「学園対抗戦終了」
「今回のルドラ学園とノーブル学園の対抗戦は、ルドラ学園の勝利! 」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」
歓声が上がる。
「最後に悔いのない試合が出来たことに礼を言う。だが……次は負けないからな」
ブライアンさんが去っていく。
「オレも負けませんよ! 」
背中にそう声をかけると彼はひらひらと手を振った。
「見せてもらったぞガイトの応え(答)を」
「蹴っ飛ばした時はヒヤッとしたけどよォ。すげえじゃねえかァ」
声がしたので振り向くとウォルバーストさんとヴィルゲルさんの二人がいた。
「いえ、結局どう戦うかは彼自身が決めたことですから」
晴れやかな気持ちで彼の背中を眺める。
「そうか……とにかく! これから祝賀会だ、そして夜は記念に皆で風呂に入るぜ! といっても勿論男子だけでな! 」
ウォルバーストさんがオレとヴィルゲルさんの首に左右の腕を回してぐいっと引き付けながら笑う。それを見てオレ達も笑った。
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翌日、ノーブル学園を発ち出発時と同じメンバーで馬車で揺れているオレ達は正面に仰々しく飾られた賞品の指輪を見つめていた。
「これは、結局何の指輪なんでしょうか」
「さあなァ、見るのも初めてだぜェ」
「毎度対抗戦の時に賞品になるということは何か特別な意味があるのだろう」
「いやあ、それがなあ……」
「ねえ……」
指輪の価値について興味津々なオレ達に対して歯切れが悪そうなのが三期生のお二人。
「この指輪についてご存知ですか? 」
「ああ……価値はあるといえばあるが」
「……ないといえばないわね」
気まずそうな二人だがイマイチ呑み込めない。
「と言いますと? 」
「実はこの指輪はね、学園長の二人が一人の女性を好きになったときに口説こうとして取り合ったものなの。勝った方が手に入れてプロポーズをするというね。ところがその女性はそんな二人に呆れて別の男性と婚約してしまったというね、だからこうして未だに行き場のなくなった指輪を賞品にしてるというわけ」
「というわけで婚約指輪ほどの価値はあるってわけだ」
「なんでェそれはァ……」
「正に価値があるといえばあるがないといえばない……ですか」
「記念というわけですね」
何の秘密もない普通の婚約指輪だと判明し脱力感に襲われる。
「とまあ、展示を見て説明されてそうなるまでが交流戦の勝者の醍醐味ってやつだ。とはいえノーブル学園の精鋭から勝ち取ったものだ、胸を張って展示されるのを見届けようぜ」
「そうですねェ、勝ったことには変わりねえんだァ」
「そうだな」
「ですね」
「本当、卒業前の良い思い出になったわ。皆、ありがとう? 」
「……え? 」
「……む? 」
「先輩がお礼を! ? 」
三者三様の驚きを見せると先輩の顔が強張る。
「あら? 皆はワタシのことをどう思っていたのかしら? 」
「シェスティンは誤解はされやすいがそこまで嫌な人物ではないぜ。それとシェスティン、卒業前の思い出といえばもう一つあるだろう」
「もう一つって……卒業式思い出作りのことかしら? 」
「思い出作り? 」
「各クラス代表の卒業生が指名した同僚の在校生と最後に一戦を交えるのよ」
「そういうイベントがあるんですね」
「そんな他人行儀で良いのか? 俺が代表に選ばれたらガイトを指名するつもりなんだがな」
「え! ? 」
耳を疑う。願ってもないことだがヘルガさんを飛ばしてまさかのオレ?
「ああ、ヘルガ君の一年の成長も気になるが俺はガイトと戦いたい。前回も引き分けだったしな」
「分かりました、その時は思いきりやりましょう」
意外な形で組まれた再戦の約束、この一年、余計に鍛練を怠れなくなったぞ!
拳に力が入る。
「気が早いわね。ワタシも貴方にリベンジ……と行きたいところだけれど寮が違うから。アロー君にリベンジをさせてもらうわ」
「皆決まってんのかァ……ジェシーって後輩がすげえって聞くしどうなるんだろうなァ」
「それを言うならワタシもイワンという後輩の噂が耳に入っている。ガイトから見て二人はどうなのだろうか? 」
「そうですねえ……二人共既にソウルをある程度使いこなせるようにはなっていますが、やっぱりお二人の方が強いかと」
「確かに二人共凄かったな」
ウォルバーストさんが言い終えるとヴィルゲルさんが目を丸くする。
「先輩が褒めるってェ……てか対抗戦の段階でソウルを使いこなせるのかよォ! オレなんてその時期はなァ……」
「確かに、気が抜けなさそうだ」
対抗戦が終わったばかりだというのに各々が闘志を燃やしているのを見て剣士であることを実感したその時だった。
「……なんだ! ? 」
ヒヒ―ンと馬が鳴き声を上げたかと思うと急に馬車が激しく揺れる。どうやら急停車したようだ。一体なぜ? 窓を見るとそこには一人の痩せこけた男性が両手を挙げて通せんぼをしていた。
「危ないじゃないか! 」
「ヒヒヒヒヒヒ、感じる、感じるぞ。何十年か振りのサタン様の力を……」
御者の注意など意に介さず彼はにやりと笑った。