「決戦の行方」
アローさんを見つめる。彼はシラさんとともにモンスターを倒しながら進みダンジョンの右上端の位置へと辿り着いていた。コンコンと壁を叩き彼もそれを確信したようで彼女に合図を送る。するとたちまち地面から岩が出現した。
「アローさんのあれは……探知ですかね」
「そうね、彼は恐らく壁の反響する音でダンジョンの端にたどり着いたことを確かめたのだわ。そして今、シラに合図を送った」
「でも、感知ならシラ先輩でもできるのではないでしょうか」
アントーンさんが尋ねる。
「それは恐らく、ああいうことなんだろうぜ」
ウォルバーストさんの視線の先にはヘルガさんとマリレーナさんがいた。だが、二人は奇妙なことにお互いの剣を重ね合わせているだけでスタート地点からは一歩も動いていなかった。
「なんでェありゃァ……」
「そろそろみてえだな」
ウォルバーストさんの言葉を合図にしたかのようにモクモクと煙が空に浮かび上がる。それを見て二人の行動の意味が分かった。水蒸気だ。彼女達は上手く互いのソウルを調節して炎で氷を溶かすばかりか蒸発させ水蒸気で目くらましをすることにしたのだ。
「なるほど、あの位置ならば風向きを見てもアローの視界が奪われることはないため彼は見渡す時間を作ることが出来る」
「でも、煙だと……ノーブル学園の視線を引き付けておくのと迷路の半分が覆われるの。どちらが早いにしても見渡せる時間は数秒あればいいところね」
「悔しいけどよォ、それをやるのがアローなんだろうなァ」
「そうですね、アローさんならやってくれますよ。そう思わせる何かが彼にはありますから」
オレの言葉にウォルバーストさんが笑う。
「そうだな、あいつはそういう奴だ」
「いや、待てよォ……風向きからアローが大丈夫ってことはよォ……こっちが風下じゃねえのかァ! ? 」
言われてハッとするも時すでに遅し。水蒸気は風に乗り迷路の半分と観客席を包み込んだ。
「アローめェ、風向き次第とはいえひでぇことしやがるゥ」
「……弱ったわね、この蒸気を掃おうにもアクシデントではなくこちらの作戦だから掃えないわ」
「審査員達もそう考えているようだな」
「つまり、オレ達に出来ることはアローさん達を信じて待つということだけですか」
「……だな」
祈りながら蒸気が晴れるのを待つこと数分、遂にダンジョンの様子が分かるようになった。数メートル先の出口を目指して走っている。
「あの野郎やりやがったァ! 」
オレ達ルドラ学園側から歓声が上がる。しかしそれは直後にどよめきに変わりノーブル学園側から歓声が上がった。アローさんと同じように向こうの生徒もゴール間近まで迫っていたのだ。
左右対称となる作りとなっていたのだろう、両者とも分かれ道に突き当たる。曲がった方がゴールに近そうだがそれはトラップ。両者とも曲がればゴールを前にして行き止まり、直進すれば曲がり角一つでゴールができる作りだ。
道を覚えていたであろうアローさんは迷わずに直進をする。それに対してノーブル学園の生徒は曲がる選択をした。
「勝った! 」
思わず声に出す。それを皮切りに再び歓声が上がる。ルドラ学園の全生徒が勝ちを確信したその時……
「な、なんだァあいつゥ! 」
何とノーブル学園の生徒が壁を前に道を間違えたことを悟り戻るでもなくその場に膝をつくでもなくラストスパートとばかりに全速力で駆け出したのだ。
「どうした? 自棄になったとでもいうのか」
「いえ、あの走りは何かの確信を持ったような、そんな力強い走り……一体何を……」
嫌な予感がした。選手には悪いがその予感が外れて彼が壁に激突することを祈る。その願いが通じたか通じないか彼が壁に突っ込んだその時、奇妙なことが起こった。
壁がグルッと一回転し結果、彼はアローさんより早くゴール直前まで辿り着いたのだ。
「……は? 」
思わず間の抜けた声を出す。しかし、その間に彼はゴールである出口へと入り込んだ。
「き、決まったあああああああああああ! 何というハプニング、意外にも勝利をもぎ取ったのは最後まで勝負を諦めなかったノーブル学園だああああああああああああああああああああ! 」
司会の声、観客の声が聞こえるもどこか遠い場所での出来事のように感じた。