「会議と食品調達」
収穫祭までの数日は座学の時間は全て準備時間とされるようでオレ達は午前中に剣術の講義が終わると昼食を済ませ教室に集まって会議をすることになった。お題は勿論何を作るかだ。
「やはりフレイム寮名物激辛鍋を出すべきでは」
と誰かが言い出したのを皮切りに皆が次々と激辛なものを上げる。その度に先生が眉を吊り上げる様子が面白かったけれど同時に恐ろしくもあった。
辛いもの以外出ないようだからそろそろいきますか。
満を持して手を挙げる。これで却下されたらいい笑い者だがその時はその時だ。
「はい、ガイト君」
「ス・テーキ……肉を焼きましょう! 」
「それだけ? 」
「勿論それだけではありません。酒を用意してフ・ランベをします」
「フ・ランベ……ああ、フ・ランベね? 」
「はい、肉に酒をかけてから付近に火をつけると火柱が上がるのでフレイムらしいパフォーマンスにもなります」
明らかに分かってなさそうな様子の先生に補足をする。
「なるほど、結構考えてきましたね」
これまでのように眉が動いていない、もう一押しだ。
「何より! これなら簡単で大勢の人が作ることが出来るので数人で不公平なく店番のローテーションを組むことが出来ます」
「確かに、不公平はいけませんね」
よし、好感触だ。
と自信を持って「はい」と返すと着席をした。
「他に何かアイデアのある方は」
先生が尋ねるが誰も手を挙げるものはいないばかりか「焼くだけなら俺でもできそう」という声が様々な場所から聞こえる。
こうして、オレ達の出し物はス・テーキということになった。
~~
「ということでス・テーキに決まりましたが収穫祭は野菜以外は学園がお金を出してくれるとはいえ粗利で競う形式なのでその分不利になるので工夫が必要となりますが……」
そう、そこがス・テーキのネックなところだ。野菜は有難く盛り付けに利用させていただくとして肉を調達するのはお金がかかる、加えて酒もとなるとそこそこな出費になるだろう。でもそこを取り戻そうと値段を高くしすぎてしまうと今度は誰も買ってくれないかもしれない。
とはいえ、何も策がないわけではない。
「肉と酒は心当たりがあるのでオレが何とかしてみます」
「すごい~流石光の剣士」
「頭も良いなんて素敵~」
黄色い声援が響く。
「それでは、ガイト君、まずは貴方にお願いします」
「お任せください、この街はオレの庭みたいなものなので」
と自信たっぷりに胸を張った。
~~
「お願いします! 譲ってください! 」
「そう言われてもな……」
放課後訪れた肉屋の店長、アンブロワーズさんはため息をつく。
「そこをなんとか頼むよ! 」
「と言ってもなあ……仕入れ値と売値の間の値段で譲ってくれってのはなあ」
要求が要求だけに彼は首を縦に振らない。無茶な要求は承知だけれど、正規価格で勝負となると本気になったジェシーにフウト、彼等が代表の寮に勝つことは出来ない。
「店の売値+僅かの値段で販売すれば生肉が売れないということはないからさ」
「とはいえ、その日だけ多めに仕入れるってのも今から厳しいからなあ。下手すりゃ休業日になっちまう」
ぐうの音も出ない正論だ。そもそもこの話は彼にメリットもない。昔馴染みの知り合いってだけでこれは流石に図々しかった。
「やっぱりそうだよな。悪かった、じゃあ収穫祭の日、定価で生肉をあるだけ頼むよ」
「はいよ、まいどあり。そんじゃこれが見積書だ」
そう言って渡された紙を確認すると記された金額と大体の量を照らし合わせると定価よりも遥かに安かった。
「アンブロワーズさん、これ間違ってるぞ」
このまま黙って帰るのも忍びないので素直に口にすると意外にも彼は首を横に振る。
「間違ってねえよ、さっきのは冗談さ。大量注文に収穫祭のお祭りにガイトの頼みときちゃそれくらいよ」
「本当か、ありがとう。これで優勝も狙える! 」
「優勝とは大きく出たな。頑張れよ」
「ああ」
肉屋を離れる。割引の件は本当に有難い。こうなったらとことんやってやろう!
「次は酒だ! 酒を手に入れるぞ! 」
味を占めたオレは酒屋へと向かった。
~~
「ダメだダメだ! 学生に酒を渡すなんて! ましてやフ・ランベに使う酒なんて度数が高いんだぞ! 」
酒を譲ってもらいに訪れたアルジャーノンさんの酒場で先程のように交渉を試みると別の件で拒否されてしまった。確かに生徒がこっそり飲んだりしないかと聞かれるとシフト制なので常に見張っているわけでもなくないとは言い切れない。痛いところを突かれたものだ。
「ガイト君なら心配いらないよお父さん! 」
話を聞いていたのだろう奥から出てきたリラさんが彼に迫る。
「い、いや、しかしなあ……量も分からねえんじゃ」
「それなら多めに仕入れて私が逐一確認して届けるから」
ピシャリと言ってのけるリラさんとは対照的に彼はたじたじの様子だ。思わぬ援軍に感謝をする、そしてチャンスはここしかない。
「頼む、先生も目を光らせてるから万が一は心配いらないよ」
「ああ、分かったよ。リラがそう言うなら仕方ねえ」
「ありがとう、お父さん。そういうわけだからガイト君、当日は任せて」
またもや対照的にウィンクをする彼女とこちらに鋭い眼光を飛ばす彼。正に天国と地獄というような光景がそこにあった。
「じゃあ、お願いします」
地獄側の彼の視線が無理矢理抑え込まれたにしてはあまりに恐ろしいものだったのでそう告げると店を後にした。
何はともあれ、これで食品もなんとかなりそうだ。
小さくガッツポーズを作ると寮への道を急いだ。