「救援要請」
クラゲが出現し水泳トレーニングは中止となった夏休み最終日、オレ達は日課となっている学園の施設を使用して修練をしようと学園へと向かう。
「お待たせ」
「……今来たところだから」
柱の側で待っていたディーネが微笑む。いつも待ち合わせ時間より早いので五分位前に来ているのかと推測しきっちり五分前に到着したというのにもういることに面食らう。
「それじゃあ行こうか」
一体何分前からいるのだろう? とは尋ねられず代わりにそう口にすると歩き出す。いつも通り寮長に見送られながら学園へと向かう。修練ならば寮でも出来るのだけれどこうして学園まで出向くのには理由があった。
一つはこうして学園まで歩くことで気分転換になること、もう一つは……
「あら、おはよう。早いわね」
ジェシーと学園前でばったりと出くわす。
「……おはよう」
「おはようって集合時間より一時間も前に……早すぎるぞ」
「あら、そういうお二人はどうしてこの時間に? 」
痛いところをつかれて口を閉じる。そう、もう一つはこうしてジェシーにフウトと合わせて四人で一緒に修練をしているからだ。とはいえ学園が使用できる時間は限られているため待ち合わせよりも早く来て広い施設で二人で悠々自適な修練を……と考えていたのだ。
「学園の使用時間は限られているのだから早めに着いて修練をしておこう。という考えはどうやら正解だったようね」
彼女が勝ち誇ったように言う。どうしてこう考えることもタイミングも同じなのだろう。
「となるとフウトも……」
こうも考えが似通っているとフウトだけ集合時間通りに到着ということはなさそうだ。もうそこらに来ているのではないかとキョロキョロと辺りを見回すが彼の姿はない。
「……いないみたい」
「彼にしては珍しいわね。もしくは既についていたりして」
「確かに」
「……ありそう」
「そうと決まったら修練場まで駆け足……はまずいから早歩きだ! 」
そう口にして足に力を入れた時だった。
「ガイト君だね 」
不意に声をかけられて振り向くとそこにはフウトと銀の鎧に身を包んだ男が立っていた。
「フウト、この人は……? 」
「ボクもさっき出会ったんだが騎士団の方らしい」
「騎士団! ? 」
驚き目を見開く。この人が騎士団の人? でもどうしてわざわざオレに……?
「僕はカルロス。ガイト君、君に頼みがあるんだ」
「頼み? 」
カルロスさんがオレの肩を掴む。
「そう、念のために一緒に来てほしい」
「オレがですか? 」
話が見えない。まだ一期生であるオレが誘われる理由といえばソウルが関係しているのだろうか? でもそれがなんだというのだろう? 人体実験でもされるのだろうか? いやそれだと念のためというのは……
「ゴホッ……私の生徒達にどういったご用件でしょうか? 」
見知らぬ人が敷地内に来たのを見ていたのだろうか? メイソン先生が姿を現す。しかし風邪をひいているのだろう声がいつもよりかすれている。
「いや、これは失礼……ん? 」
カルロスさんが先生を見て固まる。次の瞬間彼は大きく声を張り上げた。
「メイソンじゃないか! 」
「カルロス君! ? 」
それに応えるかのように先生も驚きの声を上げる。
「お知合いですか? 」
「ええ、カルロス君は私と同じ去年ここを卒業した同期生よ」
「ということは同窓会のお誘い……というわけでもなさそうね」
「鋭いねお嬢さん、我々の間でも噂の光の剣士の力をお借りしたくてね」
「どういうことかしら? 」
「実は今、大変なことになっていてね」
声を潜めて喋り始めるカルロスさんはハッとしてディーネ達を見る。
「すまないが、ここから先は三人だけで話させてくれないか? 」
「そうですか、では私たちはこれから予定を変更してショッピングでもしましょうか。この件についてゆっくりと話しながら」
「そ、それは……」
ジェシーの指摘は彼が困惑したのをみると一気に距離を詰めて「御心配には及びません、まずは話を聞かせてもらうだけですから」と微笑んだ。
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人目につかないところで話をという提案を受けオレ達六人は教室へと向かった。
「カルロス君、ここなら盗み聞きの心配もないと思うけれどどうかしら? 」
「ああ、ありがとう。問題ないよ」
そう、口にしながら彼はジェシーをちらりと見る。
「とにかく本題に入ろう。ガイト君に来てほしいんだ」
「何のために? ガイト君は一期生よ」
「確かにそうだ。でも光の剣士でもある、彼の力が必要になるかもしれない」
「ということは……」
「ヘルソルジャーが存在するのかもしれない」
彼はきっぱりと口にした。