「出発」
時は流れクラス対抗戦3日前の放課後、決起集会が開かれ全校生徒が修練場に集まっていた。今回の主役は勿論オレ達ということなのだが、生徒達が座る中前方で学園長の背後に九人並んで起立している姿は慣れないからなのか代表というよりもむしろ何か悪いことをした罰として立たされているような気分になって居心地が悪い。
「え~であるからにして我々はあの花のように生きねばなりません。また……」
学園長の挨拶が続く。かれこれ五分以上はこんな感じで話している。よくそんなに話すことがあると感心する次第だ。どうせ話すなら先代の光の剣士のことについて語ってほしいのだけれどどういうわけかはぐらかされてしまう。首をかくんかくんと上下させている生徒が視界に入る。オレも向こう側だったらああなっていたかもしれない。
と考えたが最後、突如として眠気に襲われる。
……眠い、早く終わってくれないかな。
「と挨拶はここまでにして」
そんなオレの願いが通じたのか遂に話がまとめの方向へと向かったと思うと学園長がこちらを振り向いた。
「それでは代表選手のご紹介、三期生、フレイムからはウォルバースト君! 」
思わぬ展開に眠気が吹っ飛ぶ。来るなら一期生でまだ無名のオレからだろうなんて考えていたからだ。三期生から順に紹介となったら最後になってしまう。会場が盛り下がっても知らないぞ、と学園長に伝わるはずもないアイコンタクトを試みる。
「ウィンディ! シェスティンさん」
努力空しく二人目の三期生であるシェスティンさんが紹介され歓声が上がる。マリレーナさんとシラさんも紹介され三期生は終了する。
「続いては二期生、フレイム、ヘルガさん」
無情にも始まったのは二期生の紹介だ。
「ウィンディ、アロー君」
キャーーーと誰が上げたのか分からない女性達の歓声、どうやら女性人気ナンバーワンはアローさんのようだ。
「ちぇっ、やっぱりアローかァ」
とヴィルゲルさんが呟く。
二期生もアローさんを除くと初舞台なので辛いのかもしれない。しかし、そんな状況をモノともせず笑顔のヘルガさんと無表情のアントーンさんは凄いなと感服する。ヴィルゲル君、アントーン君が紹介され遂にお待ちかねのオレの番。滑ったら一発意気込みを叫んでやろうと拳を握り締めその時を待つ。
「そして一期生の若きホープ。蘇った光の剣士、ガイト君! 」
紹介と同時にうおおおおおおお! と歓声が上がる。シーンとなったらどうしようかと僅かながら不安があったので一安心だ。
「以上のメンバーでノーブル学園との学園対抗戦に挑戦します。昨年の雪辱を晴らすためにも皆の活躍に期待しましょう! 」
こうして大歓声とともに決起集会は幕を閉じた。
~~
翌朝、まだ陽が昇っていない時刻に荷物を整えたオレはロビーへと降りる。陽が沈む前にノーブル学園へと到着するためだ。ノーブルまでは馬車でも半日を要するらしく陽が沈む前に着くには朝早く出る必要があるらしい。
「あ」
ロビーで人影を見つける。柱で隠れているけれど制服は女子生徒のものだ。となると答えは一つしかない。聞きたいことがあったので好都合だと柱へと向かい声をかける。
「ヘルガ先輩、待っていてくれたんですか? 」
「……はずれ」
そこにいたブロンドヘアの女性が不満そうに口にする。ディーネだった。
「悪い、朝早いから同じく早いヘルガ先輩かと思って……」
ブロンドヘアが見えていれば……と不運を恨みながら弁解をする。
「見送りに来てくれたのか? 」
「……うん」
「でも、昨夜も寮長がご馳走振舞ったりして見送りパーティーを開いてくれたじゃないか」
「……それは寮長の分だから」
キッパリと言ってのけるディーネ、しかし見送りと言っても明日には彼女も応援として訪れるノーブル学園で会えるというのに大袈裟ではないだろうか? しかもこんな朝早くに……
そう口にしようとして思い留まる。今口にするべきはその言葉ではない。
「そっか、ありがとうなディーネ、行ってくるよ」
「……行ってらっしゃい」
「ははっ良いバディを持ったみてえだな、俺のバディなんて今頃イビキかいて寝ているぜ」
突如背後から声がして振り返るとそこにはウォルバーストさんとヘルガさんが立っていた。
「二人共、いつからそちらに……」
「そっか辺りからかなあ」
……それって全部じゃないか。
ヘルガさんの答えに顔が熱くなる。
「安心しな、明日は俺達が最高の見せ場を作ってやるからな」
「そうそう、アタシ達に任せて」
社交辞令だとしても嬉しいことを言ってくれる二人にディーネは頷く。
「……はい、先輩達もお気をつけて」
ディーネに手を振るとオレ達はロビーを後にした。門の前に二台の馬車が止まっているのを確認し向かったその時
「行ってらっしゃい! 」
と目の前に寮長が現れた。
「寮長! ? 」
「どうしてここに! ? 」
「ふっふっふっ……サプライズ大成功! ヘルガちゃんも初めてだったわね」
なんて驚いたオレ達の反応を見て得意げに言う。
「ウォルバースト君も黙っていてくれてありがとうね」
「この流れは恒例みたいなものですからね」
「ということはウォルバーストさんも初めは? 」
「そうそう、ウォルバースト君も初めはね……」
「っと、すみませんが寮長。もう馬車が出発するようです。もう行かなくては、ありがとうございました」
焦った様子のウォルバーストさんが駆け足で馬車へと向かう。珍しい隙のような気がして惜しいけれど馬車を待たせてしまうのが悪いというのも事実だ。
「その話は帰ってきてからじっくりと……行ってきます」
「行ってきます」
オレとヘルガさんも寮長に挨拶をするとウォルバーストさんを追いかける。
「ええ、行ってらっしゃい! 応援してるよ~」
寮長の明るい声が響いた。