「バディ結成」
「それじゃあ、バディ登録に行ってくるよ」
「……うん」
早速バディ登録のために正反対の位置の教卓にいる教師のところへ向かおうとディーネに背を向けるも立ち止まる。
……待てよ、オレ一人で行って信じてもらえるのか?
考えてみれば当然の疑問だった。今やオレはこのクラスのはみ出し者である。そのオレがこんなに早くバディを見つけた等という話を信じてくれるのだろうか? 口から出た出鱈目とか大人しいのを良いことに無理強いしたとか疑われないだろうか?
「悪いけれど、付いてきてくれないかな? 」
「……え、一緒に? 」
キョトンとしている彼女にオレは先ほどの懸念を説明する。
「……なるほど、そういうこともある……のかな? 」
「考えすぎかもしれないけれど……頼む」
「……わかった」
そういうと彼女は自身のバッグを手に取りスッと立ち上がった。
「え、ウソだろ。何であんなかわいい子があいつと」
「……信じられない」
彼女と横一列で歩いているとそんな風に視界に入った生徒たちがオレが早くもバディを見つけたことか彼女の容姿をみてかざわつき始める。町で行われるようなパレードのような状況に思わず足を止めそうになるも止まっても何もいいことはないのでスタスタと彼らを通り過ぎていく。すると目の前に1人の男が立ちはだかった。先ほど自慢気に成績1位だと語っていたバーンという青年だった。
「おやおや、アローさんを倒した優等生様はデート感覚で大会に望むらしいな、良いよなあ才能に恵まれたお方は。あれ? でも『ソウル』はないんだっけ? なら才能はないのか! 思い出作りにデートってことかハッハッハ! 」
「出るからにはそうはならないようにしたいけれど、対戦することになったらその時はよろしく」
見るからにプライドの高そうなタイプだったので「その通りなんですよ」と卑下するように答えようとも考えたけれど、それはバディを組んでくれたディーネに失礼だと感じ無難にそう答えてスタスタと横を通り過ぎようとするもスッと伸ばされた右手に遮られる。
「はっ、何代も『フレイム』では名の通ってる家系のこの俺様が舐められたものだ。俺様が『フレイム』を使えば貴様なんて一瞬で消し炭にすることができるんだぞ」
「バーン君、例え事実だとしても言って良いことと悪いことがあります」
と教師が含みを込めて注意を促すとこちらへと視線を向ける。
「それで、この状況を見ると貴方達はバディを組むようだけれどディーネさん。貴方はガイト君とでいいのかしら? 」
その一言が合図となった。
「それならディーネさん。そいつと組むくらいなら俺と組まない? 」
「いやいや俺と」
「『ソウル』が使えない人と組むなんて自分が対抗戦に出たいって魂胆見え見え」
「まあ嫌らしい女」
次々と室内に声が響き渡る。なんということだろう、先ほどと状況が一変してたちまちディーネは大勢の男性生徒からバディを申し込まれるという選び放題な立場となってしまった。さらには彼女のバディ変更を後押しするような女性生徒のヒソヒソしていない会話、これは後のディーネの学校生活を考えると変えざるを得ないだろう。
……参ったなあ。とはいえ彼女を無理に巻き込むわけにもいかない、仕方がないか。
困惑しながらも彼女の肩にポンと手を置き暗に「変更してもいいよ」と示そうとした時だった。
「……はい、私は……ガイトさんとバディを組みます」
皆が呆然とする中ディーネは教師を見つめて力強く、はっきりとそう告げる。
「わかりました、それではガイトさんとディーネさんのバディ登録を認めます」
「……行こ、登録が終わったら寮に向っていいって」
クラスメイト同様呆然としていたオレは彼女に右手を掴まれ引っ張られようやく我に返る。
「えーと、オレでいいの? 」
「……うん、ガイトがいいの。そう……決めたから」
振り向かずにそう答える彼女の後姿をみて良い娘だなあ、と思った。