「伝説のソウルの力」
オレのソウルにより刀身が光り輝く剣がヘルソルジャーの身体に触れる、その時だった。脳裏に映像が飛び込んできた。目の前には木製のカウンターらしき台越しに三十代ほどの青年が立っている。
『本当に一人で大丈夫か? 』
心配そうに尋ねる彼の顔には見覚えがあった。誰だろう? と首を傾げる。そういえば、この場所も知っている気がする。
そう悩んでいるとオレの口が勝手に動く。
『平気だよお父さん。それじゃあ行ってきます』
普段のオレの声からは信じられないほど高く女性のような声が出ることに驚いていると身体は頬を緩ませながら勝手に踵を返し幾つかの木製の椅子とテーブルを通り過ぎ出口へと向かう。視界に入るもの全てに見覚えがあった。
そうだ、ここはアルジャーノンさんの酒場だ。そうなると今いた男性がアルジャーノンさんということになる。
じゃあこの女性は誰だ? オレが今乗り移っているこの女性は……答えは一つしかなかった。この女性は彼の娘のリラさんだ。
では、どうしてリラさんの記憶を今オレは体験している?
まさか…………まさか……
考えるのも恐ろしい事実に震える。何という偶然だろうか、オレ達が出会っていたヘルソルジャーがリラさんだったんだ!
~~
瞬間、プツンと映像が途切れハッとする。どうやら洞窟に戻ってきたようだ。
「やったのか? 」
背後から二人が近寄る気配がする。
「ああ、多分。ディーネ、悪いけど確認を」
「……分かった」
彼女が頷き剣に炎を灯し辺りを照らすと蹲っている少女の姿があった。無意識に長くしていた光の部分だけが刺さっていたようで血痕はなく、先ほどまであった額の禍々しい模様は消えている。
「離れるんだ、まだ呼吸をしている」
「待ってくれ」
剣で今にも襲い掛からんとするフウトを制する。
「どういうつもりだい? 」
「額の紋章がなくなってる、彼女はヘルソルジャーではなくなっているかもしれない」
「何? 」
「さっき、ヘルソルジャーを刺した時不思議なことが起きたんだ、彼女のことが見えた。だから彼女はもうヘルソルジャーではなくなっているかもしれない」
ありのままを伝える。しかし冷静に考えるとなんと意味不明の説明だろう、他に何か上手な説明はないかと考えているとディーネが助け舟を出してくれる。
「……それって、ガイトのソウルがヘルソルジャーから人間に戻したってこと? 」
「そう、それだ! 光のソウルが効果を発揮したんだ」
「なるほど、有り得ない話じゃない」
しかし、フウトは首を縦には振らなかった。
「だが、そうでないかもしれない。今もこうしてボク達の隙を伺っているのかもしれない」
彼の言う通りだ、そうでない可能性もある。それが事実だったら最悪オレ達が全滅することもあり得るのだ。
「……それなら私が彼女を連れていく。ガイトは念のために私の剣を持っていて」
そう口にして彼女はオレに剣を手渡すと彼女を抱きかかえようとする。
「確かに、それなら武器を奪われる心配もないか」
フウトがようやく首を縦に振った。
「だが、それでは洞窟内を照らせない、ボクが彼女を運ぼう。ガイト、ボクの剣を持っていてくれ」
「ああ」
フウトから剣を受け取ると今度はディーネに剣を返す。
「ありがとうな」
「……うん」
彼女が小さく頷くと再び剣に炎を灯すと砕かれたネックレスが姿を現した。ペンダント部分が砕かれているだけで見た目はただのネックレスだ。
でも、重要な手掛かりになるかもしれない。
ネックレスを拾い上着のポケットに押し込むと背後から警戒しながら炎に照らされたリラさんを見る。思えばこのボロボロの服はサタンにヘルソルジャーにされた時から身に着けているのだろうか? 服も与えられずひたすらサタンのために戦わされるだなんてそんなことをする資格があるのだろうか?
怒りがこみ上げ拳を握りしめる。サタンの復活なんてさせない。だけどあえて復活させてオレが葬るのも……
「どうやら倒したようね」
ジェシーの声にハッとする。もう出口に着いていたようだ。
「ああ、ガイトのおかげでな」
「やるじゃない、ところでその手に抱いているのって……」
彼女が震える指で眠っているリラさんを指さすのでオレはディーネがフウトにしたのと同じ説明をした。
「なるほどね、それでどうするの? 」
「どうって今説明した通りでヘルソルジャーかどうかは」
「そうじゃなくて、人間だったとしてどうするの? カルロスさんを含めて大勢の剣士に手をかけたのよ? 」
「それは……」
言葉に詰まる。そうだった、人間に戻ったのだとしても彼女は大勢の人を手にかけた殺人犯だ。
何の罪もない人を手下にして戻しても尚苦しめるなんて……
唇をかみしめる。
「賭けの相談があるんだけど、良いかな」
そう切り出すとオレはリラさんが盗み聞きをしている可能性も考えて三人に耳打ちをした。