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「新学期」

 朝食を済ませたオレはいつもの待ち合わせ場所へと向かうとディーネが寄りかかって待っていた。


「おはよう」

「……おはよう」


 帰省していた生徒達も戻ってきたため賑やかになったロビーで夏休みと変わらない挨拶を交わす。相変わらずディーネは来るのが早い。


「なあ、ディーネはいつも早いけど何時に来てるんだ? 」


 学園に向かいながらたまらず尋ねると「……秘密」とはぐらかされてしまった。

 結果的に早起きになった今日は機会を逃してしまったので約束の何分前に来ているのか今度検証しようと誓う。


「……でも、ガイトが元気そうでよかった」

「オレが? 」


 顔に出していないつもりだったけれど気付かれていたのか、と驚く。


「……うん、元気なかった」

「心配させて悪かった。でも、メイソン先生のおかげで何とかなったよ」

「……メイソン先生? 」


 彼女が首を傾げる。その様子を見てオレもそれに倣う。


「ディーネのところには行ってないのか? 」

「……うん、私だけお説教されてない」


 ……なんだその反応は。

 予想外の反応に言葉を失う。説教されてないと落ち込むというのは理解できないけれど仲間はずれが寂しいのだろうか? いや見捨てられた気持ちになったとか? といってもオレのはお説教というか励ましのようなものだったのだけど、今それを口にするのはややこしくなるだけだろうからやめておこうと決める。


「なら、なんかいたずらでも仕掛けてみればいいんじゃないか」

「……いたずら? 」

「そう、例えば…………」


 口にするも困ったことに何も思い浮かばず後が続かない。


「……例えば? 」

「遅刻するとか? 」


 ようやく捻りだした考えを口にする。いつも早起きのディーネが遅刻するなんてむしろ心配されてしまうであろう、意図的に人を怒らせるというのも難しいものだなあ、としみじみとしていると彼女が大きく頷く。


「……分かった。じゃあ、どこかに隠れる? 」


 耳を疑う。ただの冗談のつもりだったのに彼女は本当に遅刻するつもりでいるのだ。


「いやいや、ていうかオレもなのか? 」

「……ダメ? ダメなら私だけでどこかに」


 立ち止まりオレの目を見てはっきりと口にする。そんなに説教をされたいものなのだろうか? とはいえ、今ので何故先生が彼女のもとへ行かなかったのか分かった気がした。「なるほどな」と呟く。


「……どういうこと? 」


 耳が良いのかすかさず彼女に尋ねられる。


「ディーネは自省出来るから先生も説教する必要はないって思ったんだろうな」

「……そう、なのかな? 」


 即座に考えたそれっぽいことを口にすると人差し指を唇にあて真剣に考える素振りをしながら彼女は答える。やっぱりそうだ、彼女は素直なのだ。だから素直に『バディ』という言葉の意味をとって常にオレといる。本来はただの実技での相手に過ぎないというのに。とはいえ、オレはこの状況が嫌いではないので彼女には悪いがこのままにさせてもらおう。


「そうだよ、だからあんまり気にしない方がいい」

「……分かった」


 疑う素振りを見せない彼女に心を痛めながらもオレ達は学園へと向かった。


 ~~

 新学期ということで軽い説明で本日は終了した。早く終わったので学園のシステムを使ってまた修練をしようかなんて考え席を立った矢先に先生がこちらに歩いてくるのが視界に入る。

 まだ説教が足りなかったのか? それとも……?

 ディーネを見る。もしかするとディーネへの説教に来たのかもしれない。


「良かったな」


 と声をかけると彼女は複雑そうに頷く。


「何が良かったのかしら? 」

「まあ、色々と……」


 先生に尋ねられたので言葉を濁す。


「じゃあ、オレはこれで……」

「待ちなさい」


 踵を返し廊下へと向かおうとすると肩を掴まれる。どうやらオレに用事があったようだ。こういう所で鈍い彼女に苛立ちを覚えるも考えてみると説教されたいのを察しろというのが無理難題だなと即座に苛立ちを抑える。


「何でしょう? 」

「この後学園対抗戦のメンバーの顔合わせがあるから二階の会議室に集合ね」


 すっかり忘れていたけれど、もうすぐ学園対抗戦だった。オレ以外の八人のメンバーのうち二人しか知らないので事前に顔を合わせる機会があるのは有難い。


「分かりました、すぐに向かいます」


 遅刻するとマズいと即座に向かおうとしたけれど、ディーネの件が解決していなかったので足を止める。


「それだけですか? 」

「え? 」


 驚く先生とディーネを目だけを動かし交互に見つめてアイコンタクトを試みる。するとその甲斐あってか先生は「付いていきたいという気持ちは分かるけれど、残念ながら今回はディーネさんは参加できないわ」

 と彼女に声をかけた。


「……あの、はい」


 とよっぽど嬉しかったのか顔を赤く染めて彼女は答える。


「良かったな、そういうわけだから。今日はこれで解散だ、行ってくる」


 そう口にすると会議室へと向かった。

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