「光の翼」
「それじゃあ、今度はボク達の番だね。いっけええええええアロー君! 」
「しまった」
キーパーであるシラさんの投げたボールはオレ達の頭上を越え狙い通りアローさんの元へ、このままでは速攻後のカウンターが決まってしまう。
「今度はこっちの番だ」
ドリブルで進むアローさん。
……ボールがある分スピードが下がる。追いつけるか?
力強く地面を蹴る。
「させないよ」
と目の前に現れたマリレーナさんに阻まれる。
「よし、これで行くか」
ウォルバーストさんがアローさんの元へと向かう……かと思ったら彼の横を勢い良く通り過ぎた。
「よく分かりませんが……これで一点を! 」
アローさんがボールを勢いよく蹴る。巨大な剣とも言うべきソウルを纏ったボールは勢いよくゴールへと突き進む。単純なソウルの勝負になるとアントーンさんが不利かもしれない。
あきらめかけたところにシェスティンさんがボールとゴールの間に割って入った。
「させないわ……よ! 」
勢いよくボールに向かって足を振り上げる。風のソウルとソウルのぶつかり合いだ。結果、ボールは止められなかったものの威力が大分弱まった。
「感謝します」
とアントーンさんもシラさんに負けじと巨大な壁をゴール前に出すと同時にボールを両手で受け止める。
「よし、今度はこちらの番だ」
「行きなさい」
シェスティンさんからボールを受け取る。このままさっきのようにヴィルゲルさんにパスを……と考えたのだがそれだと以前のようになってしまう。
……ならいっそオレがシュートを。
「……オレがシュートをとか考えてる? 」
振り返るとヘルガさんが迫ってきているのとマリレーナさんが前線へと上がっていくのが見えた。カウンター狙いだろう。ボールがある状態で追いつかれずに済むだろうか?
「左にパスだ! 」
不安にかられたとき、再び背後で声が響く。言われて左を向くも誰の姿もない。しかし、このままだと追いつかれるのは必至
……ええい、ままよ。
声の通りにパスを出す。ボールは空しく転がって場外に……とはならず素早い影がボールと共に走り去るのが見えた。ウォルバーストさんだ。
「貰ったああああああ! 」
すかさずシュートを放つと爆炎を纏ったボールは一目で分かる程の威力でシラさんの壁を焼き尽くしゴールを破った。
「悔しいいいいい、なんでウォルバースト君が来るのよお」
「ははは、ディフェンダーがゴールを決めたらいけないというルールはねえからな」
膝をつくシラさんに笑いかけ手を貸すウォルバーストさん。何というか自由な人だなと思った。
~~
そこから試合は動いて時計塔の時計が終了時刻を指す数分前にはこちらはウォルバーストさんが翻弄もあり八得点、アローさんチームも連携で三得点、ハンデの五点を合わせて計八点と同点になっていた。
「よっしゃァ! 」
覚醒し二得点を上げたヴィルゲルさんがボールを取る。しかし、前方にはマリレーナさんとアローさん。ボールを奪われたら前方のヘルガさんにパスをしてカウンターが出来る状況だ。
……特訓の成果を出すにはここしかない。
覚悟を決める。チーム戦ということを考えると事前に見せておかなければならないものだ、ここで出すのが最善だろう。
「ヴィルゲルさん」
光のソウルによるソウルが発動できないシュートで一得点を上げて警戒されていたオレだが今は後方にいるため無警戒だ。ただ、大きく戦線を下げることになるこの状況でオレにパスをくれるかは彼次第だ。
「何か考えがあるんだなァ、行っちまえェ! 」
だというのに彼はパスをくれた。それならばオレは期待に応えなければならない。オレはボールを取ると同時に両足で挟み込む。
「! ? 」
あまりに奇抜な行動に皆の動きが止まる。確かにこれだけでは意味不明だ。だがこれなら!
「『光の翼』」
瞬間、ボールの光を背中へと移動し翼を作り上げるとボールを挟んだまま空へと浮かぶとゴール目掛けて突き進む。
絵面は微妙だけどこのままゴールに飛び込んで得点だ!
「なっ……」
「速い……」
驚く二人を抜き去る。残るはキーパーのシラさんだけだ! 彼女がソウルを発動させようと力を籠める。
「残念ですがシラさん、オレのソウルによって貴方のソウルは発現しませんよ」
「そんな……出ろおおおおおおおおおおおお」
ああ無常、どんなに願っても彼女のソウルはオレのソウルで無効化され……るはずだったのだが
「あれ? 」
「え? 」
突如出現した壁に思わず動きを止める。その瞬間、時計塔が試合終了の鐘を鳴らした。
「今のは……」
「凄いよガイト君、あの速度で空を飛ぶなんて」
ヘルガさんが褒めてくれるもその優しさが痛い。
「いえ、本当なら決まるはずだったのですが……」
「ガイト君、試してみよう」
とアローさんが二本の剣を持ってきて一本をオレに手渡す。
「それでさっきと同じことをやってみて欲しい」
言われるがままに光の翼を出現させる。その後、アローさんの剣を見ると彼の件は風を纏っていた。これは一体どういうことだろう? ソウルが剣を離れたため無効化がされないのだろうか?
「迂闊でした。まさかこんな欠点があるなんて考えもしなかった、これだと狙い撃ちされたりして本番では使えませんね」
「いや、そうでもないんじゃない? 」
声の主は意外にもシェスティンさんだった。
「つまりソウルでの連携ができるってことでしょう? ならそれでいいじゃない。剣士になったら今回みたいに集団での戦いも増えるのだから」
意外だった。もっとキツイことを言われると思っていたからだ。
「ああ、落ち込むことはない。本番前に見せてくれて助ったぜ」
とウォルバーストさん。
「ありがとうございま……」
お礼を言いかけたその時だった。
「おや? その服は? ルドラ学園か? 玉蹴りやってたのか? もう交流戦は諦めちまったのか」
「しょうがねえだろ、どうせ今年も負けちまうんだからよお」
視線を向けると場外に四人の同じ上着を羽織った男子四人の姿。彼等がそんなことを口にしてニヤニヤと笑っている。一応交流試合なのに何て嫌な態度だろう。
「何を」
「待て」
飛び出そうとしたところでウォルバーストさんに肩を掴まれる。
「おーおー偉い偉い。俺等に喧嘩売ったらどうなるか、ちゃんと学習しているようだな」
そう笑いながら彼等が遠ざかっていく。
「何で止めたんですか」
「明日実力で示せばいい……それだけだからよ」
ウォルバーストさんはそう言うと肩から手を離した。