買い占めたんだぞ」
「だからその前のを買っていたんだよ先生の協力でブリザードの教師にも手伝ってもらってな」
「皆、そんなことを……」
「誰かさんが頭下げて回るのを見ちまったからな。これくらいはな……階段使えないならこっからはまた頼ることになるけどよ、後は頼んだぜ」
「おう」
感謝の気持ちを込め荷台の持ち手に模造剣を重ねると光の翼を出現させて宙に浮かび屋上目掛けて移動する。
しまった、このままだと姿が見られてしまう。まあ、高速で置いて離れればバレないか。
是非はともかくこの際それで行くしかないと屋上へと登る。すると偶然にも光の剣士の位置により人々が屋台とは真逆の方向を向いていた。これ幸いと屋台に着地する。
「肉持ってきたぞ」
「ありがとう、間に合って良かった」
女子生徒が答える。
「こっちこそ皆が向こう向いてて助かったよ、嘘がバレる所だった」
「屋台目掛けて飛んで来るだろうから向こう向かせるようにってディーネちゃんが」
「ディーネが? 」
言われて気付く。先ほどまでいたディーネが背後ではなく人を挟んで正面にいる。
……ありがとうな
感謝を込めて手を振ると気が付いたのか彼女は笑みを返した。
「よし、じゃあやりますか」
これだけの人数がいるのだ事前に決めた八人では足りない。自分を鼓舞すると列整理のため走り出した。