「受け継がれる剣」
「おう、ガイト、気が付いたかよォ! 」
目を開けるとヴィルゲルさんの顔が飛び込んで来る。
「あれ、オレ、生きてる? さっき死んだはずじゃ」
「しっかりしてくれよォガイトォ」
上下にゆさゆさと揺らされ、視界がぐらつく。
「落ち着くんだ、手短に話すと君がヘルナイツの攻撃を受ける直前、シェスティンさんが君を風圧で吹き飛ばしたんだ」
「咄嗟で手加減は出来なかったようだがよォ」
そこまで説明をされて全員が揃っていないことに気が付く。
「ウォルバーストさんは! ? シェスティンさんは! ? ヘルナイツは! ? ケルベロスは! ? 」
「ケルベロスは私達で倒した。彼女はそこにいる。だが……」
「ウォルバーストさんがやべえんだ、早く助けに行ってやってくれェ! 」
言われて二人の視線を追うとシェスティンさんと戦いでできたのだろう数十メートルの崖を隔てて、ウォルバーストさんとヘルナイツの姿があった。
そういうことか、この距離を妨害なく移動できるのはこの中にはオレしかいない。急いで立ち上がるも剣がないことに気が付く。
「しまった、剣が……」
「オレのを使ってくれェ」
「ありがとうございます」
ヴィルゲルさんから剣を受け取ったその時だった。
「ウォルバースト君、もうやめて! 」
シェスティンさんの声が響き渡る。視線を移すとウォルバーストさんは対抗戦で見た巨大な炎の剣を、ヘルナイツも負けないくらいの巨大な禍々しい闇のソウルを纏った剣を出現させている。
「まずい、止めないと」
一刻の猶予もない。光の翼を出現させて地面を蹴ろうとしたその時。
「『マキシマムパニッシャー』うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 」
「こい、『エターナルダーク』! 」
両者の剣が激しくぶつかり合いその衝撃波で後ろへと吹き飛びそうになる。
「ウォルバーストさん! 」
負けじと前へ進もうとするも助走もできず思うように進めない。だがその直後、砂煙が舞い巨大な剣がかろうじて見えるようになった。
「『エアスラッシュ』ウォルバースト君に届いて! 」
後方から巨大な風が彼の剣へと向かった。シェスティンが彼のソウルを強化できればと風激を繰り出したのだ。それを感じるや否や衝撃波で吹き飛ばされる。
「ウォルバーストさん! 」
ウィンディではないオレに届けられるのは声しかないと力の限り叫んだその直後、ドンと一際激しい衝突音が響き渡る。勝負がついたのだろう。砂煙が晴れて中からウォルバーストさんが出てくるのを信じて待つ。しかし、彼は出てこない。
……まさか、ヘルナイツが?
最悪な考えが頭をよぎり必死に首を横に振るとひたすら前方を見つめる。
やがて砂煙が晴れ、オレの視界に飛び込んできたのは……腕を失ったウォルバーストさんの姿だった。
「ウォルバーストさん! 」
堪らずに彼の所へと移動する。
「よお、ガイトか……格好悪いところを見せちまったな」
「そんなことありませんよ、それより早く止血を! 」
応急措置をしようと上着に手をかける。
「待て、もう無理だ」
「どうしてですか」
彼の傷口を見る。よくみるとさっき見た時よりも腕がなくなっているように見えた。
「闇のソウル、恐ろしい力だ。俺は直に跡形もなくなっちまうだろう。俺に触れるなよ、下手するとガイトも巻き込まれちまう」
「どうして一人で戦うなんて無茶をしたんですか」
「子供の頃な、俺はいじめの現場を見たんだ。だが、弱い俺はいじめられている奴を救えなかった。それが嫌で剣士になって強くなろうとした。そんな俺がよ、二度も逃げるわけにはいかねえだろ……って何を話してんだ俺は……とにかくよ。こんな俺を慕ってくれたやつに情けない姿みせられねえだろ? 失敗しちまったな……本当は……格好良く倒すはずだったんだけどよ」
「そんなことありませんよ、格好良かったですよ」
「……そうか、ありがとよ。楽しかったなあ……最高のチームだった。そういや……すまねえな……卒業式の交流戦で……戦おうって約束したのによ」
「良いんですよ、もう。交流戦なんて……」
そう、もういいんだ。卒業式の交流戦なんて、本当に格好いい先輩の姿を見せてもらったのだから。
「…………そうだ、詫びと言っちゃなんだが、その剣…………やるよ」
「剣? 」
言われて彼の視線を追うとそこには先ほどの衝突などなかったかのように煌めく剣が横たわっていた。
「…………最後の願いだ、剣を構えたガイトが見てえ…………頼む」
「分かりました」
言われるがままに剣を手に取る。
「ああ…………ありがとよ…………負けんなよ…………ガイト」
その言葉を最後にウォルバーストさんは風とともに消えた。